イノベーションと報酬体系
SmartTimes インディゴブルー会長 柴田励司氏
日本の報酬水準は本当に低い。2020年の経済協力開発機構(OECD)の調査によると3万8515ドル、36カ国中23位だ。ちなみに1位は米国で6万9392ドルだ。お隣の韓国は4万1960ドルで日本よりも上位である。

初任年収で比較するともっと顕著だ。ウイリス・タワーズワトソンの調査では日本の大卒初任給の平均は262万円で、アメリカは632万円、ドイツは534万円だという。このままでいくと今後日本の相対的な位置づけはもっと下がりそうだ。
成長カーブを新たに立ち上げることができる人材を「0から1を生む人材」「1をN倍にする人材」と私は定義している。現状ではこうしたイノベーションを起こす人材が報われない。
多くの企業は社員が格付けされているグレードごとに評価結果別の昇給率を決める。昇格でグレードが変わると基本給そのものを少しだけジャンプアップさせる。役職に就くことで手当を加算する。評価結果にかかわらず、若手層を中心に毎年少額の昇給をする。
この仕組みはルールに従って昇給させるので会社側からするとやりやすい。社員にとってもわかりやすい仕組みだ。一方で突出したパフォーマンスをあげている人であっても、その報酬は一定範囲の中に抑えられてしまう。
ここに「公平な処遇」という呪縛がある。呪縛からプロパー人材には突出した金額の提示をしないが、社外のイノベーション人材には例外として突出した報酬金額を提示する。これに不満を覚える社内のイノベーション人材候補が離脱することになる。
一方で、他社から鳴り物入りで高額採用した人であっても、短期間で結果をだせず早期に離脱するケースも少なくない。これは受け入れ側にイノベーション人材が活躍できる土壌がないからである。
新会社をつくり、イノベーション人材が活躍できる環境にし、転籍してもらう。または業務委託契約をする。新会社では全く違う報酬ルールで処遇する。例えば社員の実力により年収600万、1200万、1800万円の3つのグレードをつくる。基本年俸はこの3種類だけとする。これに業績賞与を加算する仕組みにする。
業績賞与はあらかじめ定めた経常利益額を超える利益を創出した場合に、その超過分を一定の基準で社員に還元する仕組みにする。こうして、イノベーション人材の活躍により、企業の収益性を高め、それを原資に全体の底上げをする。その底上げも3%などではなく2けた規模でやる。
この集団とイノベーション人材の集団を分けて処遇する仕組みにしないと現状は変わらない。「公平な処遇」という呪縛からの脱却。それが日本の報酬水準の引き上げにつながると私は考えている。
[日経産業新聞2022年2月18日付]
