伊藤忠の今期、最高益へ 大手商社、脱炭素・非資源に力
伊藤忠商事が業績拡大のピッチを上げる。10日出そろった総合商社大手5社の2022年3月期の連結業績見通しでは過去最高益の更新を見込む。注力してきた機械や情報・金融、小売りといった非資源分野が貢献する形だ。三井物産など残る4社は資源分野で稼いだ豊富な手元資金を振り向け、脱炭素や非資源分野といった収益源の育成を急ぐ。

「新型コロナウイルス禍を乗り越え、成長軌道に戻る年にする」。伊藤忠の石井敬太社長COO(最高執行責任者)は10日のオンライン会見で力を込めた。22年3月期の純利益(国際会計基準)は前期比37%増の5500億円と、2年ぶりに過去最高の更新を見込む。
けん引するのは非資源分野だ。デジタル需要を背景にIT(情報技術)子会社が伸び、食料事業や子会社のファミリーマートなどが幅広く回復する。こうした非資源分野は21年3月期決算も下支えした。コロナ禍のなかで純利益は4014億円と前の期比20%減に踏みとどまり、16年3月期に続いて2回目の業界トップに躍り出た。
伊藤忠は市況に左右されにくい生活消費関連事業の育成に注力し、大手5社の中で先行して拡大してきた。利益に占める資源分野の比率は3割弱にとどまり、約6割に達する三井物産などに比べて低さは際立つ。
脱・資源依存は今後も加速する。決算と同時に発表した24年3月期を最終年度とする新しい中期経営計画では、脱炭素社会を見据え、蓄電池や再生素材など新事業の拡大を掲げた。純利益目標は6000億円と、今期見通しから500億円の上積みを目指す。

一方、他の大手4社の22年3月期は業績が回復するが、資源価格の高止まりという恩恵を受けている面が大きい。
三井物産は鉄鉱石や原油・ガス開発がけん引し、純利益見通しは前期比37%増の4600億円。丸紅は石油・ガスの開発やトレードを手掛けるエネルギー事業で37%増益を見込む。主力の天然ガス事業や原料炭が打撃を受けた三菱商事も純利益が前期の2.2倍と急回復、資源価格の水準次第では上振れする可能性もある。
業績回復が資源価格に依存しているため、各社に楽観ムードは漂っていない。三井物産の堀健一社長は「鉄鉱石価格は歴史的な高水準にあり、中期的にはもう少し安い通常時の価格に向かう」と気を引き締める。三菱商事の増一行最高財務責任者(CFO)も「現在の銅価格は投機的な水準で、続くと考えていない」と慎重だ。
このため、各社は伊藤忠の背中を追う構えを強めている。デジタルや脱炭素、医療といった分野を中長期的な成長領域に据え、資源分野で稼いだ豊富なキャッシュ(現金)を振り向ける。
住友商事は10日に詳細を公表した24年3月期までの中期経営計画で、資源高に頼らない増益方針を示した。3年間で計1兆1000億円程度の投融資を実施し、「再生可能エネルギー関連や国内不動産への投資を拡大していく」(兵頭誠之社長)という。三井物産はインドネシアの新興財閥CTコープの持ち株会社が発行する円建て転換社債1000億円を引き受けるなど、手薄だった金融やメディア領域への参画を広げる。