ソニーのロボット「toio」 遊んでプログラミング学習

家庭用ゲーム機「PlayStation(プレイステーション)」のハードウエア・ソフトウエアの企画開発・製造販売を手がけるソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、SIE)が2019年3月に発売したキューブ型ロボットトイ「toio(トイオ)」。小さなキューブをゲーム感覚で動かし、遊びを通じてプログラミングを体験でき、論理的思考力や創意工夫する力を育む知育玩具だ。「遊びを通じて」というところがソニーらしさで、ICT(情報通信技術)教育支援ツールとして高く評価され、各地の教育現場へ導入が進んでいる。
19年に開催したtoioの公式イベントの参加者は延べ1万6000人を超えた。21年4月にはSIE自らビジネスチャットツールの「Slack(スラック)」に公式コミュニティーの「トイオ・クラブ」を開設した。様々な立場の一般のユーザーやクリエイター同士の交流、作品の紹介ができる場を提供している。誰でも無料で参加が可能で、10月末時点での参加者は約500人に上っているという。

長く使えるから愛着が湧く
toioは「toioコンソール(以下、コンソール)」「toio コア キューブ(以下、キューブ)」「toio リング(以下、リング)」の3つで構成。コンソールに別売りの専用タイトルのカートリッジを差し込めば、手軽にいろいろなゲームを遊べる。モーターを内蔵した2台のキューブは、「レゴ」のブロックなどを組み合わせれば自分だけのロボットになる。キューブの動きを制御するコントローラーであるリングを使って、複数人でロボット対戦もできる。
別売りの専用タイトルを用意している





さらに中級、上級編も用意されている。ビジュアルプログラミングをしたい人には、「サンプルプログラム」を使ってゲームを作れるアプリ&サービスを用意したり、キューブの技術仕様を公開したりしている。クリエイターやアーティストは複数のプログラミング言語や対応する製品を使って自分だけの作品を制作できるなど、ユーザーのレベルに合った遊びを探求できるので、単なる知育玩具の域を超えているといえそうだ。
開発者の一人、SIEのtoio事業推進室課長の田中章愛氏は、「最初から教材としては作らなかったからこそ、遊びの体験として長く使え、いろいろな遊びに発展できる」とtoioの特徴を説明する。田中氏はかつてNHK主催の「学生ロボコン」の全国大会などに出場した実力の持ち主で、社内でもロボットに関する研究開発に携わってきた。
ユーザーのレベルに応じて楽しめるので長く使える。こうした特徴が教育の現場でも追い風となっているようだ。産官学のICT教育に力を入れる千葉県流山市では21年7月から東京理科大学、SIEなどの協力を得て、市内の公立小中学校4校にtoioの試験導入を始めた。同市の学校教育部の指導課は採用した理由を、「小学校から中学校までの9年間で1人1台、一貫して同じものを使える。そういったものがあると子供たちの教育に効果的だろうと思った」と話す。
発売までにかかった開発期間は約7年。田中氏がソニーコンピュータサイエンス研究所(東京・品川)の研究者だったアレクシー・アンドレ氏と出会い、話し合ったことから研究が始まり、映画やゲームの画面の中のようにロボットが動く遊びを、現実空間でつくり上げることを目指した。
「楽しい」が学びの原動力
キューブの下に敷いて使う専用マットには、人間の目には見えない模様が印刷されており、その模様をキューブの底面にあるセンサーが読み取る。これによりキューブは今、自分がどこにいるか、「絶対位置」をリアルタイムに検出できる。キューブが互いの位置を正確に把握することで、対戦や協調などインタラクティブな遊びが実現するのだ。
開発においては様々な技術的課題に悩まされたが、16年にソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」に合格し、商品化につながった。
「好奇心や『楽しい、好きだ』という気持ちが、学びの原動力だと思う。それを製品の形で盛り込んでいる」(田中氏)

(ライター 丹野加奈子、写真提供 ソニー・インタラクティブエンタテインメント)
[日経クロストレンド 2021年12月2日の記事を再構成]
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。