苦境の地方百貨店、東京デパ地下から新幹線で弾丸配送


早朝の東京駅。新幹線のホームに段ボール箱を満載した台車が待機していた。中に入っているのは、明け方に調理されたばかりの東京の人気デパ地下グルメ。「なだ万厨房」や「日本橋弁松総本店」といった名店の一品だ。
午前6時過ぎ、秋田へ向かう1番列車の「はやぶさ・こまち1号」が入線した。最大時速は320キロメートル。東京駅を出発すると約4時間で秋田駅に到着する。ドアが開くと、2人の係員が手早く車内に段ボール箱を運んでいく。この日は、後続の「こまち5号」「こまち11号」を合わせ、計8ブランド26種類の商品が新幹線で運ばれた。商品は合計で870点にも上る。
これらの商品は秋田駅で荷下ろしされ、駅前の西武秋田店(秋田市)に運ばれる。特設会場に並べられた東京のデパ地下グルメは、昼のピーク時間に合わせて午前11時半から販売される。現在は弁当などが中心だが、季節ごとに商品の入れ替えを検討中だ。12月には東京の人気店のクリスマスケーキを販売する予定だという。
東京発・地方行きは珍しい
「東京のデパ地下グルメを秋田で買いたい」
西武秋田店には、かねて顧客からそんな要望が届いていた。本社で対応を検討した際に目をつけたのが、JR東日本グループの新幹線配送サービス「はこビュン」だった。

同サービスを担うジェイアール東日本物流(東京・墨田)によると、新幹線を使った配送便は2017年から実証実験として始まった。利用の多くは地方から東京に向けて、採れたての野菜や鮮魚を運ぶ依頼だったという。
東京から地方への販路は珍しく、東京ー秋田間の新幹線による定期輸送は、そごう・西武の取り組みが初めてとなる。ジェイアール東日本物流の担当者は「今回の取り組みは、東京と地方の両拠点で店舗を持つ百貨店ならでは」と話す。
商品価格は東京と変わらず
来場者の反応はおおむね好評のようだ。「秋田ではなかなか食べられないものが多くてうれしい」といった声だけでなく、「東京で暮らしていた時に食べていた商品が買える」といった声も聞かれたという。
そごう・西武は新幹線による輸送コストは商品に上乗せしない方針だ。利益率は下がるものの、「地方店の来客数を増やすことで効果を出したい」との思惑があるからだ。

人口減少や生活様式の変化によって地方の百貨店は苦しい状況に追い込まれている。西武秋田店も併設していた食品スーパー「ザ・ガーデン自由が丘・西武」を21年2月に閉店。同年3月には3階を丸ごと閉鎖して、地下1階~2階での営業に切り替えるなど、売り場縮小が止まらない状態だ。
そごう・西武の親会社であるセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長は、22年4月の決算会見で「売却も含めて検討している」と表明した。地方だけでなく、都市でも採算の取れない店舗の縮小や撤退が続くなか、東京発の地方支援策は業績改善の一助となるだろうか。
(日経ビジネス 藤田太郎)
[日経ビジネス電子版 2022年6月7日の記事を再構成]
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