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Suica20周年 JR東日本、新型カードを地方バス会社へ

日経ビジネス電子版

改札機にタッチするだけで鉄道に乗れ、店舗での買い物などでも使えるICカード「Suica(スイカ)」が20周年を迎えた。発行枚数は2021年9月末時点で約8759万枚にも及ぶ。しかし、本格的に普及しているのは首都圏、仙台、新潟に限られており、地方都市での存在感は意外に薄い。JR東日本は「Suicaの共通基盤化」を掲げ、新型カードを開発。鉄道だけでなく地方のバス路線で利用できるようにし、非接触決済におけるプラットフォーマーへの脱皮を図り始めた。

盛岡市では「iGUCA(イグカ)」、秋田市では「AkiCA(アキカ)」、山形市では「cherica(チェリカ)」――。22年春、東北地方を走るバス路線に相次いでICカードが導入される。名称はバラバラだが、共通している点が1つある。それは券面に小さく「Suica」のロゴが入っていることだ。実はこれらのカードの仕掛け人はJR東日本だ。

JR東が首都圏エリア424駅でSuicaのサービスを開始したのは01年11月。21年で20周年を迎えた。Suicaの発行枚数は21年9月末時点で約8759万枚もあり、Suicaの技術をベースとし、相互利用できる全国10の「交通系ICカード」を合わせると発行枚数は2億枚を超えている。単純計算すると、国民1人当たり1枚以上普及していることになる。

Suicaをはじめとする交通系ICカードは、切符を買って鉄道に乗るという長年の利用スタイルを過去のものとした。さらに電子マネーとして店舗での支払いにも使え、現金払いが主だった少額の買い物でもキャッシュレス決済する人を大幅に増やした。

もっとも、そういった風景が当たり前になったのは、首都圏をはじめとする都市部に限られている。JR東でSuicaが使えるのは首都圏、仙台、新潟の3エリアだけ。全国的に見ても、交通系ICカードが導入されているのは政令市を中心としたエリアだ。JR東の深沢祐二社長は「使えるところが限られているのが課題だ」と話し、18年に策定した中期経営ビジョン「変革2027」で「Suicaの共通基盤化」を掲げた。鉄道利用に限らず、多様な移動手段や金融決済事業と連携し、生活のあらゆる場面でSuicaが使えるようにしようという構想だ。

その1つが冒頭で紹介した「地域連携ICカード」と呼ばれるSuicaの派生カード。一体、今までのSuicaと何が違うのだろうか。

読み解くヒントは、Suicaとは別の名称が与えられているところにある。JR東のMaaS・Suica推進本部で地域連携ICカードを担当する、Suica共通基盤部門 交通システムグループの六田崇氏は「カードの記憶領域を2つに分割し、Suicaにはない割引やポイントサービスなど独自機能を搭載できる」と、これまでのSuicaとの違いを説明する。

現在発行されているSuicaの券面には、ペンギンのキャラクターが描かれている。だが01年当初はペンギンではなく「io」のロゴマークが入っていた。これは、JR東の首都圏の路線で、自動改札機に直接投入して使える磁気式プリペイドカード「イオカード」と同じ機能であることを示すもの。イオカードには1000円券、3000円券、5000円券の3種類があったが、回数券のように額面よりも多く利用できるものではなかった。これを引き継いだSuicaも、乗車した区間ごとの運賃を引き落とす機能しか持っていない。

21年3月からSuica定期券で時差通勤するとポイント還元される「オフピークポイントサービス」や、同じ金額の区間を月10回以上使うとポイント還元される回数券のような「リピートポイントサービス」が始まったが、これはJR東日本の共通ポイント「JRE POINT」との連携によるもの。Suicaのカード単体で割引サービスやポイントサービスはできない。

鉄道ならそれでいいが、バスではそうはいかない。バス会社で広く普及している磁気式プリペイドカードは紙の回数券の代替手段と位置づけられており、1000円券で1100円分使えるなど割引されていることが多い。さらに多様なニーズに応えるため、昼間時間帯だけ使える割引率の高いカードや、自治体の負担で大幅に割り引く高齢者専用カードなどもある。これらをICカードで実現するためには、料金引き去り時に数%割り引いたり、逆にポイントを付けたりといった機能が不可欠になる。

独自カードを導入せずとも割引・ポイントサービスに対応

「これまで、割引やポイントサービスを実施するためには、独自のICカードを作るしかなく、そのコストが地方のバス事業者での導入が進まない最大の壁になっていた」と六田氏は語る。

例えば福岡市では、交通系ICカードとしてJR九州の「SUGOCA(スゴカ)」、西日本鉄道の「nimoca(ニモカ)」、福岡市地下鉄の「はやかけん」の3つがある。相互利用できるものの別々のICカードとなっているのは、09年の導入当時、各社で実現したい割引・ポイントサービスが異なっていたからだ。そのうちの1社であるJR九州の青柳俊彦社長は「サーバーの維持・更新コストが莫大で、3つの事業者で統一できないか勉強しているところだ」と話す。

JR九州のような大企業でもそうこぼす。ましてや行政からの補助金がなければ経営が成り立たないといわれる地方のバス業界が、独自カードを導入するのは困難。この問題を解決できればSuicaの普及がより進むと考え、地域連携ICカードは開発された。ベースはSuicaなので、残高の管理に関してはJR東のサーバーが使える。初期導入コストは運賃箱に取り付ける読み取り機などに限られるのでコストが大幅に抑えられるという。

一方、JR東にとってはシステム使用料が得られるメリットがある。さらに、地方都市でSuicaが普及すれば、店舗などでの支払いでの利用が増えて決済手数料収入の上昇も見込める。JR東の鉄道と駅ナカなどでの利用が中心だったSuicaのビジネスが、これまで以上に街中へと広まるきっかけになるわけだ。

「独自カードを導入するよりもコストが抑えられるため、バス事業者からはこういったサービスを待っていたという声をよく聞く。新型コロナウイルス禍で、非接触決済への行政支援が増えていることも追い風だ」(六田氏)。例えば22年春にチェリカを導入する山形県の資料によると、読み取り機の導入費用はバス1台に付き230万円、システム使用料は年間で最大170万円、さらに通信費などが1台に付き年間10万円ほどかかる。国が導入費用の3分の1、さらに山形県が5億7000万円を負担することで、バス事業者の負担は大きく軽減されるという。

すでに21年3月から宇都宮市周辺で「totra(トトラ)」、盛岡市周辺で「Iwate Green Pass(岩手グリーンパス)」の利用が始まった。22年春には群馬県、青森県、秋田県、山形県でもそれぞれ利用が始まる。その他のJR東エリアのバス会社では10年前後に独自のICカードが導入されているケースが多いが、あと数年で設備更新の時期を迎える。「地域連携ICカードへの切り替えのきっかけにしていきたい」と六田氏は意気込む。

もっとも、この商機を狙っているのはJR東だけではない。ビザ・ワールドワイド・ジャパン(東京・千代田)と三井住友カード(東京・江東)は地方交通機関にクレジットカードの非接触決済を売り込んでいる。京都府と兵庫県を走るローカル鉄道・京都丹後鉄道が導入し、南海電気鉄道も実証実験中。バスでは運賃が高い高速バスや空港連絡バスを中心に導入が進んでいる。

現在はVisaブランドだけの対応だが、23年にはJCBやMastercardなども利用できるようになる予定。テレワークの進展で定期利用が減少しており、地域外からの利用を取り込むためには、国内はもちろん海外でも普及しているクレジットカードの非接触決済が強みになるとにらむ。

システムそのものがコスト高との声も

さらに、ある地方の交通事業者は「交通系ICカードは日本独自の規格なのでカードの発行費用も読み取り機の導入費用も高い。汎用端末があり、すでに発行されているクレジットカードを活用したほうが割安だ」と話す。決済手数料はクレジットカードのほうが高めというが、利用客数が少ない地方では、導入コストのほうが重荷になるというわけだ。

JR東も対応を急ぐ。23年春以降にSuicaの利用を開始する青森県、岩手県、秋田県の44駅では、新たな改札システムを導入する予定だ。01年当時は通信速度が遅く、200ミリ秒(0.2秒)という短時間で残高を引き去るためには改札機自体で処理するしかなかった。しかし通信速度が上がり、新システムではクラウド上で計算するように変えるという。新たな機能などを柔軟に追加できるようなるほか、改札機のコスト低減も見込まれる。

JR東のIT・Suica事業の営業収益(外部顧客への売上高)は529億円(21年3月期)。連結営業収益1兆7645億円(同)のなかに占める割合はわずかで、セグメントでは「その他」扱いだ。しかし社長の深沢氏は「これだけでセグメントができるくらいの規模にはしたい」と話す。交通という得意分野を足がかりにして、決済のプラットフォーマーになれるかどうか。地域連携ICカードの広がりはその試金石になる。

(日経ビジネス 佐藤嘉彦)

[日経ビジネス電子版 2022年1月7日の記事を再構成]

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