空からのインターネット、戦時で注目
奔流eビジネス(D4DR社長 藤元健太郎氏)
かつて湾岸戦争はミサイルの飛び交う様子がテレビで生中継された戦争として「テレビゲーム戦争」と呼ばれた。今回悲しいことにロシアによるウクライナ侵攻が深刻さを増し、一般市民までもが現地からSNS(交流サイト)で戦争を中継するまさに「スマホ戦争」と呼べるような状況が生まれている。
ウクライナのゼレンスキー大統領が自撮りした動画で国民を鼓舞する一方で、たくさんのフェイクニュースも生まれているようで、本当の情報が何かを判断するのがとても難しい、まさに「情報戦」にもなっている。

「スマホ戦争」においてはインターネットインフラがとても重要になるが、イーロン・マスク氏が自社で展開する衛星インターネットサービス「スターリンク」の端末を支援物資としてウクライナに送ったことが話題になった。地上のインターネット回線が攻撃で切断されても、回線の無い山奥に逃げ込んだとしても、衛星を活用しているのでインターネットが使えることがメリットになる。
これまで1700基を超えるスターリンク衛星が、スペースX社によって打ち上げられており、すでにβサービスがスタートしている。スペースX社はロケット開発の会社でもあるが、宇宙インターネットサービスを提供する会社でもあり、宇宙ビジネスをけん引している。
ロシアではウクライナ侵攻を巡って、情報統制としてフェイスブックやツイッターなどのSNSへのアクセスを制限していると報じられている。しかし、こうした衛星を活用したインターネットは情報統制をすり抜けられる可能性がある。今後普及すると、情報統制をしたい権威主義国家を困らせるかもしれないサービスになる可能性があるのだ。
国連の国際電気通信連合(ITU)によると、インターネットを一度も利用したことがない人々は29億人いるという。まだまだ通信環境が整っていない地域もたくさんある。そうした地域へはこうした衛星インターネットに加えて、低軌道の上空に太陽電池で飛び続ける無人のドローンや気球などの中継基地を使う計画も存在する。
まだまだ実験の域を出ないが、空を使うインターネットが低コストで実現すれば地球全体としてのインパンクトは大きい。

例えば、学校の整備が進んでいないアフリカなどの発展途上国で子供たちの通える範囲に校舎を建てて、先生を育成することを考えたら、低コストのスマホ端末を全員に配布する方が安いかもしれない。何しろスマホ一台さえ手に入れば今は世界中のあらゆる知識に瞬時にアクセスすることが可能になる。ハーバード大の最高の授業も受けることができる。
小さい時から膨大な知識から自分に必要な知識を学ぶ力を身に付け、世界中の人たちとコミュニケーションできる子供たちを育てることこそが実は世界平和のためには一番重要なことかもしれない。フェイクニュースを見極めることや対話や議論ができるデジタルネーティブな子供たちを育てるインフラとしても「空からのインターネット」は人類の新しいインフラになる可能性を秘めているのだ。
[日経MJ2022年3月11日掲載]