三菱重工、国産ジェット旅客機撤退を発表

三菱重工業は7日、国産ジェット旅客機の事業で開発を中止すると発表した。事実上の撤退となる。2020年秋に「三菱スペースジェット(MSJ)」の開発を事実上凍結していた。日の丸ジェットの実現に累計で1兆円の開発費を投じたが、納期を6度延期するなど空回りが続いた。新たに巨額資金を投じても事業の採算性を確保するのが難しいと判断した。
同日、記者会見を開いた泉沢清次社長は「事業性などを検討してきたが開発を再開するに足る事業性を見いだせなかった」と話した。
MSJは08年に事業化が決定した。当初は「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の名称で90席クラスの機体として開発が始まった。民間企業の主導で日本の航空機産業の育成を目指す一大プロジェクトだった。1962年に初飛行した「YS-11」以来になる国産旅客機の開発だった。日本の航空機産業を育成する官民肝煎りのプロジェクトとして経済産業省も500億円を支援していた。
2013年にも最初の顧客である全日本空輸への納入を予定していた。技術力の不足などでトラブルが相次ぎ6度も開発期限の延期を余儀なくされた。当初1500億円としていた開発費は1兆円規模に膨らんだ。20年秋、開発を事実上凍結した。その後も商業運航に必要な型式証明(TC)取得に向けた作業を続けてきたが、22年3月には試験飛行をしていた米国ワシントン州の拠点を閉鎖するなど縮小を進めていた。

全日本空輸と日本航空を含む国内外の航空会社からの約270機の受注残を抱える。最初の顧客である全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスの芝田浩二社長は「残念だが苦渋の判断。深く敬意を表する」とコメントした。今後は受注客への補償問題が焦点となるが、泉沢氏は会見で「個別対応でコメントできない」とするにとどめた。
新型コロナウイルス禍から航空市場が回復した後も、座席が100未満の小型ジェット旅客機「リージョナルジェット」市場の成長は見通せないと判断したとみられる。三菱重工は今後は日本と英国、イタリアの3カ国で35年の配備に向けて次期戦闘機の開発をめざしている。国産ジェット機の開発で得られた知見などを生かしていく。
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