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ウォルマート、成長機会は「店の外」へ EC・広告強化

CBINSIGHTS
米ウォルマートが電子商取引(EC)や自動配送など「店舗外」で投資や提携を強化している。カナダのショッピファイなどと連携して品ぞろえを拡充しつつ、ライブコマース(動画による通販)、バーチャル試着といったオンラインならではの購買体験技術を開発する企業と連携。物流面ではロボット技術などの企業と組み、自動配送やドローン配送を始めた。ECの規模拡大と収益性向上を進め、同社の強みである「エブリデー・ロープライス(毎日低価格)」を維持している。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ウォルマートは小売業の世界最大手で、24カ国に1万500店余りを展開し、売上高は年5000億ドル(約68兆円)を超す。実店舗を通じ日用品を広く低価格で販売する「EDLP(エブリデー・ロープライス)」を掲げて成長を続けてきたが、近年はECや自動配送といった店舗以外の分野で、投資や提携を強化している。

今回はCBインサイツのデータを活用し、ウォルマートの最近の買収・出資・提携から6つの重要戦略を整理した。

・自動配送

・デジタル広告テック

・ECの品ぞろえ拡充

・ECのマーチャンダイジング(販売政策)

・フルフィルメント(受注・配送管理)&配達テック

・医療へのアクセス

ウォルマートが重視する分野は関連している。EC事業は長い間赤字だったが、ここにきて売上高に占める割合が急拡大しているため、ECの効率と収益性を高めるテクノロジーが必要になっている。

自動配送

ウォルマートはECの物流を迅速かつ効率化するテクノロジーを重視している。特に2021年以降力を入れるのが自動配送だ。

21年に自動運転技術の米クルーズ・オートメーション(Cruise Automation)に2度にわたって出資した。米フォード・モーター、自動運転技術の米アルゴAI(Argo AI)との提携も発表し、米フロリダ州マイアミ、テキサス州オースティン、ワシントンDCで自動配送サービスを開始した。

21年末には米ガティック(Gatik)の自動運転トラックを使って、アーカンソー州の配送センターと店舗を結ぶルートで、運転手を同乗させずに完全自動配送すると発表した。

非接触の配達への関心の高まりを受け、ドローン(小型無人機)テックへの投資も増やしている。20年には米ドローンアップ(DroneUp)と組み、ラスベガスとニューヨークで、自宅用の新型コロナウイルス検査キットを配達した。21年6月にドローンアップの少数株を取得すると、11月には提携し、複数地域でドローンでの商用配達を始めた。

デジタル広告テック

広告ネットワークの構築も、新たな収益源の獲得に向けて力を入れている分野だ。21年1月にメディア事業の名称を「ウォルマート・コネクト(Walmart Connect)」に変え、消費財メーカーなどの取引先が広告プラットフォームを使い、ウォルマートの顧客に広告を配信できる機能を加えた。

例えば21年初めには、広告主が代理店を介さず、セルフで広告を出稿できるプラットフォームを運営するため米サンダーインダストリーズ(Thunder Industries)を買収した。さらに、広告配信の米トレードデスク(The Trade Desk)と提携し、取引先の広告枠の買い付けを自動化する「デマンド・サイド・プラットフォーム(DSP)」を新設すると発表した。

メディア網拡大に向けて提携も進める。18年以降は双方向動画のプラットフォームを運営する米エコ(Eko)と組み、直近2年でウォルマートのプラットフォームで新たなブランド体験を相次ぎ発表している。例えば、21年には食材を購入できるウォルマートのレシピ動画「クックショップ(Cookshop)」で、米食品大手クラフト・ハインツと動画を作成した。21年末に米メディア大手メレディスと提携し、メレディスの様々なプラットフォーム(「オールレシピズ=Allrecipes」「リアルシンプル=Real Simple」など)にウォルマートとリンクした「購入可能な広告体験」を組み込んでいる。

ECの品ぞろえ拡充

ウォルマートはECの品ぞろえを速やかに拡充するため、この2年で数社と提携している。米衣料品大手ギャップや米動画配信大手ネットフリックスと提携し、通販サイト「ウォルマート・ドット・コム」にブランドや商品を追加している。米レボリューションパーツ(RevolutionParts)と組み、自動車部品のネット販売での信頼を確立した。ECプラットフォームを手掛けるカナダのショッピファイや中古品取引の米スレッドアップ(ThredUP)との提携により、ウォルマート・ドット・コムで中小企業の商品の取り扱いを広げ、中古品販売も始めた。

外部事業者の商品を販売する「マーケットプレイス」の出店者の直接的な支援にも乗り出している。20年には米ゴールドマン・サックス、21年には国際決済の米ペイオニア(Payoneer)と提携し、マーケットプレイスの出店企業に新たな運転資金の調達源を提供している。

ECのマーチャンダイジング

ウォルマートは買収や提携を活用し、新たなデジタル販売プラットフォームを試したり、オンラインで独自の買い物体験を提供したりしている。

21年末にはチャットボット(自動応答システム)を設計するカナダのボットモック(Botmock)を買収した。カスタマーサービスなどEC機能の自動化でコスト削減を狙う。人工知能(AI)を活用した最先端のチャットボットの導入により、会話で買い物ができる機能を拡充し、より多くの顧客に個別に対応できるようになった。

バーチャル試着を手掛けるイスラエルのジーキット(Zeekit)も買収した。利用者は写真をアップロードして、服を着るとどんなふうになるかをネット上で確認できる。ウォルマートのオンラインファッションサービスのレベルが上がり、商品を発見したり話題にしたりする機会を増やしている。

22年1月には食品のプラットフォームを運営する米シフター(Sifter)と提携した。シフターは買い物客が自分の食生活のニーズに合う食品を見つけられるよう支援する「ショップ・バイ・ダイエット(Shop-By-Diet)」ツールを手掛ける。消費者はこのモバイル機能を使って、オンラインの買い物や店舗での商品のスキャンができる。こうした提携はウォルマートが食品小売市場のシェアを維持するために不可欠だろう。同社は現在、米食品小売りの最大手で、同社の米国での売上高全体の半分を食品が占めている。

ライブコマースにも乗り出している。ここ2年でフェイスブック、ティックトック、ツイッター、ユーチューブの各SNS(交流サイト)や、ライブコマースを手掛けるスタートアップの米トークショップライブ(Talkshoplive)と共同でライブ配信ショッピングイベントを開催している。

キャッシュバックアプリの米アイボッタ(Ibotta)との長期提携は、ウォルマートがオンラインと実店舗のパーソナライゼーションをどう結び付けたかを示している。ウォルマートはこれまで、短期的な値下げはEDLPほど有効ではない「小細工」にすぎないと原則行わなかった。しかし21年、アイボッタとの関係を強化し、通販サイトとアプリで新たなキャッシュバックプログラムを提供した。パーソナライズされた(つまり限定的な)値下げは、ウォルマートが全体の利益率を削ることなくEDLPを維持できる新たな手段になるかもしれない。

フルフィルメント&配達テック

ウォルマートはこの1年、自動配送だけでなく、フルフィルメントと配達網全般にも投資してきた。ネットスーパーの注文品の集荷コスト削減を重視している。

21年、米国の数十店舗に自動フルフィルメント施設を拡大するため、米アラート・イノベーション(Alert Innovation)、米デマティック(Dematic)、米ファブリック(Fabric)のロボットを活用したマイクロ・フルフィルメントシステム(小型の受注配送センター)を展開した。こうしたモジュール式の自動システムは人間よりも速やかに注文品を集め、ウォルマートの巨大な既存店に併設できる。

ウォルマートは配達分野での買収や提携により、特に食品のオンライン販売の柔軟性を高めている。20年末には配達ルートを知らせて報酬を得る個人間の配達アプリ、米ジョイラン(JoyRun)から人材と技術、知的財産を取得した。こうした機能が第三者との配達提携など他の食品配達オプションと併用可能なことを示している。

同社はもっと標準的な第三者との配達提携(米宅配代行サービス大手インスタカートとの関係など)に加え、顧客の自宅での「ラストワンヤード(最後の1メートル弱)」の配達を可能にするテックにも投資している。21年には温度管理できる安全な「スマートボックス(Smart Box)」を手掛ける米ホームバレット(HomeValet)と共同で、食品を安全かつ鮮度を維持したまま玄関前に置き配する実証実験を始めた。

21年には顧客の冷蔵庫に食品を直接届けるサービス「ウォルマート・インホーム(Walmart InHome)」の拡大に先立ち、2つの重要な行動に出た。まず、スマート集合住宅プラットフォーム、米ホームベース(Homebase)と提携した。同社はインホームを導入している集合住宅に、配達に必要な一時的なアクセスを提供する。次に、米スマートロック企業のレベルホーム(Level Home)に2回目の出資をした。同社のスマートロックはインホームと連携している。ウォルマートは1月、22年に米国でのインホームの利用可能世帯数を600万世帯から5倍の3000万世帯に拡大すると発表した。

ウォルマートはこの2年で、海外の食品配達プラットフォーム2社に追加出資した。インドの農家と小売り、消費者をつなぐニンジャカート(NinjaCart)と、中国の達達集団(Dada Group)だ。達達の物流プラットフォームは中国にあるウォルマートの店舗からの配達を担っている。この2つの投資はウォルマートの海外事業拡大という目標に沿っており、同社が食品配達やオムニチャネル事業についてノウハウを蓄積する機会も引き続き提供する。

医療へのアクセス

ウォルマートは低価格の医薬品を提供しているほか、米有数の薬局大手でもあり、米国の医療で長年にわたり大きな役割を担ってきた。ここ2~3年はプライマリーケア(1次医療)に進出し、7店舗に低コストの診療所「ウォルマート・ヘルス(Walmart Health)」を併設している。過去2年の買収・提携も、消費者が特にデジタル医療ツールを活用して安く容易にケアを受けられるようになることに重点を置いている。

買収によりデジタル医療機能を構築している。20年には処方薬管理アプリの米ケアゾーン(CareZone)を買収し、21年には遠隔医療の米ミーエムディー(MeMD)を傘下に収めた。この2社の買収によりウォルマートのサービスにデジタル医療が加わり、より多くの世帯にサービスを拡大できる可能性がある。

その他の最近の提携も医療を安く簡単に受けられることに重点を置いている。例えば、20年には米医療保険のクローバーへルス(Clover Health)と提携し、米ジョージア州の一定の低所得者に民間の健康保険メディケア・アドバンテージを提供した。21年には医療プラットフォームの米トランスケアレント(Transcarent)と組み、保険に加入せず自社の貯蓄で従業員の万が一の事態に備えている自家保険の企業に、処方薬などウォルマートの安価な医療サービスへのアクセスを提供すると発表した。

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