米フォードの未来車投資戦略、提携関係図で分析 - 日本経済新聞
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提携関係図で分析、米フォードの未来車投資戦略

米フォード・モーターが投資戦略の見直しをテコに市場の評価を高めている。ジム・ファーリー氏が最高経営責任者(CEO)に就任した2020年10月以降、株価が上がり、時価総額は一時、米ゼネラル・モーターズ(GM)を上回った。コネクテッドカー(つながるクルマ)や電気自動車(EV)を主軸としたスタートアップ企業などへの積極投資が原動力になっている。CBインサイツがフォードの提携・資本関係図をもとに重要戦略を5つの観点から分析した
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

2021年は米フォード・モーターにとって良い1年だった。ジム・ファーリー氏が20年10月にCEOに就任したのに伴い投資戦略を見直すと、株価は跳ね上がり、時価総額は一時、米国内最大のライバル、GMを上回った。

自動車サプライチェーン(供給網)の危機やEVを手掛ける新たなライバル勢の台頭にもかかわらず、フォードには歩むべき道が見えている。同社の勢いを主にけん引しているのは、乗用車と商用車両方の市場を対象にしたコネクテッドカーとEVのエコシステム(生態系)構築計画だ。

今回の記事ではCBインサイツのデータを活用し、フォードの最近の買収、投資、提携から5つの重要戦略を明らかにした。この5つの分野でのビジネス関係に基づいて各社を分類した。

・自動運転

・商用車とその関連サービス

・コネクティビティー(接続性)

・電動化

・MaaS(マース、移動手段のサービス化)

自動運転

フォードは17年に自動運転技術を手掛ける米アルゴAI(Argo AI)を買収して以来、自動運転の市場開拓戦略を練り上げてきた。自動運転システムや自動配達、乗用車向けの先進運転支援システム(ADAS)など、自動運転技術を手掛ける様々な企業に出資や提携をしている。

乗用車のモビリティーでは、アルゴAIとともに米ライドシェア大手リフト(Lyft)と提携し、リフトのサービスに今後5年で自動運転車1000台を投入する。乗用車向けADASではイスラエルのモービルアイとも提携している。ADASは衝突の恐れがある場合の警告や車線順守のほか、車両や歩行者、自転車の検知などの機能を備える。

自動配達の実証実験も進めている。フォードとアルゴAIは21年、米小売り大手のウォルマートと提携し、フロリダ州マイアミ、テキサス州オースティン、ワシントンDCで自動配達サービスを始めると発表した。

商用車とその関連サービス

フォードはファーリー新体制の下、商用車の商機をつかもうと、この分野に多額の資金を投じている。商用車のイノベーション(技術革新)に対する需要の大半は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う電子商取引(EC)の利用急拡大から生じている。

同社は21年5月、特注の商用EVに加え、車両のメンテナンスや管理などのサービスをワンストップで提供する商用車事業「フォードプロ(Ford Pro)」を設立した。

この事業を支えるため、通信システムを使ってサービスを提供するテレマティクスサービスを手掛けるカナダのフリート・コンプリート(Fleet Complete)や欧州大手のマスターノート(Masternaut)など、商用車分野の多くの企業と提携している。

フォードプロを語る上で中心となるのは、フォード本体の電動化推進の取り組みだ(下に詳述)。フォードは50年のカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)達成を目標に掲げており、その一環として商用EVとテレマティクスを活用した顧客向け充電サービスを提供している。

他の自動車メーカーと提携し、既存のバンにEVスタートアップ、米ライトニング・イーモーターズ(Lightning eMotors)や米XLフリート(XLFleet)、米モーティブ・パワーシステムズ(Motiv Power Systems)などの技術を搭載した商用EVを開発している。独フォルクスワーゲンなどと共同で商用EVの一からの開発にも取り組んでいる。

コネクティビティー

フォードは自動運転技術と関連サービスを支えるため、車のコネクティビティーも重視している。車に通信機能を搭載することにより、車内のユーザー体験を強化できる。コネクテッドカーのデータを保険会社や小売りなどに外販することも可能になり、新たな収益化の機会も生まれる。

同社はコネクテッドカー技術を走行距離に応じた保険にも活用している。米リバティ・ミューチュアル・グループなどの保険会社や、米メトロマイル(Metromile)や米アリティ(Arity)など保険とIT(情報技術)を融合した「インシュアテック」との提携にも乗り出している。

コネクテッドカーから別のコネクテッドカーや端末、インフラへの情報の流れを可能にするV2X技術も重視している。この技術では米半導体大手クアルコムと提携している。

電動化

フォードは電動化にも多額の資金を投じている。21年初めには、25年までにこの分野への投資を220億ドルと2倍に増やす計画を発表した。人気の高い3車種の電動化に加え、ケンタッキー州とテネシー州に新設するEV工場とバッテリー工場に数十億ドルを投じる方針も明らかにした。部品メーカーや素材企業が関係する供給不足を避けるため、バッテリーの自社開発も進めている。

社内計画に加え、電動化目標の加速やバッテリーのサプライチェーン強化、充電アクセスの拡充に向けた投資や提携にも乗り出している。

21年6月には商用EV向けの自社充電網を構築するため、充電管理スタートアップの米エレクトリファイ(Electriphi)を買収した。9月には使用済みのバッテリーを再生して繰り返し同じ素材として使う「クローズドループ・リサイクル」の導入を目指し、バッテリーのリサイクルを手掛ける米レッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)に出資した。さらに、全固体電池の開発を加速するため、開発を手掛ける米ソリッドパワー(Solid Power)と同サンラン(Sunrun)に出資・提携している。

MaaS

フォードはライドシェアやマイクロモビリティー(例:自転車や電動キックボードのシェアリング)などオンデマンドの輸送サービスの台頭を踏まえ、MaaSでも商機を探っている。

前述の通り、フォードとアルゴAIはリフトと提携し、マイアミとオースティンでリフトの配車サービスにフォードの自動運転車(安全のために運転手が同乗している)を供給する。

都市部のモビリティーサービスにも進出している。18年11月には電動キックボードのシェアリングを手がける米スピン(Spin)を買収し、フォードのマイクロモビリティーと乗り捨て型の自転車シェアサービスに注目が集まった。

その他

先端製造技術:フォードは高度な製造技術の開発に取り組む多くの企業に戦略出資したり、提携したりしている。例えば、金属3Dプリンターの米デスクトップメタル(Desktop Metal)のシリーズDラウンド(調達額6500万ドル)に参加した。

さらに、3Dプリンターを手掛ける米カーボン(Carbon)とも提携し、フォードの小型車「フォーカス」、主力ピックアップトラック「F-150ラプター」、スポーツ車「マスタングGT500」の空調機器の部品や予備のプラグ、パーキングブレーキのブラケットをデジタル生産する。こうした出資や提携により、サプライチェーンの制約をなくし、製造プロセスを一段と効率化できる。

自動車販売:自動車販売もフォードが力を入れている分野だ。17年8月にはより迅速で円滑な融資を実現するために自動車ローンのスタートアップ、米オートファイ(AutoFi)に出資・提携した。フォードはこの分野の事業を拡大することで、サブスクリプション(継続課金)や手軽な自動車ローンなどにより、消費者が車を手に入れやすくなるようにしている。

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