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ミレニアル世代が変える金融と決済 注目のサービスは

CBINSIGHTS
金融のデジタル化が急速に進む中、そのけん引役となっているのは働き盛りで消費・貯蓄の中核を担う1980年から90年代中盤に生まれた「ミレニアル世代」だ。モバイルファーストで新しいアプリやサービスを積極的に使う傾向がある。送金や貯蓄、決済などの軸から、具体的にどんなサービスが支持を集め、どのように金融業界を変えつつあるのかを分析した。

2010年代にはミレニアル世代には「様々な業界をぶち壊し、(家を買わないのに)アボカドトーストには出費を惜しまない(変わった世代)」という固定観念があったが、今や大きく成長している。

社会に変革をもたらしてきたこの世代は今や20代半ばから40代前半になり、金銭面の目標も変化しつつある。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

米金融大手バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)による20年の調査では、ミレニアル世代が金銭面で最も重視しているのは「老後資金をためること(75%)」で、「いざというときの備えを築くこと(51%)」が続いた。その一方で、「人生の節目や将来の目標のための貯蓄(73%)」は18年の調査から10ポイント増えた。

だが、ミレニアル世代はこうした金銭面の夢の実現を阻む強烈な逆風に見舞われてきた。「グレートリセッション」(大後退)と呼ばれた08年の金融危機後の景気後退や、賃金が伸び悩むなかで成人になり、前代未聞の水準の学生ローンを負っているため、「無一文の世代」と呼ばれてきた。

もっとも、家計管理は堅実で、年長世代が同じ年齢だったころよりも貯蓄額は多く、早くから貯蓄し始めている。

ミレニアル世代は壮年になり、収入も増えてきたため、パーソナルファイナンス(個人資産の管理、運用)を手掛ける各社は、この世代特有の家計管理の姿勢に主に次のような形で対処している。

・対面からオンラインへ:ミレニアル世代はデジタルバンキングを好む。英IT(情報技術)サービス大手カプコの21年のリポートによると、ミレニアル世代のモバイルバンキング利用率は78%と他のどの世代よりも高かった。オンラインバンキングサービスの利用率も75%に上った。金融各社はこうした好みを踏まえて自社サービスを提供している。

・大手銀行からチャレンジャーバンク(ネット専業などの新興銀行)へ:米金融調査会社コーナーストーン・アドバイザーズによる21年の調査では、ミレニアル世代の4分の1がデジタル専業銀行にメインの当座預金口座を持っている。さらに、決済処理プラットフォームを運営する米ガリレオ・フィナンシャル・テクノロジーズによると、自分の銀行口座をデジタル専業銀行に移す可能性が高いと答えた人は77%に上った。この新興銀行にオープンな姿勢は、金融サービスを外から変革しようと取り組んでいるフィンテックのスタートアップにとってチャンスになっている。

・「現状維持」から「可能性」へ:13年には、ミレニアル世代の70%が5年後に買い物方法が大きく変わり、33%が銀行はいずれ完全に不要になるとみていた。それから8年後、ミレニアル世代は代替金融システムというアイデアは自分に合うとの思いを強めている。このため、暗号資産(仮想通貨)からオルタナティブ投資(株式や債券などの伝統的な投資対象とは異なる対象への投資)、後払い決済まで様々なイノベーションに商機がもたらされている。

既存の金融機関はミレニアル世代の変革的な姿勢による影響をひしひしと感じている。20年には米ウェルズ・ファーゴやバンカメなどの銀行をメインバンクにしている顧客の割合は7%近く減った。

一方、デジタル銀行の利用者は大きく増えている。例えば、21年の米チャイム(Chime)の顧客は前年比50%増の1200万人に達した。英レボリュート(Revolut)は世界に1600万人の顧客を抱えており、ブラジルのヌーバンク(Nubank)は中南米各国に4000万人とチャレンジャーバンクで最も多い。

既存の金融機関も反撃に出ている。各社は、個人投資家に資産運用プランを提案する「ロボアドバイザー」、人工知能(AI)を活用した家計管理、支出のモニタリングなど新興ライバルが開発した最高の金融イノベーションを厳選し、自行のサービスにとり入れている。

短命に終わった米銀大手JPモルガン・チェースのモバイルバンキングアプリ「フィン(Finn)」など、派手な失敗もある。だが、既存銀行もAIを活用したアシスタントや音声認識など、現在のパーソナルファイナンスで最も有望なイノベーションの一部の最前線に立っている。

今回のリポートでは、ミレニアル世代の金銭感覚がパーソナルファイナンスの3つの中核分野のイノベーションにどんな影響を及ぼしているのか、スタートアップと既存勢はどう対応しているのかについて取り上げる。

ミレニアル世代の金銭感覚

ミレニアル世代がこうしたマネー行動をとるようになった理由を把握するには、この世代を形作っている3つの社会経済的影響、すなわち「グレートリセッション」「学生ローン危機」「新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)」について理解することが大事だ。

グレートリセッションではミレニアル世代の失業者は他の世代のほぼ4倍に上り、1980年代に生まれたミレニアル世代が世帯主の家計の16年の純資産は10年比で減少した。

一方、米エデュケーション・データ・イニシアチブによると、ミレニアル世代の3人に1人が学生ローンを抱えている。学生ローンを抱える米国民4540万人のうち、ミレニアル世代は1480万人と他のどの世代よりも多い。

さらに、新型コロナのパンデミックに伴い、対面からデジタルバンキングサービスへのシフトなど、すでに進行しつつあったデジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドが加速した。デロイトによると、コロナ禍でオンラインバンキングの利用は35%増えた。

20年の全年齢層での銀行支店の利用率は15年比で35%減った。減少率が最も高かったのは若い層で、18~24歳では48%、35~49歳では44%減った。しかも、今や口座解約の最大の理由は手数料やカスタマーサービスではなく、モバイルバンキング体験の乏しさになっている。

ミレニアル世代は特有の厳しい経済状況やデジタルファーストな環境により、自分の収入や借金、貯蓄を管理する新たな手段を探している。この世代が以下の3つの分野で資産の管理・運用にどう取り組んでいるかについて分析する。

1.銀行サービス:支店は廃れ、デジタルとモバイルが隆盛に

2.家計管理と貯蓄:モバイルに移行し、自動化を採用

3.決済:スマートフォンが現金の代わりに

1.銀行サービス:支店は廃れ、デジタルとモバイルが隆盛に

チェースやバンカメなどの既存銀行と新種のライバル「チャレンジャーバンク」との市場シェア争いは激しくなりつつある。こうしたデジタルファーストな新興銀行は資金力があり、顧客を急速に増やしており、既存銀行とのシェア争いをいとわない。何といっても、ミレニアル世代から支持を受けている。

ミレニアル世代は他の世代ほど現行のメインバンクに対する忠誠心は強くない。米調査会社モーニング・コンサルトの21年の調査によると、来年銀行を切り替えるだろうと答えた人は37%で、過去2年で既に切り替えた人も33%に上った。米IT大手オラクルによると、若い顧客の64%は自分が口座を持つ銀行の商品を支持しているが、それでもなお米アップルや米グーグルのバンキングサービスが利用できるようになれば切り替えると答えた人は56%に上った。

この世代の既存銀行離れは銀行員と話したがらない点に表れている。コーナーストーン・アドバイザーズによると、銀行員から直接説明を受ける方を好むと答えた人は21~40歳では2割にとどまった。

手数料もコスト意識が高いミレニアル世代が既存銀行を敬遠する理由だ。

パーソナルファイナンス関連サイト「ジ・アセント」の21年の調査によると、クレジットカードの最も重要な機能は何かという質問で、例えばミレニアル世代では「年会費無料」は3位に入った。実際、年会費無料のクレジットカードはミレニアル世代で2番目に人気の高いタイプのクレジットカードだ。最も人気が高いのはキャッシュバック機能付きのカードだった。

コロナ禍でさらに重要になった移動という側面もある。米国銀行協会によると、ミレニアル世代のモバイルバンキングの利用率はコロナ前の45%からコロナ禍で55%に増えた一方、支店の利用率は13%から5%に減った。ウェブデータ分析会社プレイドによると、ミレニアル世代でバンキングアプリを日常的に使っている人は55%に上った。

チャレンジャーバンクの台頭

こうした要因から、チャレンジャーバンクが既存勢と金融の覇権争いを繰り広げるチャンスが生じている。チャイムや米カレント(Current)などのデジタル銀行はミレニアル世代を直接対象にした手数料無料のデジタルファースト体験で知名度を上げている。

両社のメッセージはミレニアル世代に届いているようだ。チャイムは年内に顧客が1300万人を突破する見通しで、米チャレンジャーバンク最大手としての地位を固めている。カレントの利用者は400万人だが、ミレニアルに続く「Z世代」(90年代後半から2000年代生まれ)や「α(アルファ)世代」(10年以降に生まれた世代)などの対象層が適齢期になり、利用者層をさらに広げる体制が整っている。カレントの顧客の半数は銀行口座を初めて開設した。

もっとも、デジタルバンキングサービスの人気が高まり、使いやすくなるのは若い消費者にとってデメリットになる可能性もある。コーナーストーン・アドバイザーズによると、当座預金口座を2つ以上持つミレニアル世代のうち、口座の残高がマイナスになった場合に発生する「オーバードラフト費」を課された人は18年の35%から、20年には46%に増えた。その理由について、残高を把握していなかったためだと答えた人が41%を占めた。

バンキングアプリの米デーブ(Dave)は無駄な手数料が生じないようにする必要性に気付き、17年に家計簿管理とオーバードラフト保護機能を付けてサービスを開始した。利用者は口座の残高がマイナスになりそうになると、手数料が生じるのを避けるために100ドルを事前に振り込んでもらえる。サービス開始から4年でデーブの利用者は1000万人に増え、これまでに節約した手数料の総額は2億ドル近くに上る。

デーブは「人間のためのバンキング」をモットーに、手数料無料のデビットカードやバンキングアプリ、副業紹介ツール「サイドハッスル(Side Hustle)」も手掛けている。21年6月には評価額40億ドルで上場する方針を明らかにした。

英レボリュートなど海外のチャレンジャーバンクは相次いで米市場に商機を見いだし、狙いを定めている。

レボリュートは20年3月、米中堅のメトロポリタン商業銀行と提携し、米国でサービスを開始した。同社のアプリでは家計管理機能や、送金、支払いの請求、給与を2日早く受け取れるサービスなどを提供している。米国では21年9月時点で30万人の利用者を引き付けているが、世界全体の利用者が1600万人に上るのに比べると控えめな数字だ。21年3月には米国の銀行免許を申請した。承認されれば、米市場での成長が加速する可能性がある。

レボリュートの世界のユーザーベースはヌーバンクの足元にも及ばない。チャレンジャーバンク世界最大手のヌーバンクはコロンビア、ブラジル、メキシコに4000万人の顧客を抱えている。同社の最初の商品は手数料無料のクレジットカードで、ブラジルの既存銀行のクレジットカードの手数料は高いため、代替品として歓迎された。ヌーバンクは今や、生命保険や個人向けローン、デジタル口座、送金サービスを手掛ける。2021年12月9日にはニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した。時価総額506億ドルを目指していたが、初値での時価総額は約520億ドルだった。

もっとも、全てのチャレンジャーバンクが世界進出に成功しているわけではない。別の英チャレンジャーバンク、モンゾ(Monzo)は20年に米国で銀行免許を申請したが、規制当局との協議が難航し、21年10月に申請を取り下げた。

チャレンジャーバンクの強みは、デジタルファーストに力を入れている点にある。米消費者の大部分はモバイルバンキングを利用しており、ほとんどが自分の口座への第1のアクセス手段としている。デジタルバンキングの利用者は年々増え続ける見通しで、米調査会社イーマーケターによると25年には米国の全消費者の80%に達する。

だが、デジタル専業銀行の先行きは安泰とは限らない。09年に創業した草分けの米シンプル(Simple)は、11年にサービスを開始したが低迷し、14年にスペインの大手銀行BBVAに買収された。BBVAは21年1月、シンプルの事業を打ち切った。

既存勢もデジタルファーストなサービスを導入し、チャレンジャーバンクに対抗している。バンカメ、米キャピタル・ワン、チェース、米大手地銀PNCファイナンシャル・サービシズ、ウェルズ・ファーゴはいずれもデジタルやモバイルのバンキングサービスを提供している。

例えば、バンカメのモバイルバンキングアプリではAIアシスタント「エリカ(Erica)」を提供している。エリカには多くの便利な機能があり、利用者に次回の請求額や信用スコアの変更について知らせたり、口座の残高がマイナスになりそうな場合には通知したりする。21年1~3月期のエリカの利用者は1950万人で、前年同期の1220万人から60%近く増えた。

ウェルズ・ファーゴは22年にAIアシスタント「ファーゴ(Fargo)」をスタートし、モバイルバンキングサービスを拡充する計画だ。顧客はファーゴのサポートで家計管理のコツを知り、請求書の支払いをし、決済できるようになる。同行は現在2700万人の利用者がいるモバイルアプリのアップデートも進めている。

ウェルズ・ファーゴ、キャピタル・ワン、バンカメは顧客に迅速に対応し、リアルタイムのデジタルサービスを提供する手段としてチャットボットにも目を向けている。

2.家計管理&貯蓄:モバイルに移行し、自動化を採用

住居費や食費、医療費など日々の支出はもちろん、老後資金と住宅購入資金、いざというときの備え、学生ローン債務のはざまで、ミレニアル世代は年長世代よりも経済観念が強い。

一方、一風変わった支出癖があるという固定観念に反し、ミレニアル世代は他の世代と同じほど家計管理の意識が高い。家計管理と貯蓄の手段が違うだけだ。

具体的には、ミレニアル世代は貯蓄目標に向かっていつの間にか前進できるフィンテック企業の自動化やAIサービスをとり入れている。

家計管理を次のレベルに

ミレニアル世代は家計簿アプリの普及で重要な役割を果たしている。「チェース・デジタルバンキング態度調査」によると、ベビーブーマー世代(1946年から1960年代中盤生まれ)で家計管理にモバイルバンキングアプリを使っている人は4%にとどまるが、ミレニアル世代では17.5%に上る。

最初にブレークした家計簿ツール、米ミント(Mint)は07年にサービスを開始した。それから2年弱で150万人の利用者を獲得し、09年に米会計ソフト大手のインテュイットに1億7000万ドルで買収された。現在は家計簿に加え、クレジットカードやローンの比較検討サービスも提供している。

家計簿アプリはミント以外にも数多くある。

・ユー・ニード・ア・バジェット(YNAB):利用者は最初の1年で平均6000ドル以上を節約するとうたう。新規利用者は1カ月の無料トライアルの後、月払いか年払いプランを選べる。

・パーソナルキャピタル(Personal Capital):金融助言サービスの顧客獲得戦略として、無料の家計簿と純資産の追跡機能を提供している。利用者は250万人。20年に米エンパワー・リタイアメント(Empower Retirement)に10億ドルで買収された。

・グッドバジェット(Goodbudget):家計を共同で管理しようとするカップル向けの機能を提供する。

・エムベロップス(Mvelops):人気の「袋分け」方式をデジタル化し、アプリを通じて費目別に資金を配分できる。

・マネーダンス(Moneydance):支出や貯蓄、投資の詳細な概要を求める利用者に数多くの機能を提供している。

・エブリーダラー(EveryDollar):利用者の全ての収入が借金の返済、その他の支出、貯蓄に向けられ、余剰金がないゼロベースの家計簿管理手段をとる。無料版とプレミアム版がある。

ミレニアル世代がけん引する家計管理・貯蓄分野のもう一つのトレンドは、AIを活用した支出管理サービスだ。

・英クレオ(Cleo)やブラジルのオリビア(Olivia)などのアプリはAIを活用して利用者の銀行口座の残高や支出パターンを分析し、予算を設定し、自動で貯蓄する。

・米ディジッツ(Digits)は利用者の銀行口座を同期して支出パターンを分析し、余ったお金をディジッツの別の口座に移す。このアプリはショートメッセージサービス(SMS)を活用したユーザーインターフェースでも知られ、テキストメッセージを通じて利用者にディジッツの口座を管理させる。同社は21年6月の時点ではデビットカードを含むバンキングサービス「ダイレクト(Direct)」を手掛けている。21年11月には米ローン会社オポチューンに2億1300万ドルで買収された。

・米キャピタル(Qapital)は利用者にいつ貯蓄するかについてルールを決めさせる。利用者はグループの貯蓄目標も設定できる。パートナーや家族、友人と長期的な資産目標に向かって働くミレニアル世代にとって有用な機能だ。同社は15年に創業した。調達総額は5200万ドルで、利用者は200万人を超えている。

だが、自動貯蓄に特化しているアプリは不利な立場に置かれる可能性がある。この機能は比較的まねされやすいからだ。例えば、ロボットアドバイザーの米ベターメント(Betterment)は、ディジッツの自動貯蓄機能をそっくりまねた商品「スマートセーバー(Smart Saver)」を月利2%で投入した(ディジッツは3カ月ごとに1%を提供している)。

米プライズプール(PrizePool)や米ヨッタ(Yotta)など賞金連動型の貯蓄アプリは貯蓄をもっと楽しい体験にするため、利用者に賞金獲得のチャンスを提供している。貯蓄口座に預金すれば抽選に参加できる。

例えば、プライズプールは最高2万5000ドルの賞金数千本を用意した抽選を毎週実施している。紹介を受けて口座を開設した人が賞金を獲得した場合、紹介者も賞金の10%を得られる紹介プログラムもある。同社は21年6月、人員を増強し、デビットカードを発行するため、シリーズAの資金調達ラウンドで1000万ドルを調達した。

ヨッタも21年、シリーズAで1300万ドル相当を調達した。このアプリはこんな仕組みだ。利用者は25ドル預金するごとにチケットを1枚もらい、7つの数字を自動または自分で選ぶ。アプリはその後1週間、無作為の数字を毎日選定し、この数字と利用者が選んだ数字が一致すれば利用者は賞金を得られる。7つの番号が全て一致すれば、1000万ドルを得られる。同社は利用者がカードを機械に通すたびに賞金を得るチャンスがある特別な機能付きのデビットカードも手掛ける。

既存勢は消費者が資産運用や貯蓄のサービスを求めていることに気付いている。英金融大手バークレイズは食料品や外食、バー、ガソリン、電話など主要費目の支出を管理できる家計簿機能をモバイルアプリに導入している。

だが、こうした機能を搭載する取り組みは全て成功しているわけではない。JPモルガン・チェースのデジタルファーストアプリ「フィン」はキャピタルの自動ルール設定モデルにそっくりだったが、同行は1年未満でサービスを打ち切り、顧客をメインアプリ「チェースモバイル(Chase Mobile)」に移すと発表した。

3.決済:スマートフォンが現金の代わりに

ミレニアル世代が現金を引き出すためにATMの前で車を止めている光景はあまり見かけないだろう。この世代はむしろ自分のスマートフォンで決済を管理していることが多く、このため現金の重要性が低下しつつある。フィンテックはこのシフトを推進し、スマホの画面をスワイプするだけで送受金できる新たなモバイルファースト決済のオプションを構築している。

英調査会社サバンタの20年の調査によると、決済にデジタルウォレットやモバイルウォレットを使っていると答えたミレニアル世代は46%に上ったのに対し、ベビーブーマー世代では22%にとどまった。

ミレニアル世代に支持されているモバイル決済サービスは、米決済大手ペイパル傘下の個人間送金アプリ「ベンモ(Venmo)」だ。ベンモは割り勘したり、友人から借りたお金を返したりする際の便利な手段を提供するアプリだ。21年4~6月期の決済取扱高は580億ドルで、19年同期の240億ドルから2倍以上に増えた。

既存銀行は決済分野を巨大テックやスタートアップにやすやすと明け渡すつもりはない。ベンモのライバル「ゼル(Zelle)」はバンカメ、米地銀大手BB&T、キャピタル・ワン、JPモルガン・チェース、PNC、米地銀大手USバンコープ、米銀大手シティバンク、ウェルズ・ファーゴが所有する。運営会社の報告ではゼルの20年の決済取扱高は3070億ドルと、1590億ドルだったベンモのほぼ2倍に上った。もっとも、最近はゼルの利用者が詐欺の被害に遭い数千ドルを失うケースが増えており、セキュリティーと不正対策を巡って疑念が生じている。

銀行送金はほんの数年前には個人間送金の第1の手段だったが、もはやそうではない。独調査会社スタティスタによる21年の「グローバル・コンシューマー・サーベイ」によると、ベンモや米決済大手スクエア(現ブロック)の「キャッシュアップ(Cash App)」などの直接送金サービスを使って送金している消費者は今や43%に上る。銀行を使う人は34%だった。

モバイルシフトは個人間送金以外にも影響を及ぼしている。イーマーケターによると、店舗のPOS(販売時点情報管理)でのモバイル決済の利用者は20年の9230万人から、25年には1億2500万人に増えるとみられている。ミレニアル世代がデジタルウォレット利用者の4割を占めている。

スマホメーカーはモバイル決済へのシフトで大きな役割を果たしている。アップルは14年秋、モバイル決済プラットフォーム「アップルペイ」をスタートした。グーグルも15年、アンドロイドユーザー向けの「グーグルペイ」でアップルに追随した。韓国・サムスン電子の「サムスンペイ」も15年にデビューした。

米決済サービス大手パルスの「デビット・イシュア調査」によると、それから数年後の20年のモバイルウォレット決済全体に占めるアップルペイのシェアは92%に上る。サムスンペイは5%、グーグルペイは3%にとどまる。

決済分野のもう一つのトレンドは、バーチャルなクレジットカードやデビットカードの台頭だ。オンラインデータのセキュリティーに対する懸念が高まっているため、バーチャルカードは決済ごとにカード番号を生成することでセキュリティーを強化し、不正利用の可能性を抑えている。

バーチャルカードは既存銀行が前線に立つ金融イノベーションの一つだ。シティバンクは顧客に手数料無料でバーチャル口座番号を生成し、各番号に利用限度額とタイムリミットを設定する。一方、キャピタル・ワンはデジタルアシスタント「イーノ(Eno)」を通じてバーチャルカードを提供している。イーノはブラウザのプラグイン(拡張機能)として働き、利用者がブラウザのボタンをクリックすると会計時にバーチャルカード番号を生成する。

仮想通貨は徐々に主流になっているため、米スターバックスやマイクロソフトなど決済で受け入れる企業が増えている。印ピープルセイの21年の調査によると、ミレニアル世代の49%がすでに仮想通貨を持っており、半数以上がこれを決済に使うことに抵抗がないのも驚きではない。

ミレニアル世代と強力につながる決済分野のイノベーションには、ロイヤルティー(特典)プログラムもある。キャッシュバック特典はこれまで主にクレジットカードに付いていたが(ミレニアル世代は年配世代ほどクレジットカードを持っていない)、一握りのスタートアップがデビットカードの利用者にこの特典を提供している。

例えば、米ドッシュ(Dosh)は利用者のクレジットカードやデビットカードと連携し、1万店以上の店舗やレストランでの買い物にキャッシュバックを提供するアプリだ。キャッシュバック額が25ドルに達すると、利用者の口座に送金するか寄付できる。一方、米ロリー(Lolli)や米ペイ(Pei)などのプラットフォームはスターバックスや米カフェチェーン「パネラブレッド」、米ビデオゲーム販売「ゲームストップ」、化粧品チェーン「セフォラ」などでの買い物を対象に、仮想通貨ビットコインでキャッシュバックを提供する。

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