自動運転で提携加速 完成車×部品×新興の企業相関図

モビリティー(移動手段)分野の主要プレーヤーにとって、自動運転技術の開発は大きな試練になっている。
自動運転車の開発と訓練には巨額の先行投資が必要な上に、この技術はまだ利益を上げていないからだ。
このため、自動車メーカー各社は資金を出し合い、自動運転車の開発に伴う金銭的負担を最小限に抑えるために提携の機会に目を向けている。
自動車メーカーは自動車メーカー同士での提携に加え、大手部品メーカー(1次サプライヤー=ティア1)や自動運転システムの開発企業と手を組んでいる。自動運転技術の開発企業は特に自動車メーカーとの提携に熱心だ。自動車メーカーや部品メーカーには製造の専門知識や、自動運転技術の商用化に役立つ事業拡大能力があるからだ。
CBインサイツのデータを活用し、自動運転車のエコシステム(生態系)でのダイナミックな提携ネットワークを図に示した。

この図の作製にあたり、自動車メーカー、大手部品メーカー、自動運転システム開発企業(米クルーズや米ウェイモなど)、巨大テック、モビリティーサービス事業者(米リフトなど)による提携、投資、M&A(合併・買収)に注目した。
認識技術や地図作製、シミュレーションなど自動運転の特定の要素の開発を手掛ける企業は除いた。提携数が膨大なため、中国インターネット検索最大手、百度(バイドゥ)の提携企業も除外した。百度の提携については後述する。
提携のトレンド
大手部品メーカー、自動運転技術の開発企業と提携
旧来の大手部品メーカーは自動運転車の未来を切り開くため、新興の自動運転開発企業との提携を急いでいる。
自動車メーカー各社は主に自動運転システムをトータルで開発する企業と提携しているが、大手部品メーカーは総合システム開発企業に加え、システムのハードやソフトの部品を開発する企業とも提携している。大手部品メーカーには完成車メーカー(OEM)の下請けや量産の経験があるため、提携は互いにメリットがある。

例えば、ドイツの大手部品メーカーZFは2021年、米インテル傘下のモービルアイ(Mobileye、イスラエル)と提携し、ZFのカメラとレーダー、モービルアイの画像処理チップ「EyeQ(アイキュー)4」を搭載した最先端の安全システムをトヨタ自動車に提供した。
ZFは高性能センサーの「LiDAR(ライダー)」では独イベオ・オートモーティブ・システムズ(Ibeo)や米エヴァ(Aeva)、自動運転トラックでは中国系の図森未来科技(TuSimple)や米ロコメーション(Locomation)とも提携している。さらに、一定条件で運転を完全自動化する「レベル4」の自動運転シャトルを開発するため、自動運転ソフトの開発を手掛ける英オックスボティカ(Oxbotica)に出資し、提携している。
多くの部品メーカーが同様の手法をとっている。フランスの自動車部品メーカー、ヴァレオは21年、レベル4の自動運転システムを実用化するために自動運転システムを手がける仏ナビヤ(Navya)との提携を強化すると発表した。一方、自動車部品大手の独コンチネンタル(Continental)はライダーを手掛けるスタートアップの米エーアイ(AEye)と組み、エーアイのライダーをコンチネンタルのセンサー群に搭載する。
完成車メーカーと直接組んで自動運転技術を開発している大手部品メーカーもいる。例えば、韓国・現代自動車と自動運転技術を手掛ける米アプティブ(Aptiv)はレベル4の自動運転車を開発するため、20年に合弁会社モーショナル(Motional)を設立した。さらに、現代自動車の電気自動車(EV)「IONIQ (アイオニック)5」に自動運転技術を搭載したロボタクシーを発表した。23年に米国の複数の市場に投入する予定だ。
巨大テック、自動運転分野での足場強化
巨大テックの米アルファベットや米アマゾン・ドット・コム、米マイクロソフト、さらに中国の電子商取引(EC)最大手アリババ集団やネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)、バイドゥは自動運転エコシステムで実質的な自社ネットワークを築いている。例えば、バイドゥが主導する自動運転技術の開発加速に向けたオープンソース型プラットフォーム「アポロ計画」には100社以上が参加している。
これは新たなトレンドではない。巨大テックは数年前から、自動車やモビリティーの分野に重点投資してきた。今や自動運転車の第1世代が公道走行にこぎ着けており、巨大テック各社はこの市場での地位確立を狙っている。

マイクロソフトは21年、米ゼネラル・モーターズ(GM)と自動運転技術を手がけるGM子会社の米クルーズ(Cruise)と提携すると発表した。マイクロソフトにとって自動運転分野での初の大型提携になる。クルーズは自社の自動運転システムを商用化するにあたり、クラウドやエッジコンピューティングでマイクロソフトのクラウド基盤「Azure(アジュール)」を活用する。
アルファベットは自動運転開発を手掛ける米ウェイモ(Waymo)を傘下に抱え、自動運転技術の分野でトップに立っている。アルファベットは自動車メーカー、モビリティーや物流のサービス事業者、運送会社などと提携しており、最近はトラック輸送業界での提携に力を入れている。ウェイモは車両管理などを手がける米ライダー・システム(Ryder)と提携し、自社の自動運転トラックのメンテナンスを委託している。
アマゾンも自動運転技術の開発に向けて投資や提携を進めている。20年には、ロボタクシーの開発を手掛ける米ズークス(Zoox)を買収した。ズークスは同年、米半導体大手エヌビディアと共同で試作車を発表した。
アマゾンは19年2月、自動運転スタートアップの米オーロラ・イノベーション(Aurora Innovation)のシリーズBラウンド(調達額5億3000万ドル)にも参加した。自動運転技術は巨大テックにとって大きな商機となっている。巨大テック各社は米国で最大級の配達網を運営しており、自動運転車を使うことで輸送コストを削減し、配達を迅速化し、成長に向けた新たな分野を取り込めるからだ。
エヌビディアとインテル傘下のモービルアイも、しばらく前から自動運転分野で積極的に提携している。エヌビディアのオープンソースの自動運転開発プラットフォーム「NVIDIA DRIVE(エヌビディア・ドライブ)」は、自動運転システムの強化に必要な計算能力を開発各社に提供する。このプラットフォームには大手部品メーカーから自動車メーカー、モビリティーサービス事業者まで370社以上が参加している。
一方、モービルアイは先進運転支援システム(ADAS)の装備で自動車メーカー各社と提携し、カメラ画像処理チップ「EyeQ」を搭載した自動運転技術の開発に向けた直接的なアプローチをとっている。
モビリティーサービス事業者、軸足転換
米ウーバーテクノロジーズや米リフトなどのライドシェアによる最近の動向も、自動運転技術を自社開発する難しさを示している。両社はもっと収益を上げられる新たな事業を追求するため、それぞれの自動運転部門を売却した。
ウーバーは20年、自動運転開発部門ATGを同業のオーロラに株式26%の取得と引き換えに売却した。ウーバーはもはや自動運転技術の開発に毎年数億ドルをつぎ込む心配をせずに済み、自社の配車プラットフォームでオーロラの自動運転技術「Aurora Driver(オーロラ・ドライバー)」を活用できる。
リフトも21年、自動運転部門「Level5(レベル5)」をトヨタ傘下のウーブン・プラネット・ホールディングスに5億5000万ドルで売却した。リフトは自動運転技術を開発するモーショナルや米アルゴAI(Argo AI)と(さらには米フォード・モーターとも)提携し、各社のロボタクシーの配車サービスを提供している。リフトはすでにウェイモとこうした合意を結んでいる。米アリゾナ州フェニックスでは、乗客はリフトのアプリを使ってウェイモのロボタクシー「One(ワン)」を配車してもらえる。
ロボタクシーと自動配送車は商用化に向けて前進しているため、モビリティー各社はこうした技術を独占利用するために今後も提携するだろう。
トラックメーカー、自動運転各社との提携加速
大手トラックメーカーはここ1年、自動運転トラックの生産に乗り出すために自動運転技術の開発企業との関係を築いている。この分野は近く実用化するとみられる。自動運転車は高速道路の運転では実用化に近い状態にあるが、完全自動運転のロボタクシーや乗用車の開発は予想以上に時間がかかっている。
独ダイムラー・トラックは20年、ウェイモと提携して「Freightliner(フレイトライナー)」ブランドの大型トラック「Cascadia(カスカディア)」にレベル4の自動運転技術を搭載すると発表した。これは20年以降に相次いでいるトラック輸送業界の提携の一つだ。
オーロラと、「ケンワース」「ピータービルト」ブランドの大型トラックを製造販売する米パッカーはこのほど、パッカー初の自動運転トラックにオーロラの自動運転システムを搭載すると発表した。両社は最近、テキサス州のダラスとヒューストンの間の輸送に自動運転の長距離トラックを導入するために米物流大手フェデックスと提携した。

物流分野のその他の注目すべき提携は以下の通りだ。
・トラック大手の米ナビスター・インターナショナルと独トレイトン・グループは自動運転トラックを開発するため、図森未来科技と提携した。
・スウェーデンのボルボ・トラックとオーロラは北米で自動運転トラックを開発するために提携した。
・中国の第一汽車集団と大型貨物トラックの自動運転技術の開発を手がける智加科技(Plus)は、中国で公道を走行する許可を得た。
・ライダー・システム(Ryder)は自動運転の長距離トラックで米アイク(Ike)と、自動運転の中距離配達網を築くために米ガティック(Gatik)と提携した。
・物流大手の独DHLと米NFIは自社車両に自動運転トラックを加えるため、アイクと提携した。
・いすゞ自動車は自動運転の小型トラックを開発するため、ガティックと提携した。
次の展開は
自動運転車の提携エコシステムは自動車メーカー、大手部品メーカー、自動運転技術の開発に特化している企業、テック企業、モビリティーサービス事業者が入り乱れる複雑なネットワークで、各社はそれぞれの分野の専門知識を提供している。
自動運転技術はついに転換点に達しており、特に自動車メーカーが低コストで開発を加速できるようになればこの分野の提携はさらに広がるだろう。
ウェイモやクルーズのような自動運転技術の開発各社は大手部品メーカーや自動車メーカーと重要な提携を確保している。この分野の提携の大半は単に共同開発が目的だが、自社技術の標準化を大々的に果たせた企業がこの分野の勝者になるだろう。
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