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米ポストシリコンバレー競争 注目の3都市を分析

CBINSIGHTS
米国のスタートアップ拠点といえば、カリフォルニア州のシリコンバレーが圧倒的な存在感を持つ。しかし、近年は地価や物価の上昇などを受けて、テクノロジー系の人材や投資家が、税金や生活費が安い都市に移動するケースも目立つ。特にテキサス州のオースティンとダラス、フロリダ州のマイアミの3都市はこうした人が集まり、新興企業の活動も活発になっている。CBインサイツがこの3都市についてスタートアップへの投資状況や企業の動向などを分析した。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

シリコンバレーはなお米国のスタートアップの首都として圧倒的な存在感を誇っている。この地域に拠点を置くテックスタートアップの2021年の資金調達額は前年比2倍の1060億ドルに達した。22年1~3月期は前年同期比2%減ったが、米国の調達額全体に占める割合は9ポイント増えて41%になった。

一方、シリコンバレーは生活費がとてつもなく高く、ベンチャーキャピタル(VC)の関心を引こうとするスタートアップ間の競争もし烈だ。リモートワークの台頭に支えられ、テック業界の多くの人材が、生活費が安く、競争もさほど激しくない都市へと移っている。

特に、テキサス州やフロリダ州などサンベルトと呼ばれる南部の都市は、テック業界の人材や創業者、投資家を広く招き寄せている。例えば、フロリダ州とテキサス州には所得税がないため、従業員にとって大きなメリットになる。またカリフォルニア州よりも生活費が安い。新型コロナウイルスの感染拡大も、人口密度が高い大都市の都心部から中規模都市への流出を後押しした。

今回の記事では、米国の3つの新興テック拠点であるテキサス州オースティン、フロリダ州マイアミ、テキサス州ダラスの投資トレンドについて取り上げる。この3都市の調達額や人口はここ数年、著しく増えている。

テキサス州オースティン

オースティンは急成長している。この都市に拠点を置くテックスタートアップの22年1~3月期の調達額は18億ドルと四半期ベースで過去2番目に多く、調達件数は105件で過去最多だった。この都市のスタートアップは成長して後期段階に入りつつあるため、調達件数全体に占めるアーリーステージ(初期段階)の割合は50%に下がった。この傾向が22年を通して続けば、5年ぶりの低水準になる。

オースティンは今や米国の大都市圏で最も急成長を遂げており、1日推定184人が新たに住民になっている。テック業界も伸びている。米ビジネス向けSNS(交流サイト)リンクトインのデータによると、20年5月~21年4月のテック人材の増加率は米国の他の大都市圏よりもはるかに高かった。

こうした人材の多くはシリコンバレーの高い税金や生活費に嫌気がさし、シリコンバレーから直接移っている。米ブルームバーグによる米郵政公社(USPS)のデータ分析によると、新型コロナの感染拡大以降にテキサス州以外からオースティンに越してきた人の数は、サンフランシスコからが最も多かった。

テック大手も拠点を移している。米テスラと米オラクルは新型コロナの感染拡大以降、本社をシリコンバレーからオースティンに移転した。

テック業界の発展に伴い、この都市のスタートアップの資金調達額も大きく増えている。調達額は21年4~6月期に前四半期の3倍以上に増えて以降、毎四半期10億ドル以上を維持している。22年1~3月期も世界的なスタートアップ投資が低迷する中、オースティンの調達額はさらに増加した。

オースティンのテック企業は様々な分野が集まっている。例えば、22年1~3月期には駐車ソフトウエアのフラッシュ(FLASH)、3次元(3D)印刷を使った建設会社のアイコン(ICON)など、スマートシティーやインフラを手掛けるスタートアップが多額の資金を調達した。一方、ウィール(Wheel)やエバーリーヘルス(Everly Health)、アイオダイン・ソフトウエア(Iodine Software)などデジタル医療のユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)もある。

オースティンの資金調達と投資家の動向

・ユニコーン

オースティン大都市圏のユニコーンは11社で、このうちフラッシュ、ウィール、企業向け人工知能(AI)システムのスパークコグニション(SparkCognition)の3社が22年に新たに加わった。オースティンで最も企業価値が高い未上場企業は、イーロン・マスク氏が創業したトンネル掘削会社ボーリング・カンパニー(The Boring Company)(企業価値57億ドル)だ。

・最大の案件

22年1~3月期の最大のラウンドは、フラッシュのプライベートエクイティ(PE)ラウンド(調達額2億5000万ドル)だった。これは同四半期のメガラウンド(1回の調達額が1億ドル以上のラウンド)6件のうちの1つだった。

・最も活発な投資家

21年にオースティンに拠点を置く企業に最も活発に投資したのは、同じくオースティンを本拠とするシルバートン・キャピタル(投資件数14件)だった。22年1~3月期も同社の投資件数が最多(5件)だった。

フロリダ州マイアミ

投資家は次の米テック拠点としてマイアミにも注目している。ファウンダーズファンドのゼネラルパートナー、キース・ラボワ氏や、ブルームバーグ・キャピタルのデビッド・ブルームバーグ氏らこうした投資家はマイアミに移住した理由として「時差を気にせずにイスラエルとニューヨークに電話できる」点や、取引の際に中南米に近い点を挙げている。

一方、ソフトバンクグループ(SBG)は21年1月、この地域のテックスタートアップに1億ドルを投資する方針を明らかにした。もっとも、発表から9カ月足らずで2億5000万ドル以上を投資し、この目標を軽く突破した。

マイアミに拠点を置くスタートアップの調達額は21年10~12月期に過去最高に達した後、22年1~3月期には50%減の11億ドルと乱高下した。もっとも、調達件数は81件と過去最多を更新し(公表ベースで過去最多となる149の投資家が出資)、この地域のスタートアップへの関心の高さを示した。

マイアミではブロックチェーン(分散型台帳)技術に注目が集まっており、国際ビットコイン会議が2年連続で開かれた。暗号資産(仮想通貨)ウォレットのブロックチェーン・ドット・コム(Blockchain.com)が最近、米国の拠点をマイアミに移したほか、仮想通貨などの取引を手掛けるイートロ(eToro)も米拠点をマイアミに設けた。同市のフランシス・スアレス市長は仮想通貨企業の流入を支援すると公言している。

マイアミに拠点を置くブロックチェーン・仮想通貨企業の22年1~3月期の調達額は5億ドルを超え、ニューヨーク、シリコンバレー、ロサンゼルスに次ぐ4位につけた。この額は同四半期の米ベンチャー投資全体の1.5%にすぎないが、米ブロックチェーン企業の調達額全体の9%近くに及んだ。

マイアミの資金調達と投資家の動向

・ユニコーン

マイアミ大都市圏に拠点を置くユニコーンは10社だ。このうち、建築・設計資材のマーケットプレイスを運営するマテリアル・バンク(Material Bank)、非代替性トークン(NFT)コレクションの「Bored Ape Yacht Club(BAYC、退屈な類人猿ヨットクラブ)」や「クリプトパンクス(CryptoPunks)」を所有するユガラボ(Yuga Labs)の2社が22年にユニコーンになった。ユガラボの企業価値は40億ドルで、マイアミで最も企業価値が高いユニコーンでもある。

・最大の案件

22年1~3月期のマイアミの最大の案件はユガラボのシードラウンド(4億5000万ドル)だった。米アンドリーセン・ホロウィッツが主導したこのラウンドは、同四半期の世界最大のシードラウンドでもあった。

・最も活発な投資家

21年の最も活発な投資家はSBG(7件)だった。22年1~3月期はフロリダ州タンパに拠点を置くVC兼エンジェル投資家ネットワーク、フロリダ・ファンダーズ(3件)だった。

テキサス州ダラス

ダラスのテック業界は目立たないが急成長している。ダラスはオースティンやマイアミほど投資家や創業者、大手テック企業の口には上らないものの、数字が成長ぶりを物語っている。

ダラスはオースティンと同様に、22年1~3月期にベンチャー投資が低迷するなかでも調達額が増えた4つの米大都市圏のうちの1つだった。

しかも、ダラスのこの1年の成長ぶりは米国の他の都市をはるかにしのぐ。ダラスに拠点を置くスタートアップの22年1~3月期の調達額は23億ドルで、前年同期の4億300万ドルから462%も増えた。10億ドルを調達したレートステージ(後期段階)の1件のラウンドが調達総額を押し上げた。調達件数も54件と過去最多で、このうちメガラウンドは6件だった。

テック人材も増えている。ダラス大都市圏のテック業界の求人数は、ニューヨークとロサンゼルスに次いで3番目に多かった。

ダラスの資金調達と投資家の動向

・ユニコーン

ダラス大都市圏のユニコーンは6社だ。このうち、企業向けに調整可能なウェブブラウザーを開発するアイランド(Island)が22年1~3月期にユニコーンに加わった。ダラスで最も企業価値が高いスタートアップは、がん患者の遺伝子を調べて個人に合った治療法を決める「がんゲノム医療」を手掛けるキャリス・ライフサイエンシズ(Caris Life Sciences、78億ドル)だ。

・最大の案件

22年1~3月期の最大のラウンドはサイバーセキュリティー企業セキュロニクス(Securonix)のシリーズD(10億ドル)だった。同四半期のメガラウンドはこれを含めて6件に上った。一方、21年通年はわずか4件だった。

・最も活発な投資家

17年以降のダラスで最も活発な投資家は、米レボリューションの「ライズ・オブ・ザ・レスト・シード・ファンド」(11件)だ。このファンドは米国の従来のテック拠点であるシリコンバレー、ニューヨーク、ボストン以外のスタートアップに出資している。22年1~3月期は米セコイア・キャピタル、米ストライプス、米インサイト・パートナーズ、米ラリー・ベンチャーズ(それぞれ2件)が並んだ。

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