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山口FGトップ解任劇 吉村前CEOは裸の王様だったのか

日経ビジネス電子版

金融史に残るトップ解任劇となった山口フィナンシャルグループ(FG)。同社は2021年12月24日の臨時株主総会で、前会長兼最高経営責任者(CEO)の吉村猛氏を取締役から解任する議案を審議する。総会を前に、関係者らによる舌戦が繰り広げられている。

「会見での虚偽説明、印象操作、守旧派の情報リーク、情報操作……。不適切なガバナンス(企業統治)のオンパレードだ」

口火を切ったのが、山口FGの代表権とCEOの役職を事実上剥奪された吉村氏。11月29日の記者会見で、こう語気を強めた。

山口FGの取締役会(社内3人、社外7人)は6月、「CEOの権限を逸脱する行為をしていた」などとして吉村氏の「代表取締役会長兼CEO」の職について事実上解任する決定を下した。吉村氏を除く9人の取締役の全会一致だ。

これに対し、吉村氏は「守旧派の取締役が主導したクーデターであり、問答無用の闇討ち介入だ」と猛反論、中立的な第三者委員会による再調査を求めている。

「クーデターありえない」と監査等委員

一方の山口FG。解任後、「6月の取締役会での一人ひとりの判断の終結結果だった」とクーデターであることを否定している。吉村氏のCEO再任にノーを突き付けたキーパーソンの1人、社外取締役監査等委員で弁護士の国政道明氏が日経ビジネスの取材に応じた(記事後半に一問一答を掲載)。「誰かが首謀して社外取がそれに同調したり、従ったりすることはありえない」と一蹴する。

今回の動きをおさらいしよう。

対立が先鋭化したのは5月下旬。吉村氏は、消費者金融アイフルと共同出資してリテール(個人向け)専門の新銀行を設立する計画を進めていた。5月28日に開かれた臨時取締役会で、その内容を説明。新会社はコンサルティング会社経営者のA氏を年1億円規模の高額報酬で新銀行のトップとして招くなどだった。先方とは口頭で合意しているとした。

他の取締役は「この新銀行プロジェクトの立ち上げ自体を取締役会で決議すべきではないか」「A氏への報酬が高過ぎるのでは」などと矢継ぎ早に質問した。これに対して、吉村氏は「この件はCEOとしての決裁権限の範囲だ」などと反論。

約5時間に及んだこの日の取締役会では、「新銀行プロジェクトの開始を承認するが、A氏の採用については持ち越す」という結論を出した。自分の思い描く通りにならなかった吉村氏は以降、決裁権限のある業務での意思決定を拒むようになったとされる。

6月の取締役会決議事項に「取引先との懇親会費」といった取締役会での決議が通常求められていないものまで含まれるようになった。他の取締役は、こうした状況も踏まえ「会社の業務執行の支障となり、混乱させた」として吉村氏にCEOの資質がないとみなした。

CEOの権限範囲はどこまで

一連の騒動で浮かび上がる注目点は、「代表取締役会長兼CEOの権限はどこまでか?」と「取締役会や取締役の役割とは?」だ。取締役会が、執行業務を監督するのは言わずもがなだ。会社法362条にも規定されている。では、取締役会と取締役は、執行業務の最高責任者である代表取締役CEOにどこまでモノ申すことができるのか。

その識見は、1973年5月22日の最高裁判例で示されている。代表取締役業務執行に対する取締役の監視義務とその責任についての見解だ。

「取締役会は、会社の業務執行につき監査する地位にある。取締役会を構成する取締役は、代表取締役の業務執行一般につき、これを監視し、必要があれば取締役会を自ら招集し、あるいは招集することを求め、取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有する」(最高裁第3小法廷)

これは監督するだけでなく、「取締役は、代表者が適正な業務をしているかをチェックしなければならない」と通常解釈される。代表者が権限の範囲内でいろいろなことをやろうと思っても、取締役会が「この案件はおかしい。これはストップだ」と指摘すれば、そうならなければならない。それほど取締役会と取締役は強い法的根拠と権限を持つ。

そもそも「CEO」の権限範囲は法律では規定されていない。各会社の取締役会規則や決裁権限基準などに基づく。山口FGでは取締役会規則に「合併・重要な業務提携の決定、解消、その他の経営管理に関する重要事項は、取締役会の決議事項になる」と定められている。

最高裁判例と規則に照らすと、5月28日、吉村氏以外の他の取締役が「このプロジェクトをスタートすること自体、取締役会決議が必要ではないか」「A氏の採用はやめるべきだ」などと指摘、この計画に待ったをかけることには理がある。

この点、吉村氏はこう反論する。「相手方の経営トップと新銀行構想について話をするのが問題なのか。構想は意見交換およびお互いの考えについて口頭で了承した程度であり、初期的な検討段階だった」

これに対し、国政氏は「吉村氏は5月28日の時点でかなりの事柄について先方と合意していると主張しており、『既に6月1日から雇用する約束をしている。A氏を採用しなければ損害賠償請求される』などと脅しとも受け取れるような言葉もあった」と指摘。吉村氏が独断専行で話を進め、CEOとしての権限逸脱行為があったとの認識だ。

取締役会が問題視したのは、新銀行構想の進め方に関する部分だ。ところが、「吉村氏は自分の職務権限を全て否定されたと感じたようで、自分の権限を放棄して全て取締役会で決めてほしいという態度に出た。我々は新銀行の案件以外の他の業務執行まで止めるつもりはなかった」(国政氏)。「改革はスピード勝負。執行権限はできるだけ広くあるべきだ」と考える吉村氏と会社側の意見の隔たりは埋まらなかった。

吉村氏は「裸の王様」だったのか。それとも権限を放棄し、自ら裸の王様になってしまったのか――。地銀のあり方を変えなければならないという方向性は経営陣で一致していただけに、歩み寄れなかった吉村氏と取締役会の認識の差は、日本企業のガバナンスに対する捉え方が一様ではない現実を映し出している。

トップ解任劇の背景には何があったのか。山口FGの取締役監査等委員の国政氏との一問一答は以下の通り。

国政道明(くにまさ・みちあき)氏
1943年生まれ。67年中央大学法学部卒業。70年司法修習生、72年弁護士名簿登録・名古屋市弁護士会入会。74年広島弁護士会登録。2014年山口フィナンシャルグループ非常勤監査役、15年から同社取締役監査等委員(非常勤)。日本弁護士連合会理事、広島弁護士会会長、中国地方弁護士会連合会理事長などを歴任

第三者委で調べる必要はない

――吉村氏が「会社は虚偽説明している」「CEO権限逸脱行為はない」「これはクーデターだった」などと主張していますが、どのように感じていますか。

「私の認識としては会社が虚偽説明したと思っていない。事実を隠蔽したとも思っていない。『守旧派による違法なクーデター』と吉村氏は言っているが、とても残念に思う。彼の言う『守旧派』というのはどういう意味なのか」

「吉村氏は『自分は地銀改革の先頭ランナーで改革派』と思っているようだが、社外取締役は7人いる。うち2人が監査等委員だ。監査等委員以外の社外5人は、1年前と今年に選任された。全て吉村氏が人選して依頼した。自分が守旧派に依頼したのかと言いたい。5人は、地銀のあり方について真剣に考え、改革にも前向きだと認識している。守旧派という言葉を吉村氏が使うことに違和感がある」

――「クーデターがあった」と主張しています。

「クーデターの定義がよく分からない。例えば、吉村氏の代表取締役就任に際し、賛成と反対の比率が6対4、7対3に割れたのなら、誰かが吉村氏を追い落とすためのクーデターといえるかもしれない。しかし、彼以外、彼が選任した社外取含む全員がCEO選任に挙手しなかった。そのことを彼は重く受け止めてほしい。事前の申し合わせもなく、クーデターのわけがない」

――解任は、監査等委員が首謀したとも指摘しています。

「よく考えてほしいのは、監査等委員は、会社法の規定によって取締役の業務執行について監査する権限がある。独立した立場だ。『常勤監査等委員がクーデターを首謀した』となぜそのような主張になるのか。社外取が、監査等委員の考えに同調したり、従ったりすることはありえない」

――公正中立な第三者委員会の設置も求めています。

「日本弁護士連合会が2010年に企業等不祥事における第三者委員会ガイドラインを作成している。そこに『犯罪行為や法令違反、社会的批判を招くような不正・不適切な行為に関しては第三者委員会が好ましい』となっているが、通常は社内調査委員会でいい」

「我々は客観性、透明性を担保するために、一連の問題の調査委員会ではいずれも弁護士に調査委員長になってもらったり、アドバイザリーになってもらったりした。客観性は十分担保されている。この事案は第三者委を設置して調べるものではないというのが、吉村氏を除いた取締役全員の一致した意見だ」

新銀行以外の業務は止めず

――今回の解任劇の最大の問題は何でしょうか。

「5月、吉村氏に関する内部告発文が彼を除く全取締役に送られてきた。これを放っておくか、調査するかについて意見交換した。インターネットが発達したこういう時代だから、長らくトップにいる方への告発文が出た以上、一定の調査をした方がいいということになった。それは取締役会決議で決まった」

「そうした中、5月28日に取締役会が開かれ、新銀行の進め方に関する話し合いがあった。新銀行構想について吉村氏以外の取締役から質問が相次いだ。吉村氏は、『新銀行計画の初期段階の話を説明しただけ』と主張しているようだが、私の認識は入り口論ではなかった」

「取締役会では『先方と口頭で合意した』と言っており、コンサルティング会社経営者のA氏を1年契約で契約社員として雇い、法外な報酬を払うというものだった。構想については基本的に誰も反対ではなかったが、そのコンサル会社が作った案をベースにするのはおかしいという意見が出た」

「A氏との雇用契約ではなく、業務提携をしたらいいのではないかとも言ったが、既に『6月1日から雇用する約束をした』と。それはおかしいと言った。すると『損害賠償請求を受ける可能性がある』といって、脅しのようなことまで言った。吉村氏は、我々の指摘に納得がいかなかったのだろうが、そのような態度は執行側の責任者としていかがなものか。新銀行の計画の進め方以外、我々はダメだとストップしたわけではないのだから」

――5月28日の取締役会が分岐点となったのですか。

「そうだ。吉村氏は、新銀行プロジェクトをどう進めるかは代表取締役である執行責任者としての自分の権限であり、取締役会にとやかく言われる筋合いはないと思ったのだろう。しかし、我々取締役は代表取締役の業務執行に対する監視義務がある。取締役会は代表取締役に対して報告を求めることができるし、いくら執行権限があっても、取締役会がストップしなさいといえば、それはストップされるものだ」

「これから地方銀行が生きていくためには、何らか手をつけないといけないという認識は全ての取締役が持っていた。吉村氏がリテールで収益が上がらないことについて苦慮していたのは事実だ。それでいろいろ考えたのだろう。だが、コンサルの提案を丸のみし、しかもコンサル代表者のA氏に高額報酬を払うのには疑問だった。報酬契約をして、着手金を払ったうえで、成功したらそれに合う報酬を払えばいいと言った」

――その後、吉村氏と取締役会に距離が生まれるのですね。

「吉村氏は執行権限を否定されたから、全部取締役会で決めてほしいという態度に出た。6月25日の取締役会の議題が35件以上だった。それは私に言わせたら、居直りでしかない。我々は他の業務執行を止めろというつもりはなかった。35件については正直、皆がびっくりした。吉村氏がやること全てを否定したわけじゃない。彼がどうしてそこに過剰反応したのか、分からない」

――繰り返すが、吉村氏の解任について、取締役会などの中で事前の申し合わせはなかったのですか。

「そうしたメールはもらった記憶はない。何らかのやりとりがあるとしたら、調査委員会の調査委員としてのやりとりがあったのかもしれない。事前の申し合わせはあるわけがない。クーデターとなる証拠をつかんだとして執行役員(既に解雇)が訴えたが、なぜ権限を逸脱して監査等委員のメールを見たのか。それは違法収集証拠になる」

「刑事事件では、違法収集証拠による事実認定はできない。これは社内規定違反であることは明白であり、あってはならないこと。公益通報者保護法違反には当たらない。何の権限もない社員が、監査等委員のメールを見るなんてありえない。その行為の法令違反、内部規定違反の方が公益通報者保護法よりも強い」

(日経ビジネス 小原擁)

[日経ビジネス電子版 2021年12月6日の記事を再構成]

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