Zホールディングス、純粋持ち株会社制度廃止の先に難路 - 日本経済新聞
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Zホールディングス、純粋持ち株会社制度廃止の先に難路

「意思決定が様々に交錯する中でどうしてもスピード感を上げられない、あるいは考えを一つにまとめられない。そういったデメリットが、この2年を経てかなり出てきた」

ヤフーやLINEを傘下に持つZホールディングス(ZHD)の川辺健太郎社長共同最高経営責任者(CEO)は2月2日の会見で、思い描いた経営改革を実行できなかった点を素直に認めた。

同日、2023年度中をめどに純粋持ち株会社であるZHDと、傘下のヤフーとLINEの3社を合併する方針を発表。4月からは川辺氏は代表権のある会長に就き、代表取締役共同CEOでLINE社長の出沢剛氏が社長CEOに昇格。LINE出身の慎ジュンホ取締役GCPO(Group Chief Product Officer)が代表権を持つなど新体制に移行する。

会見では、3社の合併がスピードという経営課題を克服するための最善の策であると強調した。ただ、純粋持ち株会社制の終焉(しゅうえん)が経営スピードを速めるという点は、そのままうのみにできない。

時計の針を2年戻そう。

「グローバル化の進展や、重複する事業・サービスの統廃合による収益力を向上させる」。21年3月、ヤフーとLINEが経営統合した際の会見で川辺氏は、統合後のシナジーを雄弁に語っていた。

だが、アジアなど海外展開が進むLINEの拠点を活用したグローバル化は当初の想定ほど進んでいない。キャッシュレス決済で重複するLINEペイとPayPay(ペイペイ)を「22年4月に統合する」と発表したが、実際は双方サービス加盟店の乗り入れなどは実現したものの、2つのサービスは併存したままだ。「統合はサービスの連携を深めていくという意味であって、一つにまとめるわけではない」(ZHD幹部)とトーンダウンし、ZHDの停滞にもつながっている。

稼ぎ頭だった広告などメディア事業もマイナス成長に入っており、ヤフーとLINEの統合で期待された効果を投資家の多くは実感できていないのが現状だ。その最たる要因が、冒頭に川辺氏が語った「意思決定の交錯」なのだろう。

だが、今回の純粋持ち株会社制度の廃止という再編で意思決定や変革が迅速化するという論には違和感が拭えない。

純粋持ち株会社制度の廃止は、現代の潮流と逆行する。1997年に独占禁止法が改正されて持ち株会社制度が解禁されて四半世紀がたつ。大和総研の調査では、上場会社の約2割に当たるおよそ700社が持ち株会社に移行しており、今でも年間20〜40社前後の上場企業が持ち株会社に移行する。直近では、ソニーグループは21年に、パナソニックホールディングスも22年に相次いで持ち株会社化した。

なぜ大企業がこぞって持ち株会社制を選ぶのか。最大のメリットは「スピード」だ。

持ち株会社制度は、子会社から経営を切り離すことで事業に専念し、持ち株会社はグループ全体の経営に集中することで、意思決定を速める効果があるとされる。そこで経営改革を実現できなかったから事業会社制に戻るというのは、時代の流れに逆行する行為でもある。

ZHDの経営改革がうまくいかなかったのは制度が悪いのではなく、真の持ち株会社になり得なかったことに原因がある。その象徴が「意思決定の交錯」という川辺氏の言葉だ。本来であれば、傘下のヤフーやLINEは事業に専念し、持ち株会社であるZHDがグループ全体の経営方針や経営資源の配分を定めて経営の効率化を図るべきだ。

ただ、「それぞれ(の会社に)取締役がおり、取締役会があって経営会議もあって、意思決定が交錯した」との川辺氏の述懐からは、持ち株会社が経営資源の分配を最適化できず、事業会社は自分たちで意思決定を完遂できないという課題が浮かび上がる。

持ち株会社制度に詳しい大和総研の吉田信之・主任コンサルタントはZHD個社ではなく一般論としたうえで「持ち株会社化で経営のスピードを上げるには、権限委譲が不可欠。多くの階層の承認を得なければいけないという、元の会社の体系を崩さずに持ち株会社化している会社は本質的な効果を得られにくい」と分析する。

今後のZHDは社内カンパニー制を導入することで、意思決定の迅速化を図る。だが、制度だけ変革しても運用がついてこなければ、これまでと同じ問題に直面しかねない。

ZHDはソフトバンクグループ(SBG)の傘の下にあり、多層構造の中に上場企業が多く存在する特殊な企業でもある。その複雑さがセクショナリズムを生み、意思決定を遅らせていないだろうか。今回の持ち株会社制度の解消は、そうしたSBG傘下の多層構造の解消につながるかもしれない。

ZHDの株価は、発表翌日の2月3日に、一時前日比14.5%上昇し、東証プライム市場の値上がり率で3位につけるなど、市場からは一定の評価を得ている。

「ユーザーにとって意味ある統合にしなければならない」――。2年前の統合時に掲げた目標達成を実現するためには、体制変更で真の変革を成し遂げる必要がある。

(日経ビジネス 八巻高之)

[日経ビジネス電子版 2023年2月3日の記事を再構成]

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