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NTT働き方改革の狙いと課題 転勤廃しテレワーク中心に

ビジネススキルを学ぶ グロービス経営大学院教授が解説

NTTが転勤・単身赴任を廃止し、新型コロナウイルスの感染が収束した後もテレワークを中心とした働き方を基本にすると発表しました。この動きについて、グロービス経営大学院の嶋田毅教授が「動機付け・衛生要因」と「X理論・Y理論」の観点で解説します。

【解説のポイント】
・従業員の不満要因の1つを解消し、働く意欲の向上が期待できる
・テレワークや「ジョブ型」で連携が希薄化しイノベーションに支障も

「満足」「不満」を制御

今回のNTTの動きは①転勤・単身赴任の廃止②テレワーク中心の働き方③「ジョブ型」の導入――などいろいろな施策を含んでいますので、分けて考えましょう。まず、転勤・単身赴任の廃止について検討します。古典的な理論の「動機付け・衛生要因」で考えることができそうです。

米国の臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグ氏が提唱したこの理論では、仕事に対して満足をもたらす要因と不満をもたらす要因は異なると考えます。満足をもたらすものが動機付け要因で、仕事の達成感や責任範囲の拡大、能力向上、難易度が高くやりがいのある仕事などが挙げられます。

一方、衛生要因は直接的に人々を動機づけるものではなく、不満を解消するものです。給与や対人関係、労働時間、会社の方針などが典型例です。仮に労働環境に不満があるなど衛生要因が満たされていない状況でどれだけ動機づけ要因を与えても、不満は解消されていないため従業員のモチベーションは簡単には上がらないと考えます。

家庭不和や少子化にも影響

今回のNTTの転勤・単身赴任廃止は、不満をもたらす衛生要因の改善と見ることができます。転勤をポジティブに捉える人もいなくはないですが、夫婦共働きの場合はパートナーの仕事をどうするかで悩んだり、子どもに転校や友人関係の変化を強いたりもします。単身赴任となると、配偶者や子どもと別れて暮らすことにストレスや味気なさを感じる人もいるでしょう。離婚など家庭不和の原因にもなり得ます。

NTTのような日本を代表する大企業が従業員のプライベートに配慮し、率先して転勤・単身赴任を廃止することは、他の企業にも少なからぬインパクトをもたらすでしょう。多くの企業がこれに倣えば、日本の喫緊の課題である少子化を多少緩和できるかもしれません。夫婦やカップルが生活や家計の見通しを立てやすくなるからです。

ただし、全国でビジネスを展開しているNTTのような企業の場合、採用や働き方を工夫しないと人手を確保できません。その一環として必要なのがテレワークということでしょう。新型コロナ禍がもたらしたひとつの発見は「物理的に移動しなくてもオンラインである程度仕事を回すことは可能」というものでした。職種などにもよりますが、テレワークで十分に業務が回るなら、移動コストの削減や従業員のプライベートの充実にもつながり合理的と言えます。

テレワークで進む成果主義

ただし、テレワークをうまく活用するためにはいくつかの条件があります。活用企業のマネジャーが悩んでいるのが、部下の動きが把握しづらいということです。どの仕事にどのくらいの時間を費やし、どういうやり方で処理しているのかも見えにくくなります。また、日本の人事評価ではこれまで、成果だけではなく能力や勤務態度も勘案するのが一般的でした。成果や能力はともかく、勤務態度をテレワークでしっかり確認するのは容易ではありません。

そこで進むと思われるのが、管理や評価は時間や勤務態度でなく成果を中心に行おうというものです。この流れはかねて進んでいましたが、テレワーク中心になるとさらに加速するのです。

NTTのジョブ型雇用の推進もその文脈上にあります。時間などではなく、しっかり責任範囲を決め、成果で管理していこうという方法論だからです。ジョブ型のメリットとして①短時間で戦力になる②従業員自らがスキルアップに励む③成果達成への意欲が向上する――ことなどが挙げられます。もちろん、社員間の協力の姿勢が薄れるなどのデメリットもあり、課題をどうクリアするかは日本企業が働き方改革を進めるなかで試されるところです。

「ジョブ型」成功のポイント

さて、テレワークやそれに伴って進むといわれているジョブ型雇用を成功させる際のポイントとなるのが、ここでも従業員の動機付けです。ここではもうひとつの古典的な動機づけ理論である「X理論・Y理論」を紹介しましょう。

この理論では、人々を大きく2つの見方で分類します。X理論では「人間は生まれつき仕事が嫌いで責任を回避する」という定義の下、「アメとムチ」で厳しく管理する必要があります。一方、Y理論では「人間は生まれつき勤勉で責任感がある」と定義し、面白い仕事や活躍機会を与えることで生き生きと働いてくれることを期待できます。著述家のダニエル・ピンク氏が提唱したモチベーション2.0(人を動かすのはアメとムチ)とモチベーション3.0(人を動かすのは内発的動機)に通じる部分が大きいです。

比較的難易度の低い定型業務などはX理論的なマネジメントも必要になりますが、企業の価値を生み出すのはやはり難易度の高い非定型業務です。テレワークという難しい環境の中でいかにそうした非定型業務を担うホワイトカラーの動機づけを行うか、中間管理職のマネジメント力を底上できるかが、NTTにとっては非常に大きな課題となるでしょう。

この部分を誤ると、仕事の割り当てや評価への不満や、テレワークならではの疎外感などから、かえって先述の衛生要因をマイナスの方向に動かしてしまう可能性があります。また、採用の段階でY理論にかなう人材、言い換えれば内発的動機から積極的に働く人材を適切に選抜することも当然大事になります。

イノベーションを阻害?

さて、2020年春ごろからの約1年半にわたるテレワークの成果について、いくつかの研究もなされています。中でも注目されているのが、米マイクロソフトが21年9月に発表した研究論文です。

この論文によると、テレワークへの移行によって、部署間のコミュニケーションが阻害され、部署ごとのサイロ化(タコつぼ化)が進んでいるとのことです。それを緩和するような非公式のコミュニケーションも大きく減っています。つまり、テレワークという働き方は、やや視野を狭め、組織間の交流を阻害する可能性があるのです。

マイクロソフトはこの結果を踏まえ、生産性やイノベーションに悪影響を与えないような取り組みが必要だとしています。イノベーションは「新結合」とも言われるように、組織を超えた協業・連携から生まれることが多いものです。それが阻害されることは、NTTのような技術の最先端を行くべき企業にとっては大きな痛手と言えるでしょう。

グーグルは折衷型

別のニュースでは、米グーグルがニューヨーク中心部のマンハッタンのオフィスビルをおよそ2300億円で購入すると発表しました。ルース・ポラット最高財務責任者(CFO)は同社の公式ブログで、テレワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド型の模索や従業員のコミュニティー作りの一環であるといった趣旨のことを述べています。

NTTもこうした情報を知らないわけではないでしょう。世界のテックジャイアントたるグーグルが完全テレワークではなくハイブリッド型を模索するなかで、NTTの今回の方向性はかなりのチャレンジにも思えます。ただ、大変なことをやろうとするからこそブレークスルーとなる発想が生まれ、イノベーションが加速することもあります。NTTの施策の行方やもたらされる効果に注目です。

しまだ・つよし
グロービス電子出版発行人兼編集長、出版局編集長、グロービス経営大学院教授。88年東大理学部卒業、90年同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経て95年グロービスに入社。累計160万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」のプロデューサーも務める。動画サービス「グロービス学び放題」を監修

「X理論・Y理論」についてもっと知りたい方はこちら

https://hodai.globis.co.jp/courses/f366a3ee(「グロービス学び放題」のサイトに飛びます)

ビジネススキルをもっと学びたい方はこちら

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