Googleのブロックチェーン戦略、ウェブ3でも覇権狙う - 日本経済新聞
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Googleのブロックチェーン戦略、ウェブ3でも覇権狙う

ブロックチェーン(分散型台帳)技術を活用した次世代インターネット「Web3(ウェブ3)」をめぐって、巨大IT(情報技術)企業も対応を迫られている。米グーグルや同社の持ち株会社の米アルファベットはこの分野でも覇権を握ろうと、基盤インフラや暗号資産(仮想通貨)の取引・決済手段を手がけるスタートアップなどへの出資や提携を活発化させてきた。CBインサイツのデータからグーグルのブロックチェーン戦略を読み解く。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

グーグルはインターネットの普及に伴い名をはせた。多くの消費者にとって、同社の検索エンジンが表示されたホーム画面といえばネットにつながった状態を指す。だが今や、ブロックチェーン開発企業や仮想通貨スタートアップは、グーグルなど大手企業による支配から脱した分散型インターネット「ウェブ3」を構築しようとしている。

グーグルやアルファベットも手をこまぬいてはいない。

ブロックチェーン技術を活用したウェブ3が定着しても今の地位を維持する戦略として、2つの主な目標を掲げている。

1.クラウドコンピューティング部門「グーグルクラウド(Google Could)」をウェブ3開発に不可欠なサービスプロバイダーにする

2.モバイル決済「グーグルペイ(Google Pay)」を従来の決済と仮想通貨の橋渡し役にする

CBインサイツのデータを活用し、グーグルやアルファベットの2020年以降の出資や提携から同社のブロックチェーン分野での5つの重要戦略についてまとめた。このリポートではこの5つの戦略と、それらがグーグルのウェブ3戦略とどう関係しているかについて取り上げる。

・ブロックチェーンのインフラと開発

・仮想通貨対応カードと決済

・仮想通貨の取引、ウォレット(電子財布)、オンランプ(法定通貨から仮想通貨への交換)

・レイヤー1ブロックチェーン(ブロックチェーンの基盤インフラ)

・非代替性トークン(NFT)とゲーム

ブロックチェーンのインフラと開発

グーグルは、同社の牙城を崩すために一部企業が活用しようとしているブロックチェーンのエコシステム(生態系)構築を支援したいと考えている。つまり、グーグルは少なくとも現時点では、ウェブ3の可能性を過度に恐れてはいない。例えば、18年からはグーグルクラウドの法人向けデータウエアハウス(データの倉庫)「ビッグクエリー(BigQuery)」に代表的な仮想通貨「ビットコイン」「イーサリアム」のデータを保管している。21年には、3万7000以上のウェブ3向けアプリケーションで使われているブロックチェーンの拡張機能(レイヤー2)「ポリゴン(Polygon)」をビッグクエリーで利用できるようにした。

グーグルは22年10月、ビッグクエリーと米仮想通貨交換業大手コインベース・グローバル傘下コインベース・クラウドの開発プラットフォーム「ノード(Node)」との提携を発表した。コインベースのクラウドサービスを利用している開発者は、グーグルのブロックチェーンデータと解析も使えるようになった。この提携により、グーグルは開発者向けのウェブ3データ提供者として地位を固め、この拡大しつつある新たな顧客基盤に到達するさらなる手段を得た。

22年にはグーグルの親会社、アルファベットの投資部門もブロックチェーンのインフラや開発プラットフォームに出資した。アルファベット傘下のGV(旧グーグル・ベンチャーズ)は22年1月、ビットコインによる即時決済を可能にする分散型ネットワーク「ビットコイン・ライトニングネットワーク(Bitcoin Lightning Network)」のインフラを手掛ける米ボルテージ(Voltage)のシードラウンド(調達額600万ドル)に参加した。ボルテージはブロックチェーンのネットワークに参加しているコンピューター「ノード」のホスティング(貸し出し)、ビットコインによる決済の受け付け、ノードの流動性管理、企業や開発者への知見を提供する。

22年1月にはアルファベット傘下のキャピタルGも米ファイアブロックス(Fireblocks)のシリーズE(5億5000万ドル)に参加した。このラウンドによりファイアブロックスの企業価値の評価額は80億ドルになった。ファイアブロックスは仮想通貨企業や既存の金融機関にデジタル資産の取引や保管、発行を可能にするブロックチェーンのインフラ基盤を提供している。

仮想通貨対応カードと決済

グーグルペイは仮想通貨で決済できるカードなど、あらゆるモノの決済の代名詞になろうとしている。仮想通貨対応カードの利用者は現時点ではまだ少ないが、増加しつつある。米クレジットカード大手ビザは21年10~12月期の顧客による仮想通貨対応カードの決済額が25億ドル相当に上ったことを明らかにした。同マスターカードは自社サイトで、9000万カ所以上で仮想通貨による決済が可能だとうたっている。

グーグルはグーグルペイのウォレットを仮想通貨カードに対応させるため、この2年で仮想通貨企業と相次ぎ提携している。20年3月には、グーグルペイでコインベースのビザデビットカードが使えるようになった。さらに、仮想通貨交換業のバイナンスやシンガポールのクリプト・ドット・コム、スイスのネクソ(Nexo)、米ジェミニ(Gemini)、仮想通貨決済の米ビットペイ(BitPay)、デジタル資産プラットフォームの米バックトのカードとも同様の提携を結んでいる。

法人向け(BtoB)の仮想通貨決済にも足を踏み入れている。グーグルクラウドではコインベースの仮想通貨決済サービス「コインベース・コマース(Coinbase Commerce)」を通じ、クラウドサービスの利用料を仮想通貨で支払えるようになった。グーグルクラウドの利用者で、仮想通貨での決済を望んでいるウェブ3企業や開発者へのサービス向上がこの提携の狙いだ。

仮想通貨の交換、ウォレット、オンランプ(法定通貨から仮想通貨への交換)

グーグルペイは仮想通貨カードに対応するだけでなく、仮想通貨を購入する際の入り口にもなりつつある。グーグルはグーグルペイの利用者が仮想通貨を購入できるようにするため、ジェミニ、コインベース、米クラーケン(Kraken)、英ブロックチェーン・ドット・コム(Blockchain.com)、クリプト・ドット・コムなどの仮想通貨交換大手と提携している。公表されている限りでは、先日経営破綻したFTXトレーディングとのつながりはない。

22年9月には、仮想通貨ウォレットやオンランプ、オフランプ(仮想通貨から法定通貨への交換)を手掛ける米ムーンペイ(MoonPay)と提携した。この提携により、ムーンペイの利用者は長々とした登録プロセスやメール認証、本人確認(KYC)情報の入力をしなくてもグーグルのアカウントを使ってサインインし、仮想通貨を購入できるようになった。この新たな機能により、グーグルペイだけでなくグーグルも仮想通貨の世界への橋渡し役になった。

ムーンペイとの提携が発表された数日後、GVはムーンペイと同じく仮想通貨のオンランプを手掛ける米サーディン(Sardine)のシリーズB(5200万ドル)に参加した。サーディンは(クレジットカードではなく)銀行の小口決済網(ACH)送金による仮想通貨の購入に特化しており、フィンテック企業や暗号資産企業に不正防止や本人確認・マネーロンダリング(資金洗浄)対策(AML)プラットフォームを提供している。

レイヤー1ブロックチェーン

グーグルはブロックチェーンのインフラ企業や開発企業との提携に加え、こうした企業が構築したブロックチェーン網「レイヤー1ブロックチェーン」とも直接組んでいる。レイヤー1ブロックチェーンとは、取引を検証・実行するベースとなるブロックチェーン網のことだ。ビットコインやイーサリアム、ソラナ、BNBチェーン、ニアプロトコルなどが主な例だ。

グーグルは22年10月、新サービス「グーグルクラウド・ブロックチェーン・ノードエンジン(Google Cloud Blockchain Node Engine)」を発表した。レイヤー1のブロックチェーン網は取引データを承認し、保存するソフトウエアを実行するデバイス「ノード」で構成される。各ノードはブロックチェーンの同一かつ完全な取引履歴を共有している。

グーグルのブロックチェーン・ノードエンジンはウェブ3企業にノードホスティングサービスを提供する。このサービスを利用する企業は、ノードを自前で展開、管理しなくてもブロックチェーンデータの読み取りや書き込み、取引の中継、ブロックチェーンを使って契約を自動執行する「スマートコントラクト」の実行が可能になる。イーサリアムはブロックチェーン・ノードエンジンに対応した初のレイヤー1ブロックチェーンで、23年にはソラナも加わる予定だ。グーグルはブロックチェーン・ノードエンジンの提供を開始した月に、コインベース・クラウドの「ノード」との提携も発表した。これはグーグルクラウドをウェブ3開発の定番プロバイダーにしようとするグーグルの戦略を改めて示している。

グーグルは実際には数年前からレイヤー1ブロックチェーンと提携している。20年2月にはパブリック型ネットワークを手掛ける米ヘデラ・ハッシュグラフ(HederaHashgraph)のノード運用を担い、運営審議会のメンバーに加わった。同年には分散型動画配信プラットフォーム、米シータネットワーク(Theta Network)のネットワーク承認やブロック・ワン(Block.one)のイオスネットワーク(EOS network)のブロック生成に乗り出したほか、ビッグクエリーでブロックチェーン基盤「テゾス(Tezos)」のデータも利用できるようになった。

22年はグーグルクラウドのレイヤー1戦略にとって活発な1年だった。ブロックチェーン・ノードエンジンを発表したほか、米アプトス(Aptos)、バイナンスのBNBチェーン、ニアプロトコルとも提携し、開発者はグーグルクラウドのツールやサポートを利用できるようになった。11月にはソラナ(Solana)のノード運用を担うことも発表した。

NFT&ゲーム

NFTはウェブ3の重要な要素で、グーグルにとっては事業拡大が望める分野だ。NFTはデジタル資産の所有権を示したものであり、ブロックチェーン技術を使って発行、認証される。

グーグルは21年4月、オリジン・プロトコル(Origin Protocol)と提携し、グーグルクラウド・マーケットプレイス(グーグルクラウド上で使えるソフトウエアパッケージのカタログ)にNFTの作成・売買機能を設けた。21年9月にはNFT取引所とゲーム開発を手掛けるカナダのダッパーラボ(Dapper Labs)と提携し、ダッパーラボのブロックチェーン「フロー(Flow)」のノード運用者になった。GVはその数日後、ダッパーラボの資金調達ラウンド(2億5000万ドル)に参加した。

グーグルは22年9月、NFTで2つの重要な提携を結んだ。グーグルクラウドは「遊んで稼ぐ」NFTゲーム「アクシー・インフィニティ(Axie Infinity)」を開発したベトナムのスカイメービス(Sky Mavis)と提携し、ブロックチェーンネットワーク「Ronin」のノード運用を担った。さらに、グーグルクラウドと共同開発したNFTのプライベートデータ保管プラットフォームを提供するため、米フォートレス・ブロックチェーン・テクノロジーズ(Fortress Blockchain Technologies)とも提携した。

その他

グーグルやアルファベットはこれら5つの重要戦略に加え、さらに2つの分野で重要な投資や提携をしている。

ブロックチェーンを活用した越境決済:GVは20年9月、ブロックチェーン技術を活用した決済企業に越境決済を提供する米ビーム(Veem)に出資した。22年9月には、グーグル傘下のアフリカのファンド「グーグル・フォー・スタートアップス・ブラック・ファウンダーズ」が、アフリカの消費者や加盟店にブロックチェーンによる越境決済を提供する米ベイルポート(Bailport)に出資した。この2つの出資は17年のGVによる米リップル(Ripple)への出資の補完となる。リップルはブロックチェーンを活用した越境決済の最大手で、企業価値は今や150億ドルに上る。

仮想通貨の市場データ&分析:仮想通貨の市場データ分析企業2社、印ティッカープラント(TickerPlant)傘下のクリプトワイヤ(CryptoWire、現3.0 verse)とシンガポールのナンセン(Nansen)は22年、グーグルクラウドとの提携を発表した。2社は現在、グーグルクラウドでプラットフォームを運営している。ナンセンはレイヤー1ブロックチェーンとつながり、消費者にリポートや分析を提供するため、グーグルクラウドのノードサービスを利用する方針も明らかにした。

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