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蚊の発育止める植物色素 筑波大、環境に優しい殺虫剤に

筑波大学などの研究グループは、蚊の成長を止める化合物を発見した。植物の色素として知られる「フラボノイド」の一種で、脱皮や変態に必要な昆虫ホルモンの合成を妨げる。実際にネッタイシマカの幼虫にこの化合物を加えると、発育が止まることを確認した。既存の殺虫剤と比べると影響の出る生物が限られると期待でき、環境負荷の少ない殺虫剤につながる可能性がある。企業との連携も視野に、さらに効果の高い化合物の開発を進める方針だ。

蚊の幼虫は成虫になる過程で脱皮や変態をする。脱皮や変態に必要なホルモンの働きを止めれば、幼虫は死ぬ。

研究グループはこのホルモンを合成する酵素の一つに着目し、その働きを妨げる物質を探索した。同大が以前発見したこの酵素はハエ目とチョウ目だけが持つ。その働きを妨げるとホルモンが作られにくくなり、発育を止めるとともに特定の昆虫にしか影響しないというメリットも期待できるという。

研究ではまず、デング熱や黄熱を媒介するネッタイシマカという蚊の酵素を大腸菌で作った。これを東京大学が持つ9600種類の化合物ライブラリーと混ぜ、東京薬科大が開発した手法で酵素の働きを測定した。この結果、36種類の化合物で酵素の働きが7割以上落ちており、これらの中にフラボノイドに分類される化合物が含まれていた。

そこで市販の別のフラボノイド16種類でも同様に酵素の働きを抑えるか試したところ、11種類で活性があった。酵素と相互作用する化合物の構造をX線で調べ、作用が強まるような構造をもつフラボノイド化合物「デスメチルグリシテイン」を探し当てた。

この化合物は試験管の実験で、酵素の働きを強く抑制した。ネッタイシマカの幼虫に化合物を加えて24時間育て、幼虫の生存率や成長率を調べたところ、約0.001%の濃度でも幼虫が死ぬことがわかった。ただ、殺虫剤として実用化するには「100倍~1000倍の効果が求められる」(筑波大学の丹羽隆介教授)という。

今後はこの化合物が他の蚊にも有効か調べるほか、化学修飾などでさらに活性を高める方針だ。フラボノイド以外にも酵素の働きを抑える化合物を見つけており、より効果の高い薬剤の開発も進める。

蚊はマラリアやデング熱など様々な感染症を媒介し、世界で年間70万人以上の命を奪うとされる。既存の殺虫剤に耐性を持つ蚊も現れており、新しいメカニズムの殺虫剤が求められている。今回見つけた化合物は「これまでにない仕組みで殺虫効果を示す。特定の昆虫にだけ効果を持つ、環境親和性の高い殺虫剤の開発に期待ができる」と丹羽教授は強調する。

(藤井寛子)

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