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災害に強い海底ケーブルを KDDIやNEC、不断の挑戦

3月11日を忘れない

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

東日本大震災では海底ケーブルに大きな被害が出た。KDDIでは太平洋側の海底ケーブルの10カ所で障害が発生し、完全復旧まで約半年かかった。1月には南太平洋のトンガ沖で起きた海底火山の噴火で海底ケーブルが損傷した。海外とのインターネット通信の99%を担う「情報の大動脈」を災害から守るため、関係者は日夜作業に取り組んでいる。

「日本でここまで大きい被害が出たのは初めてだった」。2011年当時、海底ケーブルの修復のために船の手配を調整していたKDDIの黒田浩之グループリーダーはこう振り返る。

陸揚げ局も倒壊

ネットワーク監視センターの情報をもとにケーブルの状態を推定したところ、茨城県沖で3カ所、千葉県銚子市沖で6カ所、神奈川県沖で1カ所の合計10カ所で障害が発生していた。海底ケーブルを陸地に引き揚げる拠点「陸揚げ局」も津波で倒壊した。

地震で海底の地盤がずれ、ケーブルに負荷がかかったことで断線したとみられている。KDDIでは11年3月11日の地震発生直後、横浜市に停泊する専用船「KDDI Ocean Link」に代替用ケーブルの積み込みを始め、約1週間後には現場に駆けつけた。

海中の土砂崩れや地滑り、漁業活動でもケーブルは損傷する。しかし、地震では切れたケーブルが砂の中に埋まり、回収できないことが多い。修復作業は困難を極め、完了したのは11年8月だった。

海底ケーブルは水深0~8000メートルの海底に敷いた光ファイバー網だ。ケーブルで結んだ地点間で高速で大容量のデータをやりとりできる。ケーブル1本あたりの容量は過去20年間で約3000倍に増加し、高画質の映像伝送ができる。通信の遅延は小さく、日本から米国の西海岸までの往復の遅延時間は100ミリ秒程度だ。深海など過酷な環境でも通常25年間運用できる。海外とのネット通信の約9割を担う。

情報の大動脈ともいわれる海底ケーブルだが、保守運用は地道な手作業だ。修復を担う専用船が現場でケーブルを探索し、損傷部分を海底で切断する。切断したケーブルの片方を船に引き上げ、切断面までの通信が正常に動作するかを確認する。その後、反対側のケーブルも引き上げて修復用の予備ケーブルを付ける。最後にケーブル全体を船上でつなぎ直し、再び海底に沈める。一連の作業には3~4日間かかる。工程自体は50年間変わっていない。

複線化が重要

災害でひとたびケーブルが損傷すれば、こうした時間のかかる現場作業は避けられない。東日本大震災のような災害ではケーブル自体を切れないように強化することも難しい。黒田氏は「ケーブルがどこかで切れても通信を維持できるように、ルートダイバーシティー(複線化)を確保することが重要になる」と話す。

KDDIは16年、日米をつなぐ太平洋横断の海底ケーブルとして「FASTER(ファスター)」の運用を始めた。KDDIのほかに中国通信大手の中国移動(チャイナモバイル)や米グーグルなど6社が14年に組み、約300億円を共同出資して敷設した。11年当時、KDDIが運用していた日米間の主要ケーブルは2本だった。

動画など大容量コンテンツの需要の高まりに対応する目的だったが、冗長化が念頭にあった。3本ケーブルを用意することで、1~2本が損傷しても通信を継続できる。ファスターではケーブルの陸揚げする地点を三重県沖と千葉県沖の2カ所に分岐した。千葉県沖で障害が起きた場合、三重県沖のルートで通信を維持できる。片方の陸揚げ局が機能しなくても運用でき、災害に強い海底ケーブル網を整えた。

海底ケーブルに影響する災害は22年も発生した。1月にはトンガ沖で起きた海底火山の噴火で海底ケーブルが損傷し、一部の離島で通信が断絶した。トンガ沖のケーブルは複線化されておらず、ケーブル1本が切れると通信に影響をきたす状態だった。世界のデータ通信量が増加し、情報通信を支える海底ケーブルの重要性が高まるなか、より一層の強靱(きょうじん)化が求められる。

攻撃リスク、官民で守れ


海底ケーブルは自然災害のほか安全保障の観点でもリスクが高まっている。海底ケーブルを専門とする慶応義塾大学の土屋大洋教授は「テロリストが意図的にケーブルを切る恐れがある。台湾有事など国際紛争では、情報インフラを破壊する目的で切断する可能性がある」と指摘する。
海底ケーブルの破壊は国連海洋法条約で禁じられている。海底ケーブルを敷設する際も領海内では管轄する国の許可をとる必要がある。ただし「ケーブルは海に放置している状態なので実際にケーブルを切られた場合、誰が切ったかは分からない。切断を防ぐのは難しい」(土屋氏)。
物理的な切断以外にもリスクはある。海底ケーブルを陸地に引き揚げる「陸揚げ局」のシステムがサイバー攻撃を受ければ、海外との通信接続に支障をきたす。
こうした攻撃リスクについてKDDIで海底ケーブルを担当する黒田浩之グループリーダーは「民間企業だけでは防ぎようがない」と話す。重要インフラを官民一体で守る体制作りが重要だ。
(平岡大輝)

NEC、敷設場所で使い分け

NECは海底ケーブルの製造や敷設を担う世界大手だ。災害時も安定して稼働できるように適切な敷設箇所を選定し、ケーブル強度を高めるなど技術開発を進める。地震や津波の観測にも役立つ機能を持つなど災害への対応力を高めている。

NECはケーブルから中継器の製造や敷設前の海洋調査、経路の選定、敷設工事まで手掛ける。これまで延べ30万キロメートルを超える敷設実績を持つ。アジア、太平洋地域に強みを持ち、2021年にはパラオの国営海底ケーブル事業者からパラオと東南アジア、米国本土を結ぶプロジェクトを受注した。国内でも22年に沖縄での供給契約を結んだ。

世界シェア3割

通信用海底ケーブル市場は米サブコムが4割のシェアを握り、NECは3割、仏アルカテル・サブマリン・ネットワークスが2割で続く。3社で市場のほとんどを占める。

海底ケーブルは一度敷設すると数十年にわたり、安定稼働が前提になる。「障害が起きる可能性が低い敷設経路を選ぶことが大切だ」。海洋システム事業部の鈴木恒平氏はこう話す。

海底にある火山や断層など自然の地形はケーブルにとって大きな障害だ。火山の熱でケーブルが溶けたり、高低差でケーブルに負荷がかかって破損したりするなどの恐れがあるからだ。

公開されている海図などを参考に調査船で事前調査を実施する。音波を海底にあてて地形を探る。海底の地質も調べるなど地道な作業を繰り返して敷設箇所を選定する。

また、異なる太さのケーブルを4種類用意して対応する。場所ごとにあったケーブルをその都度選定する。

例えば、船の行き来や台風などの影響を受けやすい浅い場所はケーブルの周りに鉄線を巻いて強度を高めたケーブルを使う。一方、海底数千メートルといった深海では細いものにする。地形などの条件が複雑な場合、場所ごとにケーブルの種類をつなぎ替えることもする。

地震・津波も観測

敷設方法も工夫している。海底の砂の中に埋めたり、上から保護具をつける。こうした工夫で、行き来する船の航行で起きる水の動きによってケーブルが損害を受ける可能性を減らす。海底ケーブルが必要とされる地域は貿易などが盛んだ。船の航行リスクも常につきまとう。

情報通信の大動脈という役割にとどまらず、地震や津波の計測に役立つ海底ケーブルの製造と敷設もNECは担っている。

海底ケーブル式の地震津波観測システムでは地震の強さや津波の水圧を計れる観測装置を海底ケーブルをつないで構築する。観測結果をすばやく陸地に伝達できる。海底を震源とする地震の場合、最大で地震の発生を数十秒、津波の到達を数十分早く知ることができる。地震や津波の情報をより早く伝えることで被害軽減に貢献することが期待されている。

通信全体の戦略見えず


NECはIT(情報技術)システムが売上の半数以上を占めるが、あらゆる通信システムを提供できる技術も持つ。陸上では高速通信規格「5G」の基地局、宇宙では人工衛星を介した通信、海は海底ケーブルとあらゆる環境に対応することができる。
海底ケーブルでは2021年には米フェイスブック(現メタ)から北大西洋を経由して欧州と米国を結ぶ通信用海底ケーブルの敷設を受注した。北大西洋で受注するのはこれが初めてだ。
21年10月にはケーブル製造のOCC、住友電気工業と共同で通信しやすい海底ケーブルを新たに開発したと発表した。通信できる情報量も増やせる見込みだ。
海底ケーブルで存在感を示すが無線通信の海外展開では苦戦してきた。海外とのデータのやり取りは今後も増え通信の重要性は増す見込みだ。NECの総合力は強みとなり得るが、通信の各分野をまたがる実績を取りまとめた全体の戦略はまだ見えない。海底ケーブルの実績を他分野にも生かす戦略作りが求められている。
(山田彩未)

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