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生成AIの事業活用、有望6分野 設計時間を9割短縮

CBINSIGHTS
プログラムから画像、人間のような声まで全く新たなコンテンツを生成する生成AI(人工知能)を事業で活用する動きが広がっている。インフラ施設を設計する時間を最大90%短縮するなど、大幅な効率化を実現する。設計や新材料の探索、調達の計画立案など特に有望な6分野の用途を紹介する。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

生成AIは既に研究開発や製品の設計など様々なビジネスの場面で時間と費用の節約を実現している。例えば、インフラプロジェクトの設計時間を最大90%短縮し、工業デザインでは原材料の使用量を95%以上削減できる。

産業界の既存各社はいち早く活用に動いている。例えば、韓国・現代自動車は新しい形態の車の部品を効率的に作成するために、CAD(コンピューターによる設計)ソフトウエア大手、米オートデスクのジェネレーティブデザイン・ソフトウエア(条件を入力するとデザイン案を自動生成するソフト)を使った。一方、米IBMはコンピューターチップの材料を見つけて試すため、生成AIを活用している。

今回のリポートでは生成AIが製品開発を加速したり、重要な作業の規模を拡大したりできる産業界の6つの活用事例について取り上げる。

・建物の設計

・製造業&製品の設計

・インフラの設計

・材料探索

・自動運転車用の合成データ

・調達

生成AIを産業界にもたらすベンダー(システム会社)

建物の設計:建物の立地、気候条件、予算など顧客企業の条件に基づき、建物の設計や間取りなどの建築プランを生成AIで自動生成する企業。こうした作業は通常、社内や外部コンサルタントの綿密な調査が必要なため、計算の自動化により時間と費用を大幅に節約できる。

例えば、オーストラリアのアーキスター(Archistar)のソフトウエアプラットフォームにより、不動産開発企業は複数の建物を一斉に設計して比較したり、環境分析や資金的に実現可能なモデル作成を実行したりできる。

この分野の主なベンダーは以下の通りだ。

・アーキスター

・デジタルブルーフォーム(Digital Blue Foam、シンガポール)

・マケット(Maket、カナダ)

・米パラフィン(Parafin)

・米キュービック(qbiq)

・米テストフィット(TestFit)

製造業&製品の設計:生成AIは航空や消費財など製造業全般で部品などの設計・開発を加速できる。これにより、技術者は寸法や材料、重さなどの入力条件に基づいて短時間で設計を繰り返したり、試したりできる。

オートデスクは長い間、この分野のイノベーション(技術革新)をけん引してきた。欧州エアバスはオートデスクのジェネレーティブデザイン・ソフトウエアを使い、主力の小型機「A320」のパーティションを開発した。新たなデザインのパーティションは従来よりも45%軽く、1回の飛行で必要な燃料(と温暖化ガスの総排出量)を削減し、原材料の使用量を95%減らした。

この分野の主なベンダーは以下の通りだ。

・オートデスク

・ダイアバティックス(Diabatix、ベルギー)

・英モノリスAI(Monolith AI)

・米エヌトポロジー(nTopology)

インフラの設計:生成AIはソーラーファーム(大規模太陽光発電)やヒートポンプ、水道システムなどのインフラの設計の最適化も支援できる。こうしたインフラ設計システムに敷地や環境、地理などの条件を入力すると、インフラの立地やデザインを計画してくれる。

例えば、米トランセンド(Transcend)は自社ソフト「デザイン・ジェネレーター」を使えば、技術者はごみ処理施設や発電所の設計時間を90%短縮できるとしている。生成AIでシステムのシミュレーションや機器の選定、建物のモデルを設計するため、技術者はプロジェクトの最終判断を速やかに下し、予算案の協議に費やす時間を減らせる。

この分野の主なベンダーは以下の通りだ。

・トランセンド

・ウルビオ(Urbio、スイス)

材料探索:ベンダーはユーザーが導電性や磁力など特定の性質を最適化した全く新しい材料を作成できる生成AIシステムの開発に取り組んでいる。新たな材料は分子レベルで探索されるため、細胞やたんぱく質を「プログラム」して様々な材料をつくることができるバイオテクノロジーが重要な役割を担うことが多い。

例えば、IBMは生成AIを活用し、製造業やエネルギー業界など産業界での材料探索を加速している。こうした分野ではこれまで、適切な特性を持つ新たな材料の発見に約10年の期間と1000万〜1億ドルの費用がかかっていた。

IBMは例えば、AIを活用し、コストが高く非倫理的に掘削されている可能性があるコバルトやニッケルなどの重金属に代わる安全で高性能な電池向け電解質の材料を探している。同社はこの技術を商用化するために、独メルセデス・ベンツ、電池向け電解液のセントラル硝子、中国発の電池メーカーSidus Energyと提携している。

この分野の主なベンダーは以下の通りだ。

・バイオマター・デザインズ(Biomatter Designs、リトアニア)

・クレードル(Cradle、オランダ)

・OTIルミオニクス(OTI Lumionics、カナダ)

・米プロフルエント・バイオ(Profluent Bio)

自動運転車用の合成データ:自動運転車の開発会社は車の訓練に引き続きシミュレーションを使っている。生成AIを使えばこうしたシミュレーションの訓練やテストに必要な合成データの生成を改善し、加速できる。

合成データは「リアルワールドデータ(RWD)」よりも入手しやすく、自動運転車の市場投入までの期間を短縮し、性能を向上できる。さらに、より広範で多様な訓練シナリオも導入できる。

例えば、米パラレルドメイン(Parallel Domain)は顧客企業が天候や車、人など様々な要因に対する自社モデルの反応をテストできる合成データプラットフォームを手掛ける。クライアントには米グーグル、トヨタ自動車、ウーブン・プラネット・ホールディングスなどが名を連ねる。米エヌビディアや米テスラなどの業界大手も自動運転車の訓練を効率化するために生成AIを使っている。

この分野の主なベンダーは次の通りだ。

・ワンビュー(OneView、イスラエル)

・パラレルドメイン

調達:テックベンダーはテキスト生成ツールを使い、調達チームのプロジェクト計画メモや過去のプロジェクトに基づいて詳細な調達計画を作成する。

人間の作業者は通常、サプライヤー(供給業者)を見つけて調べるために時間のかかる詳細なプロセスをたどる。このプロセスがプロジェクトの成功(または失敗)の土台となるからだ。優れた調達チームを持つ企業の利益率は、平均を15%上回る。生成AIを活用すれば担当者はより詳しい調査や調達計画を作成でき、その結果買い過ぎを減らし、支出を抑えられる。

例えば、米グローバリティ(Globality)は生成AI(具体的には米オープンAIの言語モデル「GPT」)を活用し、プロジェクトの計画を記したメモを詳細な仕様書に仕立てる。さらにグローバリティのAIボット「Glo」がユーザーへの質問を通じてプロジェクトの詳細を把握し、調達書類を自動作成する。同社はGloの活用によって効率が高まり調査時間を減らせる上に、複数の顧客が費用を15%削減できたとしている。

この分野の主なベンダーは次の通りだ。

・グローバリティ

・米トンキーン(Tonkean)

英語の原文はこちら(https://www.cbinsights.com/research/generative-ai-industrials/)

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