「第2のツイッター」 創業者やメタ、新SNS開発
先読みウェブワールド(藤村厚夫氏)
ツイッターをめぐる混乱が止まらない。2022年10月に実業家のイーロン・マスク氏による買収が完了。その後は、利用者数の伸び悩みや赤字体質に大なたがふるわれ、改善が進むものと見られていた。だが、実際にツイッターをめぐって起きていることは周囲の予想を超える事態だ。
マスク氏が最高経営責任者(CEO)に就任以降、従業員の75%を退社や解雇などで削減した。利用者数の伸びが鈍化したとはいえ、全世界で約4億人が使うサービスでこの人員削減策は衝撃的だ。驚きはリストラの規模だけではない。

マスク氏は増収を狙い、有料サービスの追加や値上げ策を矢継ぎ早に決めた。米紙ニューヨーク・タイムズはツイッターそのものの有料化さえ検討されていると報道し、利用者の間にも当惑が広がっている。
同社を支えてきた幹部を含む多くの従業員を容赦なく解雇したためか、最近では、ツイッターのシステム自体のソースコードが流出したりといったセキュリティー上の不祥事も起きた。利用者データの保護や偽情報などの監視に手が回るのかと不安視する声もある。
一方で、ニュースやネットで話題の情報を手軽に伝えたり、逆に情報を知る手がかりとして、短文投稿型のSNSであるツイッターの利用価値は依然として大きい。日本国内ではLINEにこそ及ばないものの、幅広い年代の利用者がいる人気のサービスだ。健全な形で維持されることが望まれるのはもちろんだ。
そんななか、米国では、ツイッターの「後釜」を狙おうとする動きが活発になっている。事業としての不安定性を危ぶむ見方が広がるにつれ、チャンスと見る大手SNSやスタートアップが次々と現れている。
話題はツイッターを創業し、最近までCEOを務めてきたジャック・ドーシー氏の「ブルースカイ・ソーシャル」だ。同氏が在任当時に、ツイッターを分散型システムとして「作り直す」ことを試みた秘密プロジェクトが発端だという。まだ試用段階だが、ツイッター以上にツイッター的なSNSと注目されている。

ブルースカイ同様、非営利事業の色彩が濃いのが「マストドン」だ。こちらも分散型で、有志が自由にサーバーを立ち上げて、小宇宙のように、数々のコミュニティが運営されるというイメージだ。ツイッターが1社で運営管理を行って収益を得てきた世界とは大きく異なるスタイルだ。
フェイスブックやインスタグラムを運用するメタも最近、やはり分散型の短文投稿SNSを開発中だと認めた。さらに、それとは別の動きだが、インスタグラムが「ブロードキャスト・チャンネル」機能を新設した。これはフォロワーにテキストや動画などを一斉配信できる機能で、事実上ツイッターと同じようなことができるわけだ。
このように、米国では第2のツイッターをめざす動きが広がっているわけだが、これは取りも直さず、ツイッターの持つ価値の大きさ、可能性を示唆する動きともいえる。様々な発言や不安定な意思決定で周囲を当惑させるマスク氏だが、ツイッターの価値を最大化する仕事に専念してほしいと願っているのは筆者だけではないだろう。
[日経MJ2023年4月10日付]