韓国ドラマ、Netflixで大ヒット 日本で人気の訳は
ラブストーリーの新潮流 韓国ドラマ編(上)
2020年、Netflixで『愛の不時着』『梨泰院クラス』が相次いで大ヒットし、コロナ禍のなか、日本でもさらに人気を伸ばした韓国ドラマ。03年に日本に上陸した『冬のソナタ』から、ラブストーリーには定評のあった韓国作品だが、今回、その視聴者層は大きく広がった。
そもそも、なぜ韓国のラブストーリーは、日本でこれほどまでに愛されるのか。韓国ドラマを長年見続けている、韓国エンタテインメント・ナビゲーターの田代親世氏は、次のように分析する。
「日本の恋愛ドラマが物語で視聴者を引き込む"ストーリー押し"だとすると、韓国の恋愛ドラマは、物語の中の場面描写を重視する"シーン押し"と言っていいでしょう。例えば、男性が女性の涙を指でそっとぬぐったり、ふとしたことで手と手が触れたり。そんなシーンを印象的に描くことで、視聴者をキュンと熱くさせるのが上手です。実は、カットされても話は十分につながるシーンも多いのですが、映像として記憶に残るので、視聴者はついまた見直したくなるんです」(田代氏、以下同)
古くはユン・ソクホ監督の四季シリーズ第1作『秋の童話』(00年)のソン・スンホンとソン・ヘギョが窓を拭く場面。窓越しに少しずつ2人の指が重なり、最後に小指と小指が重なるシーンは今なお名場面として語り継がれている。「『愛の不時着』では、ジョンヒョク(ヒョンビン)がセリ(ソン・イェジン)の髪を結んであげたり、自転車を2人乗りしたりといった何気ないシーンの積み重ねも、視聴者に好まれたところだと思います」
もう1つ田代氏が指摘するのは、韓国ドラマの特徴でもある、"ドロドロ"な人間関係だ。例えば、三角関係や浮気や不倫といった裏切りや欲望、相手との濃厚なコミュニケーション……これらを韓国ドラマは、容赦なく直接的に描く。ここには、「韓国人の物事を徹底的に突き詰めがちな国民性と文化が背景にあるのでは」と田代氏は話す。
「日本人からすると『ここまでやれば十分でしょう』と思うところも、韓国ではお互い気が済むまでやり合うことによって、逆に理解が深まると考えるのでしょう。そのコミュニケーションに触発されて、視聴者側も深淵に入らざるを得なくなる。感情を揺さぶられ、スリルを感じます。見終わるとドッと疲れることもありますが(笑)」
「印象的なシーンの散りばめ」と「登場人物同士の徹底したコミュニケーション」。その2つの強みに加えて、昨今の韓国ラブストーリーは、さらに魅力を増している。ここ以降は、近年の人気作品から見て取れる、韓国ラブストーリーの最新トレンドをチェックしていきたい。
TREND 1:潤沢な資金で壮大なスケール
21年2月、Netflixは韓国発の作品に約520億円の投資をすることを発表。遡ること19年には、同社は韓国の制作会社スタジオドラゴンに約100億円を出資し、CJ ENMに次ぐ大株主に就いている。
Netflixは韓国エンタメ界を非常に重視している。海外でのDVDのリリースをせずにNetflixで独占配信することを条件に、制作費を出資するケースが目立つ。制作サイドにとって、事前に膨大な予算を確保できるのは、大きなメリットだろう。

政治家の娘として感情を押し殺しながら生きてきたスヒョン(ソン・ヘギョ)は、出張先のキューバで純粋な青年ジニョク(パク・ボゴム)と出会う。帰国後、2人はホテルオーナーとそのホテルの新入社員という立場で再会するが、次第に引かれ合うようになる。キューバを生き生きと旅する、斬新なウェーブヘアのパク・ボゴムが魅力的。(U-NEXTにて配信中)
注目は、特にスタジオドラゴンが手掛ける作品。イ・ビョンホン主演の『ミスター・サンシャイン』(18年)はテレビドラマとしては異例の430億ウォン(約40億円)という制作費が話題になり、各話それぞれが映画並みのクオリティーで作られている。コロナ前には『愛の不時着』がスイスやモンゴルで、『ボーイフレンド』(18年)はキューバで撮影されるなど、豪華な海外ロケが話題になった。
海外ロケがままならない現在、Netflixで配信中の今年の大ヒット作『ヴィンチェンツォ』では、CGを使って、あたかもイタリアで大規模なロケをしたような世界観を完璧に作り出している。こちらも、制作費200億ウォン(約19億円)と言われる超大作だ。
「制作費を潤沢に使える環境のもと、作品のスケールもどんどん大きくなり、様々な要素が詰め込まれたラブストーリーが増えました。『シンプルなラブコメかな?』と思って見始めると、急にサスペンス色が濃くなり、生きるか死ぬかのストーリーにまで話が広がったり。ここ数年で、そんなエンタテインメント性の高いラブストーリーが数多く作られるようになっています」
決して韓国ドラマのすべてが多額の予算で制作を行えているわけではないが、「世界での韓国ドラマ人気を背景に、スポンサーがつきやすい状況にはあるでしょう」
TREND 2:新しいヒロイン像の誕生
韓国では、受験戦争や将来の見えない若者たちなど、社会的なテーマをいち早くドラマに取り入れてきた。その中で今は、女性の地位向上も大きなテーマ。新しい時代の女性像をラブストーリーのなかに組み込むことにも積極的だ。
かつて韓国ドラマのヒロインといえば、「お金も家柄も学歴もない薄幸の美人で、わがままな財閥御曹司が彼女を見初め、女性として、人間として成長していく」というのが王道だった。
ところが近年は、社会的にも自立し、自身で道を切り開くヒロイン像に変わってきた。例えば、『愛の不時着』のユン・セリはアパレルや化粧品を展開する会社を自ら立ち上げた実業家(財閥令嬢ではあるが)。『梨泰院クラス』のチョ・イソはフォロワー70万人を超える有名インフルエンサーであり、確かな分析力やマーケティング能力を買われて、主人公パク・セロイが経営する居酒屋「タンバム」のマネージャーに就任した。『サイコだけど大丈夫』(20年)のヒロインであるコ・ムニョンは人気児童文学作家だ。
強く、しなやかに自分の人生を自分の責任で生き抜き、愛する人を自ら守る力を持ち、相手を幸せにしようと努力する。そんな新しい時代の新ヒロインたちが、日本の女性視聴者の共感を集めている。
TREND 3:"ドロドロ"の新潮流
韓国ドラマが日本で初めてブームとなった『冬のソナタ』の頃のラブストーリーには、「交通事故」「記憶喪失」「出生の秘密」などのドラマチックな要素が必ずと言っていいほど含まれていた。かつて"お約束"であったこれらの事柄は、今、「新たなスパイスとなって、作品に使われています。ただ、その要素そのものがストーリーの軸ではなく、何かを引き出すために程よい強度で生かす形に変わりました」。
例えば、『私たち、家族です~My Unfamiliar Family~』(20年)は、山で遭難した父親が、22歳の記憶のままの状態で戻ってくる設定。そこから家族それぞれが抱える秘密や悩みが明るみになっていく。青年の心を持つ父親が、再び母に恋をするというラブストーリーも美しい。
※文中のドラマ・映画の放送年は一部を除いて韓国での年
(ライター 田名部知子)
[日経エンタテインメント! 2021年9月号の記事を再構成]
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