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ネイチャー・ポジティブに脚光 生物多様性で投資選別

Earth 新潮流 日経ESG編集部 藤田香

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

生物多様性や自然を守らない企業は淘汰される――。投資家が企業を選別する際に、自然を優先する「ネイチャー・ポジティブ」を目指しているかが重要になってきた。

その流れを作ったのが、10月11日から始まる国連の生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)だ。10月のオンライン会合と2022年4~5月に中国で開く対面会合の2部で構成し、30年までの生物多様性の次期世界目標を採択する予定だ。30年までに世界の生物多様性の損失をゼロにし、回復基調に乗せることを掲げる。多くの数値目標が定められ、企業も対応を求められる見通しだ。

金融の安定に影響も

この機会を捉え、国連、金融界、企業が生物多様性保全に向けて一気に動き出した。よく使われるキーワードが「ネイチャー・ポジティブ」だ。自然を優先する、増やす、損失をプラスに転じさせる、などを意味する。

金融界は気候変動と同様、生物多様性の喪失がリスクの連鎖を生み、金融の安定に影響すると気づいた。自然資源は企業活動の原材料になるばかりではない。例えば森林は二酸化炭素(CO2)の吸収や洪水防止の機能があり、企業の気候変動対策やBCP(事業継続計画)と直結する。

そうした認識を踏まえ、6月には企業が自然への依存度や影響を把握し開示する枠組みをつくる「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」が立ち上がった。早くも22年から企業による試験的な開示が始まる。

TNFD共同議長に就任したロンドン証券取引所戦略アドバイザーのデビッド・クレイグ氏は「TNFDは世界の資金の流れを『ネイチャー・ポジティブ』に貢献できるよう変えるものだ。今後の取締役会や最高経営責任者(CEO)は自然のリスクを報告する必要があり、アニュアルレポートで定量・定性を組み合わせた自然に関する情報開示が必要になる」と強調する。

方針発表や金融商品続々

投資家はここ1~2年、生物多様性に関する方針を続々と発表し始めた。仏BNPパリバ・アセットマネジメントや、英HSBCアセットマネジメント、米ブラックロックなどが方針を出した。

BNPパリバ・アセットが5月に発表した「生物多様性ロードマップ」は40ページにも及び、ポートフォリオの分析や、投資先企業が生物多様性に及ぼす影響を定量評価した結果なども詳述している。

同社は他の投資家と共同で仏アイスバーグ・データラボに投資先企業の生物多様性への負荷(フットプリント)を算出する「生物多様性フットプリント」の開発を依頼し、21年中に完成させる。

オランダの運用大手ロベコは自然資本への依存度と影響が大きい世界のトップ100社に共同で働きかける取り組み「Nature Action 100」(NA100)の立ち上げを他の投資家と共に計画中だ。

生物多様性・自然資本関係の投融資や金融商品も増え始めた。2月にはみずほ銀行と三菱UFJ銀行などがアレンジャーとなり、ツナ缶最大手の水産加工会社タイ・ユニオンに1億8300万ドル(約200億円)のサステナビリティ・リンク・シンジケートローンを組成した。

サステナビリティ・リンク・ローンは企業がESG(環境・社会・企業統治)に関する目標を定め、その達成度と金利を連動させるローンだ。

欧州の規制が後押し

タイ・ユニオンの今回のローンでは、カメラやGPS(全地球測位システム)を設置し、監視員が乗船して違法漁業を防止するモニタリング機能を持つ漁船からの原料調達比率を増やすことを目標の1つに設定した。金融機関としても違法漁業による乱獲が横行する水産分野の対応策への融資を通じ、生物多様性保全への貢献を打ち出した。

金融界の生物多様性・自然資本への取り組みに拍車をかけているのが、欧州の規制だ。21年3月には金融機関に対し「サステナブル金融開示規則(SFDR)」の適用が始まった。金融商品がサステナブルかという情報の開示を投資家に求めるものだが、生物多様性に関わる配慮についても報告が課せられている。

また欧州連合(EU)が環境に貢献する事業を分類した「タクソノミー」も「生物多様性と生態系の保護と回復」という環境目標について基準や要件の案を定めた。投資家は生物多様性についてもタクソノミーの基準に合う「グリーン」な経済活動にのみ資金を流す必要に迫られている。

対策に4つの分類

「ネイチャー・ポジティブ」時代に向け企業も生物多様性への配慮や対策に乗り出した。方法は4つに分類できる。第1は生物多様性に配慮した原材料の持続可能な調達で、トレーサビリティー(生産履歴の追跡)を強化する。

第2はTNFDの開示に備え、自社の自然への依存度や影響を定量的に測って自然リスクをあぶり出し、経営判断に生かすこと。第3はCOP15で採択予定の目標「陸と海の30%保全」に社有林の整備や緑化で貢献することだ。

第4として、最近欧米企業で増えているのが「大規模な森林・自然再生ファンド」による生物多様性の向上だ。米アップルは4月、総額2億ドルの自然再生ファンドを立ち上げた。森林に投資し、生物多様性向上とCO2吸収量の増加を目指すことで、カーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)とネイチャー・ポジティブを両立させる狙いがある。

アップルは30年までのカーボンニュートラル達成を宣言している。しかし、再生可能エネルギーの活用などで同社が直接削減できるCO2は75%にとどまる。残りの25%は森林保全活動で森が吸収するCO2を増やし、カーボン・クレジットで相殺する。

「CO2貯留より有効」

アップルは生物多様性保全で実績のある環境NGO、コンサベーション・インターナショナル(CI)と、米ゴールドマン・サックスと共同でこのファンドを立ち上げた。CIがファンドで支援する森林の基準を策定し、地域を選定する。

CIジャパンの日比保史代表理事は「森林が健全であるほどCO2削減効果は高い。コスト面でもCO2の回収・貯留(CCS)などよりも自然を活用する方が有効な削減方法だ」と話す。

アップルにとって森林資源は単なるCO2の吸収源ではない。同社製品のパッケージの大半は紙だ。持続可能に調達された木材繊維を100%使用し、いずれリサイクル素材か再生可能素材だけでパッケージを製造する方針を掲げている。

生物多様性の保全が国連や金融界を挙げて求められるなか、カーボンニュートラルとネイチャー・ポジティブを両輪で進める企業がこれから世界で評価されていくだろう。

[日経産業新聞2021年10月8日付]

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