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エコーやX線検査の装置小型化 在宅医療がより身近に

日経ビジネス電子版

「おなかがちょっと腫れていますね」。5月、在宅医療ネットワークの医療法人社団、悠翔会(東京・港)に、盲腸の手術経験のある男性(89)のおなかが腫れているとの連絡があった。

駆け付けた医師が診ると、盲腸の手術後に患部をかいたことによる炎症と思われた。だが念のために超音波診断装置(エコー)を当ててみると、悪性腫瘍が増殖し、皮膚に炎症をおこしていたことがわかった。

この医療法人が活用するのが、ポータブルタイプのエコーだ。「エコーで真の診断に近づけた」と悠翔会の佐々木淳理事長は話す。通常なら抗生物質を出して様子を見るなどの措置が取られるが、エコーでいち早く異変に気付けたという。

スマホ活用、遠隔地と画面共有

悠翔会は首都圏と沖縄県で合わせて約6000の在宅患者を抱え、救急車のように24時間対応している。年間の緊急往診は7000件超。こうした日々の診断や健康管理に、小型のエコーは必須になりつつあるという。

悠翔会でも活用するのがGEヘルスケア・ジャパン(東京都日野市)の小型エコーだ。同社は6月下旬、聴診器のように持ち運べるポケットサイズのエコーの新モデル「Vscan Air(ヴィースキャンエア)」を発売した。患部に本体を当てると、専用のアプリケーションをダウンロードしたスマートフォンやタブレットで、無線を通じてエコーの画像を確認できる。スマホ経由で別の場所にいる医師と画像などを共有し、相談することも可能だ。

新モデルではセンサーの駆動素子数を従来の2倍にすることで、スマホなどで表示する画質を大幅に向上。深い部位、浅い部位両方を検査しやすいようセンサーを上下に2つ備え、素早く様々な部位をスキャンできるようにした。深いところは腹部や肺、胎児。浅いところでは血管、乳腺などを明瞭にスキャンできるという。

「どんどん使ってみたくなる製品を目指している」とGEヘルスケア・ジャパン超音波本部プライマリケア部の阿木宣親部長は話す。同社は2010年に持ち運びできる同シリーズの初代を発売。従来は専用端末と「プローブ」と呼ぶ検査端末を組み合わせていたが、今回はスマホと組み合わせることでより使いやすくした。

ヴィースキャンエアのサイズは高さ131ミリ、幅64ミリ、奥行き31ミリ。重さは205グラムとスマートフォンより少し重い程度だ。防じん、防水性能も持たせており、コロナ下で感染対策も求められる中、丸洗いできる利点もある。ワイヤレス充電のため、ケーブルをさしたり消毒をしたりといった煩雑な手入れも必要ない。連続で約50分使える。

血流の流れに応じて血管を赤や青の色でわかりやすく表示する機能も付いている。価格は税込みで87万7800円。初年度で1000台の販売を見込んでいる。

診療報酬改定でも対象に

エコーは一般的に健康診断や疾病の診断に使われてきたが、最近は精度が高くなったことで、これまでは対象となっていなかった領域で活用され始めているという。例えば肺炎。レントゲンやコンピューター断層撮影装置(CT)を使っていたが、最近ではエコーの方が感度が高いといった論文も出ている。

骨折や褥瘡(じょくそう)の程度なども、エコーで事前に分かれば患者を病院に運び込まなくてもよくなる。脳神経外科、眼科、消化器の病気の診断などにも活用しようという動きも出ている。救急時の対応では、9割の疾病の診断をカバーできるという。

ただ現状では、ポータブル型の機器が高価格であることもあり、活用し切れていない現実もある。「肌感覚だが、在宅医療現場でのポータブルエコーの普及率は1割以下」(悠翔会の佐々木理事長)。20年4月の診療報酬改定では、在宅医療の訪問診療時における超音波検査についての項目が新設された。今後の普及の契機となりそうだ。

このように、在宅医療での活用をにらんだ小型で持ち運びしやすい医療機器の開発が新たな潮流となっている。富士フイルムが18年から展開しているのが携帯型のX線撮影装置「CALNEO Xair(カルネオエックスエアー)」。在宅医療の普及とともに形成されはじめた同分野で、軽量を強みに業界に切り込んだ。同ジャンルの製品はミカサエックスレイ(東京・文京)やケンコー・トキナー(東京・中野)なども手掛ける。

富士フイルムのカルネオエックスエアーは重さ約3.5キログラムと競合製品の半分以下で、スペースが限られる在宅医療の現場でも使いやすくした。X線を読み取る画像診断装置「FUJIFILM DR CALNEO Flow(カルネオフロー)」を組み合わせることで、撮影した画像を在宅で確認できる。

20年には従来よりも2割軽量で高感度な画像診断装置を投入。X線を読み取るセンサーパネルを、従来使っていたガラスから薄型フィルムに変更したことで軽量化を進め、感度を高めた。

カルネオフローにはX線が入射するセンサーパネルの表面から光信号を効率よく読み取る「ISS」と呼ぶ方式を採用。薄型フィルムを採用したことで、X線の変換効率を大幅に引き上げ、低線量での撮影が可能になった。災害現場や在宅診療で使うことを考慮し、310キログラムの耐荷重性や防じん・防水性能を持たせている。

持ち運び可能な医療機器の開発が進む背景には、国内の急速な高齢化がある。国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の65歳以上の人口の割合は65年に38.4%と、19年比で10ポイント上昇する見通しだ。自宅で最期を迎えたい、と希望する人は多く、病院の人手不足感も相まって在宅医療の普及は急務だ。

実際、在宅医療の需要は高まっている。厚生労働省の社会医療診療行為別統計によると、在宅医療の点数は、09年から19年の間に約1.8倍と大きく伸びた。これは医科診療の点数全体の伸び(約1.4倍)よりも大きく、右肩上がりの医科診療のなかでも特に在宅医療の需要が増えていることが分かる。

ケーブルテレビを医療インフラに

在宅医療の手段の一つとして注目されているのが遠隔医療だ。これまでスマホやパソコンなどを使って診断する方法が多く、在宅医療が必要な高齢者は使いづらいというミスマッチが起きていた。そこに目を付けたのがケーブルテレビ最大手のJCOMだ。

同社は7月から自社がケーブルテレビを配信する地域の一部で家庭のテレビを活用した診察サービスを始めた。同社のサービスに加入する約556万世帯のうち、約半数が60歳以上。オンライン診療の受診者のうち61歳以上は4%にとどまるが、ケーブルテレビのリソースの活用で引き上げを狙う。

このサービスはまず東京都の杉並区や練馬区、千葉県木更津市など10市区から始めた。JCOMのケーブルテレビのサービス加入者は約7700円のウェブカメラを設置すれば、家庭のテレビを使って1回330円でオンライン診療が受けられる。

JCOMの調べではテレビを使ったオンライン診療を「利用したい」とした人は半数、受診時のサポートがある場合には6割が利用したい、という。全国で約4000人抱えるサービスエンジニアや約600人抱えるアフターサポート担当者が、設置などを請け負う。21年度中にもサービスを全国に広げる。

フィリップス・ジャパン(東京・港)は20年、血糖や血液など患者のバイタルデータを集約し遠隔から医師が治療状況をモニタリングできるサービス「eHomeCare(イーホームケア)呼吸管理プログラム」の販売を始めた。データをグラフなどで表示でき、在宅患者の治療実績評価ができるため患者の変化を早い段階で察知できる。

患者はスマホやタブレット用のアプリをダウンロードすればオンラインで診断をしてもらえる。容体の変化がある場合は医療機関などに通知するため、患者のケアがしやすくなる。

厚労省の地域医療計画課の担当者は「すべてオンラインというわけにはいかないが、遠隔医療は在宅医療の手段の一つとして有効だ」と話す。

新型コロナウイルスの流行によりその必要性が改めて認識された在宅医療や遠隔医療。規制緩和だけではなく、医療にアクセスしやすくする機器やサービスの充実がその行く末を左右する。

(日経ビジネス 西岡杏)

[日経ビジネス 2021年7月5日号の記事を再構成]

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