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ホンダの決断 ソニーとEV連合、激動の時代へ変革急ぐ

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ソニーグループと提携し、電気自動車(EV)を開発・販売する新会社を共同出資で立ち上げるホンダ。「EV新会社はホンダ自身のライバルになっても構わない」――。ホンダの三部敏宏社長は言い切る。異例のタッグで目指すのは、ホンダやソニーという母体に縛られない、独立したEVスタートアップの創造だ。自動車業界を揺さぶる大きなうねりを生き抜くため、ホンダは変化を求めて動き始めた。

2021年12月、ホンダの三部敏宏社長に1本の電話がかかってきた。相手はソニーグループの吉田憲一郎会長兼社長だった。年明けに米ラスベガスで開かれるテクノロジー見本市「CES」への出席を控えていた吉田氏。出発直前の電話には、単なる年の瀬のあいさつにとどまらない、互いの信頼関係の確認という意味があった。

この時点で既に2人には胸に秘めた共通の青写真があった。「ホンダとソニーでEV市場に打って出る」――。

それから2カ月余りたった今年3月初め、ホンダとソニーはEV事業での提携を発表し、世間をあっと言わせた。共同開発するEVを25年をめどに発売し、自動車向けサービスを事業化する。6月には年内に事業主体となる新会社を折半出資で設立すると表明。「ソニー・ホンダモビリティ」という社名も決めた。

一番インパクトがあるのはソニー

「100年に1度の大変革」と呼ばれる大きなうねりの中にある自動車業界。各国で急速に加速する電動化は、動力源がエンジンからモーターへ切り替わるだけにとどまらない。競争では自動運転や通信機能などソフトウエアの比重が高まる。いわば「走る情報端末」となる車の価値そのものが問い直される。

提携に向け、先に声をかけたのは、21年4月に創業者の本田宗一郎氏から数えて9代目のホンダ社長に就任した三部氏だった。単なる移動手段ではない、新しい価値を生み出すにはどうしたら良いのか。頭の中には「異業種との掛け算で、何か新しい価値を生み出せないだろうか」との思いがぼんやりと浮かんでいた。いくつかの候補があった中、一番インパクトがあると狙ったのがソニーだった。

ソニーはモビリティー(移動)事業への関心を公にしており、20年1月には独自に開発したEVの試作車「VISION-S(ビジョンS)」も発表していた。もっとも、受託製造会社に頼んで"一品物"を造ることはできても、自動車を量産するノウハウを持ち合わせてはいない。本気でEV市場に切り込んでいくなら既存の自動車メーカーと組むのが近道といえた。

三部氏の社長就任から間もない21年夏、両社は数人ずつの若手技術者を集め、モビリティーの将来を検討するワークショップを開催。これを機に提携に向けた話し合いが加速し、年末には三部、吉田両氏が腹を決めるに至った。

ただ、第一候補としてソニーを見ていたホンダと違い、ソニーにとってホンダはあくまで選択肢の一つだった。他の自動車メーカーとの間でも議論が進んでいたが、「その話がなくなったことで、ホンダとの提携へ山が動いた」(関係者)。

三部氏と話した直後のCESで、吉田氏はEVの試作車の第2弾「VISION-S 02」を発表。吉田氏はプレゼンテーションの場で「『ソニーEV』の事業化を検討する」と表明し、ソニーのEV進出に懐疑的な目を向けていた人々を驚かせた。自信を持ってそう宣言できたのは、水面下で進めていたホンダとの交渉で、提携への道筋が固まっていたからにほかならない。

共同開発するEVで、両社は何を目指すのだろうか。

価格は? ライバルは?

ソニーは、自動運転に欠かせない画像センサーの技術、映画や音楽といったエンターテインメントのコンテンツ、自動車向けに開発するソフトウエアプラットフォームを盛り込む。ホンダは車両製造技術やアフターサービスのノウハウなどを生かして安全・安心面を支えるというのが基本路線だ。

具体的な製品のコンセプトやターゲットについては明らかになっていないが、「まず1台1000万円を超えるだろう」(関係者)とみられており、富裕層向けのプレミアムカーとして自動車市場に入ることになる。EVで世界トップの米テスラのほか、欧州のプレミアムブランドの製品が仮想ライバルだ。

ホンダにとって新会社で共同開発するEVは「ホンダ」ブランドとは一線を画したものという位置付けだ。米ゼネラル・モーターズ(GM)と共同開発する北米市場向けのEVや日本国内で販売する軽自動車のEVなど、現在ビジネスを展開する市場では、ホンダ独自のEV戦略を進める。

プレミアムEVの領域では、イーロン・マスク氏が率いるテスラが着実に販売を増やしている。21年には世界で前年比87%増の93万6172台を売った。半導体不足の影響をものともせず、過去最高の実績を残した。その後も販売を増やしており、22年1~6月期には約56万5000台を販売した。22年には通年で初めて100万台を超えそうな勢いだ。

そのテスラの株式時価総額は足元で約9400億ドル(約125兆円)と世界の自動車メーカーで断トツの首位だ。ホンダの時価総額は6兆円余り。テスラは株式市場でホンダ20社分もの評価を受けている。これほどの差を生んでいる一因がホンダのEV戦略の遅れであることは否定できないだろう。欧州メーカーも相次いで新型EVを開発・投入する中、後方から追いかけるハードルは高い。

そんな懸念を払拭するかのように三部氏が繰り出したのが、ソニーとの提携だった。3月の提携会見。三部氏は「(自動車産業の)変革の震源地はデジタル技術によるモビリティーの拡張にある」と述べ、センサー技術のほか、ソフトウエアやコンテンツにも強いソニーとの協業に強い期待感を示した。

ソニーと組むとは言っても、結局はホンダの別動隊にすぎない。ホンダ車の殻を破ることはできないのではないか――。ソニーとホンダが25年に売り出す車についてほとんど情報を出していないこともあって、両社の協業の行方をこんな冷めた目で見ている向きもある。日本ではファンの多いホンダとソニーという組み合わせだが、グローバル市場でのブランド力はいまひとつと見る専門家もいる。

新会社で開発するEVは「チャレンジの一つ」「一種のにぎやかし」という懐疑的な見方を覆せるものなのだろうか。設立準備が進むソニー・ホンダモビリティの実像を探ってみると、浮かび上がってきたのは、ホンダがソニーとの提携で狙っている野心的な到達点だった。

単独でも生きていける企業を目指す

新会社のソニー・ホンダモビリティは当初、ホンダとソニーがそれぞれ50%ずつ出資する。6人と予定されている経営陣も、ホンダから3人、ソニーからも3人という構成だ。何を決めるにもホンダとソニーの合意が必要で、経営陣の自主判断の余地は限られるとみられがちだ。

ところが、実はホンダとソニーが目指している新会社の将来像は、こうした見方と大いに食い違っている。

新会社では、第三者からの出資を受け入れることや将来の新規株式公開(IPO)も視野に入れている。自立を促すため、「ストックオプション(株式購入権)も準備している」(関係者)。企業として成長し、株式上場までたどり着いた場合、経営者らは大きなリターンを得られる。こうしたインセンティブを用意することで、積極的な経営を促す狙いがある。

つまり、新会社が目指しているのは、ホンダやソニーから独立した「単独で生きていける会社」という姿だ。

一般に、子会社には親会社への不利益となる競業行為を避ける「競業避止義務」が課されることが少なくない。だが、ソニー・ホンダモビリティについては、こうした契約上の制限や縛りもできる限り無くす方針で準備が進んでいる。

新会社の会長兼最高経営責任者(CEO)に就任するのは、ホンダの水野泰秀専務執行役員。6月、ホンダの自動車事業を統括する重要ポストである四輪事業本部長を離れた。ソニー・ホンダモビリティが正式に発足すれば、ホンダからの一時的な異動を意味する出向ではなく、転籍となる見通しだ。

こうした準備状況を踏まえると、今回のホンダとソニーの提携は、単に1つのEVブランドをつくるという範囲を超え、新たなEVスタートアップを立ち上げようとする動きに近い。

「ホンダのライバルをつくっても全く構わない。発売まで時間のない初期モデルはホンダが生産を請け負うが、将来的には、別にホンダで生産する必要だってない」「社名だって、そのうち変えてもいいくらいだ」。今回、日経ビジネスの取材に応じた三部氏の発言もこうした見方を裏付ける。

異業種と手を組み、ライバルとなるかもしれない自動車会社をつくる――。これだけ思い切った手を打つのも、激動の時代に自らが変わらなければ生き残れないという大きな危機感があるからにほかならない。新会社が成功を収めれば、ホンダ本体にとっても大いに刺激となるのは間違いない。

三部氏の登板以前からホンダは変化を受け入れていた。「自主独立路線」のイメージが根強いホンダだが、今や手を組んでいるのはソニーだけではない。北米市場では長年のパートナーであるGMとの提携関係を深め、量販価格帯のEVの共同開発や生産設備の共通化を進める。「つながる車」のサービス分野では、21年に米グーグルとの連携を強化するなどアライアンスを広げてきた。

ホンダのDNAとも呼べる領域でも改革を断行してきた。グループ内で大きな存在感を放っていた研究開発子会社の本田技術研究所にメスを入れ、開発体制を再編。21年には自動車レースのフォーミュラ・ワン(F1)からも撤退した。こうした改革も、組織の体質を強化し、電動化競争に集中するために進めたものだ。

「ホンダはソニーのサプライヤーになってしまったか……」。ホンダのある有力OBは、提携の発表を聞いて残念そうにつぶやいた。提携相手に主導権を握られてしまえば、付加価値や収益の源泉を明け渡すことになりかねないとの警戒感がにじむ。

三部氏は全く意に介していないに違いない。大きなうねりの中を生き抜くためリスクを取って動き始めたホンダ。ソニーと組む異例の新会社は、変革のためには摩擦もいとわないホンダの今を象徴している。

(日経ビジネス 橋本真実)

[日経ビジネス電子版 2022年8月4日の記事を再構成]

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