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真菌感染症 ウイルスと闘う人類に忍び寄る影

日経サイエンス

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新型コロナウイルスの流行が、これまでになかった感染症のまん延をもたらしている。カビや酵母などの「真菌」による感染症だ。2021年4月から大規模な新型コロナの流行に見舞われたインドでは、真菌感染症の一種である「ムーコル症」の発症例が相次いだ。英BBCの報道によれば、これまでにインドでは少なくとも4万5000人がムーコル症に感染し、死者は4300人を上回る。

新型コロナの患者に真菌感染症が併発し、致命的な経過をたどる例が世界各地で報告されている。ドイツやフランスなど、医療体制が整った国も例外ではない。米国内でも、ジョンズ・ホプキンズ医療システムが運営する5つの病院で、重症の新型コロナ患者の10人に1人が真菌感染症の一種である「アスペルギルス症」に感染した。インドの首都ニューデリーでは、新型コロナ患者が「カンジダ・アウリス」という、ムーコル症とは別の真菌に感染し、3分の2が死亡した。

真菌感染症の研究者たちは、新型コロナの流行当初から、真菌感染症がまん延することを警戒してきた。新型コロナの重症患者は、感染による炎症を抑える薬を大量に投与される。こうした治療は患者を新型コロナから救うが、逆に他の病原体に感染しやすくさせてしまうからだ。

真菌は我々には身近な存在で、例えば水虫も真菌の一種だ。健康な人には皮膚病を起こす程度で、命を脅かすことはないとかつては考えられていた。ならば現在、世界で発生している真菌感染症も、コロナの治療がもたらしたもので、流行が収束すれば解決するのだろうか。実はそうでもないようだ。

実は、真菌感染症は新型コロナ以前から流行拡大の前兆を見せていた。ブラジルではネコの間で真菌が広がり、この真菌を調べるとネコからネコへと感染を広げる能力を獲得した新たな種の真菌であることがわかった。00年代から人間に感染する例が急に増え、20年までにブラジルの感染者は1万2000人以上に達した。感染はパラグアイやアルゼンチンなどにも波及している。また、米国でも現在、気候の変化や都市開発に伴って「渓谷熱」と呼ぶ真菌感染症の発症例が20年前の8倍に増えている。

真菌感染症はまだ有効なワクチンが存在せず、治療薬も種類が限られている。その薬ですら、耐性を持つ真菌が徐々に現れつつある状況だ。病原性の真菌はたえず私たちを狙っていて、新型コロナなどの緊急事態につけこんで新たな感染拡大を引き起こす。真菌感染症を専門とする米疾病対策センター(CDC)のトム・チラー氏は「今後も真菌による多くの奇襲があることを覚悟して準備する必要がある」と警鐘を鳴らしている。

詳細は現在発売中の日経サイエンス9月号に掲載

  • 発行 : 日経サイエンス
  • 価格 : 1,466円(税込み)

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