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統合に向かう開示基準 東証再編、「TCFD」対応必須に

Earth新潮流 日経ESG編集部 相馬隆宏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

2022年は日本の主要上場企業にとって大きな節目となる。4月に東京証券取引所が市場区分を再編するからだ。これを前に東証は1月中旬にも、企業が所属する新市場区分を発表する。

基準の乱立解消へ

再編に当たり、企業は気候変動対策などサステナビリティー(持続可能性)関連情報の開示強化を求められている。東証再編のケースが象徴するように、今後、非財務情報の開示の重要性がより一層増していくだろう。

非財務情報の開示にとりわけ大きな影響を与えるとみられるのが、21年11月にIFRS(国際会計基準)財団が設立を発表した国際サステナビリティー基準審議会(ISSB)である。議長には仏ダノンの前最高経営責任者(CEO)、エマニュエル・ファベール氏が就いた。

ISSBは22年からサステナビリティーに関する情報開示の基準を順次策定する予定だ。第1弾として年内にも気候変動関連の基準を作る。

ISSBの動きは大きく2つの点で注目される。1つは非財務情報開示基準の統合である。これまで様々な団体が策定した基準が乱立しており、企業や投資家の間で混乱が生じていた。

ISSBは6月に、価値報告財団(VRF)と気候変動開示基準委員会(CDSB)と統合する。VRFは21年6月に国際統合報告評議会(IIRC)とサステナビリティー会計基準審議会(SASB)が統合してできた組織だ。つまり、既存の主要な基準策定団体を取り込むことになるため、基準が乱立する状況は解消に向かうとみられる。

国際会計基準の策定を担うIFRS財団傘下のISSBが基準作りを手掛けることから「国際会計基準のサステナビリティー版になっていくだろう」(KPMGジャパンサステナブルバリューオフィスパートナーの芝坂佳子氏)という声もある。

企業の負担は増加

もう1つは、情報開示にかかる負担の増加だ。BNPパリバ証券チーフESGストラテジストの中空麻奈氏は「同じフォーマットで情報開示が進み、ESG投資の基準として使いやすいものになる一方、企業の負担は増える」と指摘する。

気候変動に関する基準は既にプロトタイプ(試作版)が発表されている。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組みをベースにしながら、業種別の指標を提示してある。細かいSASBの指標を採用しているため、対応に苦労する企業が出てくると予想される。例えば、日用品はパーム油の調達に占める認証油の比率、自動車はゼロエミッション車の販売台数といった指標がある。

先手を打っている企業もある。ダイキン工業は「IFRS財団の動きは早くから情報をつかんでいた。一部、グローバルで情報を把握しないといけないものもあるが開示できるよう準備している」(十河政則社長)。

非財務情報の開示要請が強まる中、TCFDへの対応は必須になっていく見通しだ。大和総研金融調査部制度調査課兼SDGsコンサルティング室の藤野大輝研究員は「(TCFDがベースの)ISSBの基準に備えるためにもTCFDに早い段階で対応しておく必要がある」と言う。

日本では、21年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでTCFDと同等の枠組みへの対応が求められている。東京証券取引所のプライム市場に上場する企業は、22年4月以降の株主総会後、改訂コードに対応したコーポレートガバナンス報告書を提出する必要がある。

では、実際、TCFDに基づく開示は進んでいるのか。TCFDが21年10月に発表した報告書によるとまだ途上にある。69カ国・1651社を対象に調査したところ、開示はこの2~3年で進んでいるものの、TCFDの項目別に開示している企業の割合を見ると半数に満たないものがほとんどだ。最も多いものでも「気候関連のリスクと機会」の52%にとどまる。

KPMGジャパンの芝坂氏は「TCFDの開示状況を見ている限りでは、ISSBの基準に対応できる企業は一握りではないか」と言う。

非財務情報の開示に関して注目すべき動きは他にもある。欧州連合(EU)は22年半ばにも上場企業や大企業にサステナビリティーに関する情報開示を求める企業持続可能性報告指令(CSRD)の開示要件を決める見込みだ。24年から開示が必要になる。

重要課題を見極めよ

米国では証券取引委員会(SEC)が20年11月の人的資本の開示義務化に続いて、気候変動に関する開示ルールの見直しを進めている。日本でも金融庁の審議会が有価証券報告書での気候変動やダイバーシティー、人的資本といったサステナビリティーやガバナンスに関する情報開示を議論しており、22年内に取りまとめられるもようである。

企業はこうした法規制への対応という面からも、広範囲にわたる非財務情報を開示しなくてはならなくなっている。ただし、すべての項目について開示していれば企業の評価が上がるわけではない。大和総研の藤野氏は「自社の経営戦略に沿って開示することが重要だ」と指摘。「どこに力を入れていくのか、ビジネスモデルを整理し、数あるリスクの中から重要なものを特定し、情報を開示していくのが望ましい」と話す。

企業にとって大事なのは自社の評価に関わる課題を見極め、投資家をはじめとするステークホルダーに有用な情報を開示することだ。取締役会での議論を踏まえて重要課題を特定し、社内外の情報を素早く収集する体制を築いておくことが肝要だろう。

[日経産業新聞2022年1月7日付]

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