災害把握、人工衛星の「星座」で早く フィンランド新興
3月11日を忘れない
宇宙を活用した災害監視の技術が大きく進化している。多数の小型人工衛星で宇宙に「星座」のような連携網を築く技術などが登場し、海外のスタートアップ企業は災害発生から数時間以内で被災地を観測できるシステムを実現している。災害状況の素早い把握に向けた体制作りが進む。

2022年1月、米国フロリダ州の宇宙基地から米スペースXが約100基の人工衛星などを載せてロケットを打ち上げた。このうちの2基はフィンランドで水害に関する衛星データの提供を手掛けるスタートアップ、ICEYE(アイスアイ)のものだ。
同社がこれまで打ち上げた小型衛星は16基に上る。「合成開口レーダー(SAR)」と呼ぶ装置を活用し、昼夜を問わず雨雲などがあっても地上の浸水状態を精度よく観測できる。衛星運用から観測、データ解析までを一手に手掛け、主な顧客である世界の保険会社や政府機関に被害推定を素早く提供している。

単独の衛星だけでなく、多数の衛星を地球の周りに張り巡らせれば、より効率的な観測が可能だ。こうした衛星の連携網は英語で星座を意味する「コンステレーション」とも呼ばれ、世界中をカバーするような通信網と並んで、災害分野でも注目を集める。
アイスアイには気象の専門家も所属し、常に洪水などの状況を監視している。衛星の連携網によって日本では現在は1つの地点を1日平均5~6回、4時間に1回ほどの頻度で観測可能で、災害のピーク後1~2日でデータを提供する態勢をとる。
22年もさらに複数の衛星を打ち上げる。「より高い頻度で観測できるようになる」とアイスアイの日本事業を担当する渡部浩平氏は話す。
20年から東京海上日動火災保険とも連携を始めており、日本でも水害の観測を担ってきた。有効に働いた例が21年夏に静岡県熱海市で発生した豪雨と土砂災害だ。アイスアイは試験的に土砂災害のデータを観測した。提供を受けた東京海上は「住宅の被災状況の素早い把握と支払い手続きが可能になった」(担当者)。
災害発生時には立ち入りが困難となり、現地の状況確認に時間がかかるケースも多い。アイスアイと東京海上ホールディングスは22年2月に資本業務提携の締結も発表した。衛星の運用から解析、データ利用の一連の流れのさらなる迅速化を目指す。
日本でも衛星コンステレーションによる災害監視を手掛けるスタートアップがある。九州大学発のQPS研究所(福岡市)は19年と21年に小型衛星の打ち上げに成功した。25年以降にSAR衛星36基を運用し、10分に1回の高頻度での観測を目指す計画を掲げる。
小型衛星開発のシンスペクティブ(東京・江東)も22年3月1日、2基目となる実証衛星を打ち上げた。20年代後半までに計30基のSAR衛星を投入する方針だ。災害への備えは地上にとどまらず、宇宙でも着々と進んでいる。
ユーザーと連携深化重要
東日本大震災では人工衛星による災害把握の有効性が強く認識された。地球を観測する衛星は通常、南北の方向で飛行する。太平洋沖で南北の広範囲で津波被害が起きた大震災は、衛星の情報収集力を発揮しやすい条件だった。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の陸域観測技術衛星「だいち1号」も浸水地域の観測などで活躍した。11年3月12日朝に緊急観測を始め、4月までに600枚超の画像を得た。ただ当時は「ユーザー側に災害把握に衛星を使うイメージが定着しておらず、解析側が売り込む必要があった」。JAXAの衛星データ解析を担った一般財団法人リモート・センシング技術センター(東京・港)の古田竜一グループリーダーは話す。
だいち1号は11年に運用を終え、現在は「だいち2号」が運用中だ。災害監視に衛星を利用するのも当たり前になった。だが改善の余地はある。「より迅速なデータ提供には衛星の運用、解析、ユーザーと3者の連携をさらに深める必要がある」(古田氏)
22年1月に南太平洋トンガ沖で発生した海底火山の噴火の状況を捉えた衛星画像がSNS(交流サイト)などを通じ一般にも広がった。衛星データをさらに活用するためには社会全体の議論が欠かせない。
(松添亮甫)

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