/

日立のイタリア出身常務 多様性でグローバルリーダーに

日経ビジネス電子版
ITソリューションを軸に世界のDX(デジタルトランスフォーメーション)市場を開拓する日立製作所。ダイバーシティーを推進する組織改革にも挑んでいる。執行役常務でCDIO(最高ダイバーシティー&インクルージョン責任者)を務めるイタリア出身のロレーナ・デッラジョヴァンナ氏に改革する理由や方策について聞いた。

――現在の日立の姿をどう見ていますか。

「日立グループでは1988年から働いています。日立はもともとプロダクトプロバイダーという立ち位置でしたが、ソリューションを提供する会社に変わってきました。顧客志向の会社に変化しているのです」

「2009年3月期に巨額の最終赤字を出してからの変化は目覚ましいものがありました。元来が縦割りの組織で、仕事はビジネスユニット単独でやることが多かったのですが、今ではユニット間の協力関係ができていて、互いの能力を活用しながら一緒に事業を進めています」

――日立はダイバーシティー(多様性)やエクイティ(公平性)、インクルージョン(包括性)を組織づくりの焦点にしています。なぜでしょうか。

「理由の1つは、日立はグローバルリーダーを目指していて、近年M&A(合併・買収)を通じて国際的な存在感を高めていることにあります。M&Aで重要なのがPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)。新しく日立グループに加わった企業をきちんと統合していくということです」

「単に新しい会社が加わったというだけでは、M&Aの真のメリットは引き出せません。新しく会社に入ってくる人たちは多様ですから、自分たちの仕事のやり方や意見について発信するチャンスを提供し、1+1が3になるように新しい価値を生み出さないといけないのです」

「2つ目の理由は、日立が創業当初から追求してきたイノベーションを実現するためです。中期経営計画でも、イノベーションによって地球環境を守ることと、人々のウェルビーイング(心身の健康や幸福)の充実を掲げています。そのためには自由なアイデアが欠かせませんので、多様性に富んだ従業員がいて、意見を言える環境を整えなければならないのです」

「3つ目は、投資家や顧客などステークホルダーがESG(環境・社会・企業統治)を重視していることにあります。ダイバーシティーはその『社会』の部分に関わってきます。ESGの観点は長期にわたってビジネスを維持・拡大するために必要ですし、ステークホルダーには我々がしっかり対応していると理解してもらうことが欠かせません」

「これらの理由があって日立はダイバーシティーなどにしっかり投資していくのです」

――どんなことに取り組んでいるのか、詳しく教えて下さい。

「ダイバーシティーなどの実現に向けて『リーダーのコミットメント』『組織文化』『採用』『リテンション(定着)』『昇進』の5つの柱で構成する戦略を立ています。経営陣のレベルとビジネスユニットのレベルそれぞれにおいて、ダイバーシティーの目標を設けていて、5つの柱一つひとつについてどうアクションをとったらいいのかも決めています。社員30万人を超えるグローバル企業ですが、地域ごとにリーダーを置いて地域のニーズに根差して進めています」

――採用ではどのような戦略をとっているのでしょうか。

「日立の社内には、自分たちについて重工業メーカーであるという意識があり、これまでは工学系の大学生を採用するためのアプローチが主流でした。そのやり方を変えて、さまざまなソースから採用しています。多くの大学へ採用活動に出向いたり、求人広告も多くのところに出すなど誰にでも開かれているというかたちに変えました。特に業界では男性を採用するという偏りがあったのですが、女性の積極的な採用に向けて高校や大学での働きかけを強めているところです」

――女性の活躍推進という点では、管理職への積極的な登用も重要です。現状と目標はどうなっていますか。

「管理職は今は10%くらいを女性が占めていますが、24年度までに12~15%に引き上げたいと思っています。(21年6月時点で女性比率が10.1%の)役員層も24年度までに15%にするという目標を掲げています」

「そのためにやらないといけないことがたくさんあります。これまでは登用しようとしても『嫌だ』と言われることもありました。管理職になれば24時間働かないといけないという偏見があったことも理由の1つです。でも仕事のパフォーマンスの評価は働いた時間ではなく、どのような実績を出したかです。子育て世代も含めた女性の登用を進めるために、フレックスタイムや子育て支援の制度のほか、出産を機に退社した人が再び戻って来られるような制度も導入しています」

「時間はかかりますが、女性が働くことをサポートするプログラムもつくっています」

編集部注:日立製作所では子供1人につき年10万円を上限に育児サービスの費用を負担する制度や、『保活コンシェルジュ』という希望地域の保育園をリストアップした情報を発信するなど、仕事と育児の両立を支援している。

――買収した企業から新しいメンバーを円滑に受け入れるために、ほかにはどんなことを実施していますか。

「グループ全体で、ハードとソフトの両面で並行してやっていることがあります。ハード面では公平に誰にでもチャンスを与える制度やルールをつくっています。そこには国籍や性別、障害の有無などは関係ありません」

編集部注:日立グループでは12年度から成長戦略を具現化するために重要なリーダーのポジションを選定して役割や要件を定義し、それに見合った候補者を評価・育成するグローバルリーダーシップディベロップメントと呼ばれる制度を運用する。その議論を行うのが担当役員らで構成する『人財委員会』で、ここにはデッラジョヴァンナ氏も出席する。

「ソフト面では考え方や行動を変えていくトレーニングをしています」

編集部注:日立グループでは社員の行動変容に向けた「アンコンシャスバイアストレーニング」を各社で実施。日立製作所では18年度から外部講師を招き、管理職らが偏見の類型や対処法を学ぶ研修を設けている。

――日立が世界のDX市場に挑んでいく上では、デジタル人材の確保とつなぎ留めが重要です。

「そのためには、社員が積極的に意見を言える環境をつくり、自分たちが組織の一部なのだと愛着を感じられるようにしなければなりません」

「シリコンバレーで働く若者たちは社会にどれだけ貢献できるかを重視しています。ここは日立が創業から追い求め、近年さらに重きを置いている部分です。アイデアコンテストを開くことなどによって、日立で働きたい若者も増えています」

――組織の文化を変えるという話がありましたが、どんな考え方で臨んでいるのでしょうか。

「私は伝統や企業文化への理解が十分でなければイノベーションは起こせないと考えています。日立は100年以上の歴史がある会社ですので、これからもグループの土台、アイデンティティーをつかさどるカギとして企業文化を浸透させなければならないと思っています」

「ただ、さらに進化をして社会に貢献していくためには、無意識に持った偏見を捨て、新しいアイデアや変化を受け入れるようにしていかなければなりません。それはこれまでの文化を壊すということではなく、土台の上にどれだけ新しいものを築いていけるかということです」

――そうした戦略を進める上で、CDIOとしてどのような役割に重きを置いていますか。

「一番はグループ全体での意識の共有に努めています。単に採用や人事の担当者とコミュニケーションを取るだけでは不十分です。社内外に明確なメッセージを発信していくことが必要で、それは私が一方的に言い続けるだけでもいけません。ビジネスユニットのリーダーや社員と積極的に議論を行うなど地道に取り組んでいるのです」

(日経ビジネス 藤中潤)

[日経ビジネス電子版 2022年8月3日の記事を再構成]

日経ビジネス電子版

週刊経済誌「日経ビジネス」と「日経ビジネス電子版」の記事をスマートフォン、タブレット、パソコンでお読みいただけます。日経読者なら割引料金でご利用いただけます。

詳細・お申し込みはこちら
https://info.nikkei.com/nb/subscription-nk/

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経ビジネス

企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン