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「量子技術どう生かすか想像を」 IT批評家の尾原和啓氏

日経ビジネス電子版

「量子コンピューターが実装された世界は、予測を超えてくる。だから想像力が大切」――そう説くのはフューチャリスト、IT(情報技術)批評家の尾原和啓氏。量子技術の圧倒的な進化がもたらす未来とは? ビジネスパーソンが今できることとは?語ってもらった。

◇    ◇    ◇

未来は予測できる範囲を超える。だから想像力が大事

量子コンピューターに達成が期待される高速計算は、従来の科学技術とは全く異なるものです。その開発や実装が進むと、まさに科学技術にブレークスルー(突破)がもたらされるでしょう。技術はエクスポネンシャル(指数関数的)に成長していきます。量子ビット数が上がれば上がるほど計算力が上がり、とんでもないところにたどり着きます。そのインパクトは予測を超えてくるでしょう。未来は、現実の延長線上にあると考えてはいけません。想像力をはためかせて俯瞰(ふかん)することが大切です。

過去の例を見てみると分かりやすいと思います。例えばiPhone。

いわゆるガラケーを使っていたときに、まさか小さな端末1台で、タップするだけで電話も写真撮影も画像編集も、何でもできるようになるなんて、想像できませんでしたよね。だからこそ、iPhoneを生み出した米アップルは社会を変えるゲームチェンジャーになりました。それまで全く描かれもしなかったような未来像を実現して、新しいニーズを生み出しました。一度iPhoneが生まれてから、スマートフォンを取り巻く科学技術やそれを使う社会は一気に変貌を遂げています。

各国、各企業が量子技術の開発を急ぐ理由

量子コンピューターも同様です。それが実現するまではどんな未来になるのか分かりにくいと思います。しかし成熟すれば、技術は倍、倍、倍……と、一気に進化します。だからその潮流に乗り遅れないように、各国が競って開発し、各企業が投資しているのです。

ビジネスパーソンとしては、量子コンピューターがどのような技術的な仕組みで動作するかが分からなくても、どのようなことを実現できる技術なのかが分かっていれば大丈夫。向いている用途さえ把握しておけば、量子技術を使ってどのような産業を創出していけるかを想像できます。iPhoneの仕組みが分からなくても、アプリを使って実行したい動作を考えられるのと同じです。

量子計算でできることとは

では量子コンピューターを使うと、どんなことができるのか。その一つに「組み合わせの最適化」と呼ばれるものがあります。これは、膨大なデータに基づいて、あらゆる個別のニーズに対応しつつ、みんなが納得のいく組み合わせの提案を導き出す計算のことです。

例えば電力。従来は中心、すなわち発電所でつくられて供給されていましたが、将来は太陽光パネルが軽量化されて各家庭で分散して発電できるようになるでしょう。個人間で売買ができるようになり、さらには「どこの誰から電力を買いたい」といった意思決定について、「自分と同じ阪神ファンから電力を買いたい」といった趣味嗜好が加わることもあるかもしれません。細かいニーズが出てくるほど、売り手と買い手の組み合わせは無限になってキリがない。そのキリのなさが、計算技術の世界でいう「組み合わせ爆発」というものです。

この細かなニーズに応える計算量はあまりに膨大で、従来のコンピューターでは対応しきれませんでした。ですが、量子コンピューターなら高速にこなせると期待されています。一人ひとりの「どこの誰から電力を買いたい」という希望に基づいた、売り手と買い手の組み合わせ爆発に対応できます。

つまり、電力供給手段に付加価値を与えられる可能性があるのです。それぞれの顧客に最適なサービスを提供する「おもてなし」のような発想だといえます。ただ機能的だったものが、サービス化されるようなイメージです。そう考えると、幅広い業界で、量子コンピューターをどのように生かせるかが見えてくるのではないでしょうか。

市場プレーヤーが取って代わられるかもしれない

加えて言うならば、電力のような社会インフラを担うビジネスすら、量子コンピューターによってプレーヤーが完全に入れ替えられるかもしれません。2021年8月には、電気自動車(EV)などを手掛ける米テスラがテキサス州の電気規制当局に電力小売事業免許の取得申請を提出しました。同社は今後、電力の個人間売買の取引所のようになり得ます。

革命的な技術が生まれたとき、このような新たに市場に参入してくる「持たざる者」のほうが圧倒的に強くなる可能性があります。新しい技術を使って市場シェアを奪う、総勝ちする可能性を秘めているのです。だからこそ、企業は既存のレガシー(遺産)を使って対応する「守り」へシフトするのか、それとも新しい技術を取り入れて対抗していくのか、今のうちから考えておくべきです。

量子技術開発の現在地

現段階では、組み合わせの計算は創薬などの分野で研究が進められています。物質の分子のふるまいを一瞬でシミュレーションできると、素材の最適な配合比率を圧倒的な速さで割り出すことができ、開発スピードが上がります。

従来は計算量が多すぎて諦めていた素材の組み合わせも計算できれば、薬の効果も高まると期待されています。予想外の組み合わせで驚くべき新薬が開発される。そうなれば、例えば健康に働き続けられる人が増え、少子高齢化が進む中でも労働人口減少問題に対応できるかもしれません。問題の解決から解消へと向かう社会が訪れる可能性があるのです。

新しいものに取り組むというオープンで柔軟な姿勢で考えていきましょう。

(日経ビジネス 中西舞子)

[日経ビジネス電子版 2022年7月4日の記事を再構成]

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