「TikTok売れ」 重み増すユーザー発ヒット
奔流eビジネス(アジャイルメディア・ネットワークアンバサダー 徳力基彦氏)
2021年の1年間に存在感を増したサービスと言えば、やはりTikTok(ティックトック)だろう。9月には世界の月間アクティブユーザー数が10億人を超えたと発表された。東京五輪・パラリンピックにおいては、世界中で選手が発信したTikTokの動画が話題になるケースが多く見られたようだ。

日本においてはユーチューブの人気が非常に高いため、まだまだTikTokが身近ではない人も多いかもしれないが、日本においてもTikTokの影響力は着実に拡大している。日経トレンディが発表した「2021年ヒット商品ベスト30」においては「TikTok売れ」が1位に選ばれる結果となった。
ユーチューブにおけるユーチューバー同様に、TikTokにおいてもTikTokerと呼ばれる多数のフォロワー数を集めるインフルエンサーが注目されるが、やはりTikTokの最大のインパクトは、フォロワーが少ない一般のユーザーの動画も大きな注目を集める可能性がある点だろう。
基本的には自分のフォロワーに動画が表示される従来の動画配信サービスと異なり、TikTokは人工知能(AI)がすすめる「おすすめ」の仕組みによってフォロワーがいない人でも動画が面白ければ日本中、世界中のユーザーに広がる仕組みを持つ。これにより、日本でもTikTokユーザーが作成した動画がきっかけで、様々な商品やサービスが「TikTok売れ」する現象が頻発しているようだ。
書籍では昨年からTikTokの動画がきっかけで、発売から数年たった書籍が急に売れはじめる現象が多数発生していているし、大塚製薬の「ファイブミニ」がTikTokで話題になった結果、突如1日の売り上げが2倍になったというケースすらある。
直近で象徴的なのは、世界で大ヒットとなったネットフリックスのドラマ「イカゲーム」だろう。世界的にヒットした背景の1つに、TikTokを通じたユーザー投稿動画の広がりが影 響していると言われている。実際に英語圏向けのタイトルである「#squidgame」をつけて、ドラマ内の「だるまさんが転んだ」のシーンをまねしたり、パロディーにしたりした動画が多数TikTokに投稿されており、このハッシュタグが付いた動画の合計視聴数はなんと630億回を超えている。

インスタグラムの普及によって「インスタ映え」する商品がヒットしたり、観光スポットに多くの人が集まるという現象が見られたが、それがTikTokにおいてはさらに加速しているということも言えるだろう。日本では、「SNS活用」というと企業の公式アカウントを作成して情報発信をすることをイメージする人がまだまだ多いようだが、「TikTok売れ」や「インスタ映え」において主役となるのは企業の公式アカウントの投稿ではなく、ユーザーの投稿というのがポイントだ。
自社の商品やサービスを、TikTokユーザーに取り上げてもらいやすく工夫することができれば、皆さんの会社にも「TikTok売れ」の可能性が眠っているかもしれない。
[日経MJ2021年12月8日付]