住宅の脱炭素、東京都が国に先行 太陽光パネル義務化

「広い土地が少なく、再生可能エネルギーの立地に適さない東京都が決めたことの意味は大きい」。自然エネルギー財団の大野輝之常務理事は、東京都が太陽光パネルの設置義務化の方針を9月に発表したことを受け、こう話した。東京都は関連条例の改正案を12月の議会に出す。
企業だけでなく自治体も脱炭素化に取り組み、世界の主要都市がクリーンな都市を競い合う時代だ。東京都は2030年までに温暖化ガス排出量を00年比で半減する計画を持つ。住宅からの排出量も多いため、新たな制度を設ける。
義務化はビルも含めた新築の建物が対象だ。このうち戸建て住宅については、約50社の大手住宅メーカーに設置を義務付ける。これらのメーカーが1年間に建てる戸建てのおよそ半数に当たる2万4000棟程度が該当する見込みだ。
都内の地域ごとに、メーカーが建てる棟数のうちどれだけの割合でパネルを設けてもらうか、基準を決めている。日照量が多いほど割合が高くなる。例えば、高層ビルが多く住宅に日の当たりにくい千代田区や中央区は30%、一方で目黒区や世田谷区は85%。狭小住宅は対象外だ。
パネルの設置費用は100万円程度かかるとされる。消費者にとって負担になる可能性もあり、東京都は支援の在り方を今後詰める。
停滞した国の議論
国もこれまで義務化について議論してきた。経済産業省、環境省、国土交通省の3省をまたぐ案件だ。だが、議論は停滞し、国の会合では30年までに新築戸建て住宅の6割に太陽光パネル導入を目指すとの「方向性」が示されるにとどまり、義務化を決めた東京都に先を越された。
パネルの設置場所が建物であるため、国交省が他省庁を主導することになる。しかし、ある住宅業界関係者は「脱炭素化は経産省の仕事との意識が強く、国交省は当事者意識がないように見える」と話す。21年の国の会合では、自民党議員が「住宅政策を担う国交省が責任を持たず誰が持つのか」と国交省側に詰め寄る場面もあった。
東京都の設置義務化への動きをみて、今後、追随する自治体が増える見込み。川崎市も24年4月から義務化する方針。東京都の職員は「全国の自治体から問い合わせがある」と明かす。
9月中旬、ある国交省関係者は「義務化するかどうかの判断は自治体に任せる」と話した。これに対し、自然エネ財団の大野氏は、パネル設置によって住宅の脱炭素化を加速させるには「国の取り組みが欠かせない」と強調する。
住宅にパネルを設置することは、水素を使うなど技術的なブレークスルーが必要な他の産業の脱炭素化に比べ、比較的実現が容易だ。自治体任せにするのでなく、国レベルでも法整備することが50年の脱炭素化実現への早道となる。
(日経ビジネス 中山玲子)
[日経ビジネス電子版 2022年9月30日の記事を再構成]
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