税の主語を「1人」の人間に
SmartTimes ネットイヤーグループ取締役チーフエバンジェリスト 石黒不二代氏
私は昨年から内閣府の男女共同参画会議の計画実行・監視専門調査会の委員を務めている。3月の委員会では税や社会保障制度などが論議された。くしくも、その前日に世界銀行が、190カ国・地域の男女格差調査を公表し、日本は昨年の80位から103位に後退、世銀の担当者が、日本は女性の法的平等を改善する改革を検討すべしと発言したと伝えられた。

委員会ではまさにこの法律を議論した。いわゆる「内助の功」を評価して配偶者控除という税制が設けられたのは1961年。被用者世帯の専業主婦の基礎年金保険料を配偶者が加入する年金制度が負担すべしという第3号被保険者制度の創設が85年だった。
そしてパートタイムで働く主婦の所得が一定額を超える場合に、世帯全体の税引後手取額が減少することに対応して配偶者特別控除が創設されたのが87年。いずれも正規雇用・終身雇用の男性労働者と専業主婦という昭和の時代と労働市場に合わせた税制である。
時代は変わった。85年に夫婦と子供で構成する世帯は全体の40%、2020年にその割合は25%に減った。単独世帯とひとり親世帯の割合は27.1%から47%に増えた。パートタイムの収入が法律で規定された金額を上回らないようにする収入を抑えて働く行動が経済成長の阻害要因になっているという指摘は多い。
厚労省や財務省の審議官が、実態に合わせ、法律の改正案を説明してくれた。その中身は決して間違っていないと思った。
しかし、調査会の議論に私は違和感を覚えた。これら法律が昭和の時代に作られたものであるから、実態に合わせていこうというだけでは足りないと思うからだ。なぜ、配偶者というものを意識して法律が改正されるのだろう。だから、改正案は常に段階的であり、スピード感にかける。
今や、若者を中心とする結婚観、先進国の結婚観は、現在の法律どころか改正案を持ってしても大きなギャップがある。私はもう主語を変えるべきだと思う。国民の3大義務の一つは勤労だ。「配偶者とそれを養う夫」という主語ではなく、「一人の人間・勤労者・納税者」であるべきだ。もちろん、勤労できない環境がある国民もいて、私たち一人一人がそういう環境に容易に陥ることもある。それは、福祉で対応していく。
日本の男女格差を変えていこうと思えば、現状に合わせる改正では足りない。むしろ、どんな国を作りたいのか、具体的にいえば、少子高齢化が進む日本において女性の就労は必須なのだから、どれだけの女性が労働市場に参加すれば、日本経済が成長の道につけるのか、そんなビジョンやパーパスを作り、法律が国民の行動に合わせるのではなく、法律が国民の行動を変えていくというくらいのビジョンオリエンティッドな立法を望みたい。
[日経産業新聞2022年4月18日付]

関連企業・業界
関連キーワード