20代限定カラオケトップ20 人気は皆で歌う曲よりも…
エンタランキングでは、さまざまな角度から現代のヒット曲を取り上げてきたが、今回取り上げるのは20代に限定したカラオケランキング。今、20代はどんな曲をカラオケで歌っているのか。カラオケ店「JOYSOUND」の2021年のデータを元に、音楽マーケッターの臼井孝氏が分析する。
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カラオケに関しては「カラオケ人気曲、コロナ前後で激変 定番曲が消える」や「ジャニーズ・カラオケランキング 嵐やSMAPは何位?」といった記事で、最新の傾向を分析してきたが、今回、取り上げるのは20代を対象としたカラオケ年間ランキングだ。
カラオケボックスでは新型コロナウイルス感染症の影響で、大人数でのパーティー・カラオケが減り、その分、"ひとりカラオケ"のユーザーが増えている。また、ゲーム機やスマホを使った、いわゆる"おうちカラオケ"も含め、カラオケは今や、"皆で歌えそうな曲"ではなく、"自分が好きな曲"を選ぶ傾向がいっそう強くなっている。20代のランキングもその影響が色濃く表れていた。

トップ20にAdoが4曲
1位は、Adoの「うっせぇわ」。Adoは動画サイトへの"歌ってみた"動画の投稿をきっかけに本作でデビューした、02年生まれ、本名非公表・顔出しNG(22年2月現在)の女性だ。そのインパクト絶大なサビのシャウト気味な歌唱や、チェッカーズや尾崎豊など80年代邦楽ファンをくすぐる歌詞で、"うっせぇわ"という言葉自体が『2021年ユーキャン新語・流行語大賞』にもなった。全体でも2位だが、10代のみならず20代でも1位となったのは、現代の若者のいら立ちを代弁する真のヒットソングだったからだろう。
しかも、Adoの楽曲は、他にも8位に「ギラギラ」、13位に「踊」、20位に「レディメイド」とトップ20に4作もランクイン。彼女は、ネット上のさまざまなクリエイターと組むことで多彩な楽曲を発表しているが、その大きな魅力は、時に情熱的に、時に扇情的にと、楽曲ごとに歌い分けられる点にもある。22年1月に発表されたアルバム『狂言』は発売1か月で、20万枚を突破するほどの人気だ。
2位は女性シンガー幾田りらと男性プロデューサーのAyaseによるユニットであるYOASOBIの「夜に駆ける」。20年から21年にかけて1、2か月おきに、次々と配信シングルをリリースしてきた彼らだが、トップ20には他にも6位の「怪物」、19位の「群青」と3作がランクイン。ちなみに、アーティスト別で見ると、彼らの楽曲が最も歌われている。
3位はLiSAの「炎」。ご存知、アニメ映画『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の主題歌だ。他にもアニメ関連の曲が、6位のYOASOBI「怪物」(『BEASTARS』)、9位のEve「廻廻奇譚」(『呪術廻戦』)、10位の高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」(『新世紀エヴァンゲリオン』)、12位のLiSA「紅蓮華」(『鬼滅の刃』)、18位の涼宮ハルヒ「God knows…」(『涼宮ハルヒの憂鬱』)とトップ20に6作もランクインしており、これは10年代と比べても明らかに増えている。
興味深いのは、1995年の「残酷な天使のテーゼ」や2006年の「God knows…」など、多くの20代がリアルタイムでは見ていないはずのアニメソングまでランクインしていることだ。近年、日本のアニソンは、ストリーミングサービスでも世界的に人気となっているものが増えているが、まさに良いアニメは時空を超えて支持されていることが分かる。
ボカロ作品は20代でも大人気
VOCALOIDやボーカリストを起用して動画サイトで楽曲を発表しているボカロPたちによるリリース曲の人気も顕著だ。
4位のKanaria「KING」、7位のバルーン「シャルル」、11位のDECO*27「ヴァンパイア」、15位のChinozo「グッバイ宣言」、そして16位のてにをはfeat.flower「ヴィラン」と5作がランクインしており、いずれも総合ランキングに比べて少なくとも9ランク以上高くなっている。シャルルがヒットし始めた10年代後半、こうしたボカロPによる人気曲は10代からの支持が集中していたが、20年代となって20代にも広がっていることが分かる。
面白いのは、1995年生まれで実際20代半ばのあいみょんの楽曲だ。総合ランキングでは7位「マリーゴールド」、9位「裸の心」の2作がランクインしているが、20代ではいずれもトップ20圏外。その代わり、30代以上の幅広い年代で人気となるという、一見変わった現象が起きている。彼女がスピッツや浜田省吾など上の年代のアーティストに影響を受けていることから、詞の共感度やメロディーの歌いやすさなどは、むしろ上の世代に響いているのかもしれない。
このように、20代のカラオケ人気曲は、ボカロPとのコラボに積極的なAdoや、メンバーのAyase自身もボカロPだったYOASOBIも含めると、動画系アーティストが過半数となっている。SNSや"ひとりカラオケ"との相性の良さを考えると、この傾向はますます強くなるだろう。
1968年生まれ。理系人生から急転し、音楽マーケッターとして音楽市場分析のほか、各媒体でのヒット解説、ラジオ出演、配信サイトの選曲(プレイリスト【おとラボ】)を手がける。音楽を"聴く/聴かない""買う/買わない"の境界を読み解くのが趣味。著書に「記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝」(いそっぷ社)。渋谷のラジオにてレギュラー番組『渋谷のザ・ベストテン』放送中。 Twitter @t2umusic
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