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アイリスオーヤマ、大山健太郎会長の「経営者への言葉」

アイリスオーヤマ解剖 第2部 大山会長の言葉(3)

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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

アイリスオーヤマ(仙台市)の大山健太郎会長は自社を「仕組みで動いている会社」と表現する。商品を素早く生み出す仕組みや社員を幅広い観点で評価する仕組み、情報共有の仕組みを作って成長を続けている。「NIKKEI LIVE」に出演した際の発言には、そんな仕組みを作るための「指導者論」もあった。多くの経営者にとって、自社を改革する一助になり得る。

「当社は不況でも好況でも、注文の有無にも関係なく利益の50%を未来に向けて投資してきた。常に先行投資することで一歩一歩伸びてきた」

アイリスオーヤマは東日本大震災を経験して発光ダイオード(LED)照明が主力商品の1つとなり、新型コロナウイルスが流行するとマスクや空気清浄機などの事業を伸ばした。この背景には工場や製造用ロボットなどに資金を投じ続け、工場には常に3割の予備スペースを確保して緊急事態に備える姿勢がある。

マスクの国内生産では倉庫だった場所に設備を導入した。あえて「遊ばせていた」空間が生きた格好だ。これが実現するのはアイリスが未上場企業であることも大きい。株式を上場していれば、資本効率の向上や株主還元は重要な課題だ。「利益の50%を常に先行投資する。設備の3割は空けておく」という方針を立てることは簡単ではない。

大山会長は株式会社について「非常に良い仕組みで、多くの人間がリスクを分散しながら新事業を始める際に有効だ。ただし上場すれば様々な立場の人が株式を保有し、短期的な利益拡大や高配当を最優先に考える人がいてもおかしくない」と語ったことがある。危機に素早く対応できる余裕を持つため、非上場を維持して投資を続けている。

「経営はリスクなくしてリターンなしだと考えている。リスクを取るのは会社であって個人ではない」

「社員は自分の仕事を一生懸命やる。工場を建てるにしても新商品を作るにしても、社長、会社の責任だ」と大山会長は強調する。そのうえで「リスクを恐れていては、何も前に進まない。リスクなしで絶対に勝てるはずがない」と挑戦の重要性を説く。

アイリスでは販売開始から3年以内の商品が売上高全体に占める割合を6割以上に高める「新陳代謝」を重視しており、実際に1年間で1000アイテム以上の新商品を発売する。多くの企業では新製品や新規事業が不振に陥った場合、発案した個人が責任を問われることもある。しかし大山会長は「商品が成功すれば提案者の成果で、失敗したらジャッジした社長の責任だ」と社内で言い続けている。

これは同社の人事評価が透明で、単純に実績だけで考課を決めるわけではないから成立する言葉でもある。「失敗をマイナスにとらえては社員が萎縮してしまう」。社員が自発的に多くのアイデアを出して企業の「若さ」を保つには、経営者が部下たちの失敗を許容し、責任は自身が負うという覚悟が欠かせない。「トップの仕事はマネジメントではない。ジャッジして、新しいビジネスチャンスにチャレンジすることだ」と説く。

アイリスにはパナソニックホールディングスや三洋電機など電機大手からの転職者が多く働いている。「キャリア採用した人材が一番喜ぶのはジャッジが速いことだ。『前の会社では商品化まで1年や1年半が必要だった』と話している」と大山会長は言う。「当社では3カ月後には商品として市場に出る。打てば響くとなれば、次のアイデアもどんどん出そうという気になる」。経営者がリスクを取って素早く判断を下すことが、組織の活性化につながる。

「以前のアイリスの経営は野球型だった。20年前ぐらいからサッカー型、ラグビー型に変えている」

これは組織内で各自の役割をどこまで固定しているかを指す。サッカーやラグビーにもポジションはあるが、野球で打順を決めて打席に立つような明確な役割固定の仕組みはない。「事前にフォーメーションを決めておき、試合では『あうんの呼吸』で連携して決められた時間の中で最高のパフォーマンスをする」と「サッカー型経営」を語る。

具体的な取り組みとして「社内の縦割りをなくすため、できるだけ組織の『線』を束ねて少なくしている。そして人材はローテーションして固定化しない」。大山会長は「組織を細かく分けて人材の専門性を高め『この分野はこの人に任せる』となれば経営者は楽だが、それが『大企業病』につながる」と指摘する。

新型コロナ流行に象徴されるような非常事態が起きた際に「その対応は自分の部署の仕事ではない」「経験がないから自分には無理だ」と社員が考えるようでは危機を乗り切れない。アイリスの幹部は複数の部門を経験し、サッカー選手がグラウンド全体を走り回ってボールを追いかけるような姿勢が求められる。

「商品開発は映画づくりと同じだ。構想があってストーリーがあり、シナリオが存在して役者がいる。そして音楽があり、画像もある」

大山会長の高校時代はヌーベルバーグの全盛期で、映画監督になる夢を描いていた。父の死去に伴って家業を継いだため実現しなかったが、経営と映画は通じるところがあると話す。「構想を立ててストーリーをまとめるのが経営者の仕事だ。シナリオを開発者が書き、俳優とは商品だ。音楽は販売促進に相当し、画像はデザインにあたる」

アイリスは社員に多くのアイデアを出すことを求めるが「何でもいいから自由に提案しろ」という姿勢ではない。トップが立てた構想とストーリーに基づいて全社員が自身の役割を考え、連携してゴールを目指す。サッカーチームのような組織で1本の映画を作り上げることが理想だ。

「経営とは手段であり、最も大事なのは需要を創造することだ。いま世の中の変化は速く、生活者のニーズは目の前にある。それを他社よりも早く実現することが企業の競争力につながる」

消費者が欲しいものを探るマーケティングの手法は進化し、SNS(交流サイト)など手段も多様になっている。しかし大山会長は企業側が生活者の「本人も気づいていない不便」を見つけ出すことが勝つための条件だと強調する。アイリスオーヤマが成長を続けられるかどうかは、社員全員が大山会長の求める「生活者の代弁者」にどこまで近づけるかにかかっている。

明確な言葉を共有し、共感を得る


「コロンブスの卵」という言葉がある。実際にあった出来事かどうかは置いておき、一般に「誰でもできそうなことも、最初に実現するのは難しい」といった意味で使う。大山健太郎会長の言葉は、これに通じるものを感じる。

「取引相手ではなくユーザーのことを第一に考えろ」「実績だけで人事評価を決めるべきではない」「事業が失敗したら社長の責任だ」。いずれも単純に言葉にすれば、それほど大きな驚きはない。

しかし、これらの言葉の裏には19歳から経営者として生き、様々な危機に直面してきた体験がある。かみ砕いて解釈することで、多くの企業にも通用する経営のヒントになる。そして経営者が自身のビジョンを明快な言葉で社内外に伝えて共有し、共感を得ることの重要性も読み取れる。

(日経産業新聞副編集長 村松進)

=第2部おわり。詳細な発言はNIKKEI LIVEで電子版有料会員の方に限り、こちらから視聴できます。

勝ち続けるアイリスオーヤマの強さの秘密に迫る

https://www.nikkei.com/live/event/EVT220509003/live

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