ニコン、ドイツの3Dプリンター大手買収 約840億円

ニコンは2日、独3Dプリンター大手SLMソリューションズ・グループを買収すると発表した。買収額は6億2200万ユーロ(約840億円)。ニコンは半導体露光装置事業で培った技術を応用した新規事業として金属3Dプリンター事業を強化している。3Dプリンターで世界的に著名なSLMとの共同開発などを通じて、成長が見込める電気自動車(EV)などの需要を取り込む。
同日、SLMと投資契約を結んだ。SLMは1996年の創業で独リューベックに本社を置く金属3Dプリンター大手。従業員数は500人以上とする。まずSLMの株式数の約10%にあたる4500万ユーロの増資を引き受け、その後株式と新株予約権付社債(転換社債=CB)を公開買い付けする。買収費用は手元資金で対応する予定だ。
馬立稔和社長は同日のオンライン説明会で「製造業のデジタル化やカーボンニュートラルなどで有望市場の金属3Dプリンターで世界的リーダーを目指す」と買収の狙いを話した。
金属3Dプリンターは設計データから自由度の高い立体物を作ることができる装置。複数の部品を一体化して作ることができるため、強度を高めながら軽量化できるメリットがある。宇宙航空分野に加え、EVの航続距離や燃費の向上を目指す自動車業界など幅広い分野での活用が期待されている。
SLMは複数のレーザーで金属を溶かして造形する方式で、大型部品を高速で造形する技術に強みがあり、宇宙航空や自動車業界などに大手顧客を持つ。ニコンによると、3D金属プリンターの世界シェアは1割程度で、独EOS、米ゼネラル・エレクトリック(GE)に次ぐ3位という。SLMは2016年にGEが7億4500万ドルで買収予定だったが、物言う株主の買収価格引き上げ要求で断念していた。
ニコンは半導体露光装置で培った高精度の計測技術や微細加工技術を応用し、「光加工機」と呼ぶ3Dプリンターを手掛ける。金属製の粉を吹き付けて自由に成形する方式をとっており、SLMの持つ技術との掛け合わせで競争力の強化を狙う。
これまでも主力のカメラや半導体露光装置事業に並ぶ新規事業として金属3Dプリンターの強化を進めてきた。21年4月に米ボーイングなどへの販路を持つ米モーフ3Dを100億円弱で買収し、中小型衛星向けの部品製造に参入。21年5月には材料加工のシミュレーション技術に強いオーストリア企業と共同開発の契約を結び、物体の表面にサメ肌のような溝を作る「リブレット加工」の受託サービスを始めていた。
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