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有機野菜の定期宅配でファン拡大 環境への配慮を応援

坂ノ途中の小野邦彦社長は大学時代から、持続可能な農業に関心を持っていた(同社が書店と共同運営する「本と野菜 OyOy」で)
日経ビジネス電子版

約300軒の農家とタッグを組み、有機野菜を定期販売の形で食卓に届ける坂ノ途中(京都市)。既存の流通規格にとらわれず、種類豊富な品をそろえるサービスは全国にファンを増やしている。

◇  ◇  ◇

「収穫が不安定な有機野菜を広めるには、僕らのタフさが必要なんです」。そう語るのは坂ノ途中の小野邦彦社長だ。同社は個人向けの定期宅配と、飲食店やスーパー向けの卸として有機野菜の販売を手掛ける。特に個人向けの「旬のお野菜セット」は急成長。2021年6月時点の会員数は1年前から44%増の約7200人となった。

政府の緊急事態宣言による「巣ごもり需要」が追い風になっただけではない。新型コロナウイルスの影響がなかった19年6月期までの5年間でも、会員数は4.8倍と、着実に伸びてきた。

日本は多湿な気候なので、害虫や雑草を抑えるには農薬が必須とされてきた。だが、若い世代を中心に、自然との共存や脱炭素など環境保護の意識も高まり、化学肥料や農薬を使わない農法に注目が集まっている。09年に京都で誕生した同社は、有機野菜のみを販売し、関東などに販売先を拡大。じわじわと口コミやSNS(交流サイト)でも認知され、会員が広がっている。

収穫のブレを「面白さ」に

有機野菜のセットが定期的に届く

「何この野菜、初めて!」。同社には顧客が喜々として驚く声が、よく寄せられる。まるで花束のような形をしたキノコの「ハナビラタケ」や、緑色の濃さがグラデーションになっている「半白きゅうり」。毎週または隔週で届くセットの箱には、トマトやジャガイモのような定番だけでなく新顔がいる。3~5人向けのMサイズで11~14種類ほど。価格は税込みで3672円だ。

年間に扱う野菜は450種類ほど。普通なら品目を絞った方が、顧客に安定した内容を提案でき、生産計画も立てやすそうだ。しかし同社はあえて「収穫のブレ」を楽しんでもらう。ビジネスモデルを成り立たせる秘訣がここにある。

坂ノ途中は野菜の調達で、2つの難題に取り組んできた。1つは、取引先農家の9割が新規就農ということだ。同業他社と比べ、規模は小さくノウハウもこれからという農家が多い。2つ目は有機農業そのものの難しさだ。化学肥料や農薬に頼らないので、天候などの影響を受けやすい。

どうしても収量は安定しづらいが、小野社長は「ポジティブなサプライズにしたい」と意気込む。あえて多品種・少量で調達。形のバラつきや品目ごとの収穫の変動は、自然環境を反映したものだとアピールする。

例えば梅雨の季節は、トマトが成長しすぎて割れることも多々ある。「雨の後に起こりやすい現象なんです」と事前に説明しておくと、顧客も目くじらを立てにくくなる。台風の前なら、木が丸ごと被害を受けないよう、まだ小さなナスを収穫して届ける。冬に近づくと、ブロッコリーやキャベツは一部が紫がかることもあるが、耐寒性を高めて色素を出す原理を説明する。

一般的な卸売市場だと、こういった野菜は「規格外」として流通できず値がつかない。同社は「ブレ」をお客さんに楽しんでもらい、販売を成り立たせる。就農者には栽培で自立するよう求めるが、野菜の買い取りでは市場の2~3倍の単価を示す。苦労を評価してくれると話題になり、新たな農家からひっきりなしに問い合わせが来る。気づけば取引先農家は約300軒になった。

農家の投資回収期間を長めに設定しているのも特徴だ。野菜は大きく「はしり」「盛り」「なごり」の3期間に分かれる。通常の小売店では、味が変わるとの理由で、なごりの時期の野菜は仕入れず、旬の産地に切り替えて買い入れることが多い。しかし同社では、例えば9月になごりのピーマンを届ける場合、「夏の終わりの味」と打ち出す。7月のみずみずしさの代わりに、肉厚でジューシー。じっくり火を通すとおいしい、と料理方法もアドバイスする。

収穫情報をリアルタイムで提供

小野社長はかつて外資系金融マンだった。BNPパリバ証券で金融工学を駆使し、金利・為替のデリバティブ商品を開発していた。08年9月のリーマン・ショック後は、市場の激変を経験。顧客のリスクをヘッジ(回避)する仕事だったはずが、相場急変によって「リスク量が2次関数的に拡大した」。昼夜を問わず会社にこもって計算を続け、3食とも机でとる多忙な日々だった。

坂ノ途中の売上高推移

一見、農業と縁遠いキャリアのようだが「金融に身を置いたのは修行のため」だった。京都大学で文化人類学を専攻、人の営みと環境問題に関心を持ち「自然への負荷を減らす持続可能な農業」での起業を決めていた。

現在はコロナ禍で飲食店が苦しい状況ながら、同社の卸事業は規模を維持している。20年10月には飲食店向けの野菜発注サイト「やさいノート」を開設。農家の収穫情報をリアルタイムで更新する。市場外からの仕入れは、思わぬ欠品が難点だが、在庫が明確ならば仕入れもしやすく、来店客にも付加価値をアピールしやすい。

さらに東南アジアの産地から仕入れる「海ノ向こうコーヒー」事業にも注力する。ミャンマーやラオスに社員が出向き、栽培から発酵・乾燥方法などを指導。日本で豆にこだわるカフェ約1000店に納入している。「国内の野菜や海外のコーヒーの生産者たちが規模を拡大したいとき、応えられる存在でありたい」。小野社長はさらなる事業展開を見据えている。

(日経ビジネス 小太刀久雄)

[日経ビジネス 2021年7月5日号の記事を再構成]

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