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「個の犠牲」のない霞が関を 立ち上がる民間出身官僚

日経ビジネス電子版
霞が関で進む働き方や風土の改革。その一翼を担っているのが、民間出身の官僚たちだ。民間の知見を取り入れるため外部人材の採用・活用は霞が関にとっても重要なテーマだが、閉鎖的な雰囲気や前例踏襲主義を変えるためにも、「異分子」の存在は欠かせない。

「公務にはやりがいと誇りがある。多様な人材を呼び込むことが急務だ」──。民間企業から転身した官僚のチームが、省庁改革を提言するために集結した。その名も「ソトナカプロジェクト」。省庁横断で係長~課長級の17人が参加している。

発起人の一人である吉井弘和課長補佐(厚生労働省保険局)はマッキンゼー・アンド・カンパニー出身。海外留学を機に公共の仕事をしたいと願い、厚労省の外郭団体を経て2020年から本省職員になった。生え抜きが主流の霞が関で「異分子として、空気を気にせず論点を提示する人材も必要」と力説する。

「レンタル」から「完全移籍へ」

人事院によると、民間から省庁への出向(任期2年間)は、14年の137人から21年の247人へと急増した。ただ、期間限定の「レンタル移籍」ではお客様的な扱いになるケースも少なくない。民間の知見を取り入れた政策立案、そしてオープンな風土づくりには「完全移籍」の中途採用を増やす必要がある。

ルートとしては現在、人事院による各省共通の社会人向け試験のほか、各省庁が個別に実施するテストもある。省庁にもよるが、係長級または課長補佐級や専門職を募集。論文と面接が主な試験だ。中途で入っても、いわゆる「キャリア官僚」となることも可能だ。21年に7省庁の中途採用を支援したエン・ジャパンの水野美優氏は、「一部の省庁は筆記試験を民間でも使う適性試験に代替するなど外部採用の環境を整え始めた」と話す。

いずれのケースも年間採用予定は「若干名」と狭き門ではあるが、徐々に民間出身者の厚みは増している。共同通信の政治部記者だった佐伯健太郎さんは、農林水産省の中途採用試験に合格した。

記者時代、首相官邸や防衛省も担当し、沖縄県普天間基地の移設問題などを取材し報道の使命感を持っていた半面、「政策を決定する側に回ってみたいというもどかしさがあった」。20年から係長としてスタートし、現在は経営局で課長補佐を務めている。

そして出向や中途採用だけでなく、外部の指摘を生かすことも重要だ。「政策の伝え方を変えたい」と語るのは、文部科学省からの委託で広報戦略アドバイザーを務める西川朋子さん。PR業界出身者として、真面目に働いても一般市民に評価されにくい霞が関には歯がゆい思いだった。年次にとらわれず、上下関係を突破しやすいのが外部出身の強みだ。事務次官クラスなど省内では「雲の上」のような幹部にも気さくに声をかけ、議論の輪を広げている。

中途採用の拡大は政府にとって眼前の課題だ。23年4月に創設予定の「こども家庭庁」では各省から人材をかき集める想定ながら「文科省は人を出そうとせず亀裂が走っている」(複数省庁の官僚)。デジタル庁では民間人材との融合で混乱も生じた。今回は入念な準備が要る。

民間に転職した「元官僚」にも期待がかかる。従来は退職そのものに微妙な雰囲気があり、出戻りを歓迎しづらい省庁もあった。「人材が流出した時点で人事戦略の失敗と捉えられかねない」(政府関係者)という、完璧主義を求めがちな霞が関らしい事情だった。省庁から去った人とは距離を置く傾向さえあった。

しかし、産業界の動きは目まぐるしく、「民間の状況が分からないと政策を企画立案しようにもついていけない」(経済産業省の40代)との声が聞こえてくる。新たな省庁の船出は、人事の慣習も変える好機でもある。霞が関を去った人材をリスト化し、経験を積んだ人に声掛けして再雇用する構想もある。

17時に退庁し保育園へ

民間出身者を霞が関に根付かせるには、生え抜き官僚も巻き込んだ風土改革が欠かせない。城山三郎の小説『官僚たちの夏』にも出てきた経産省大臣官房秘書課。省内人事をつかさどり事務次官など幹部と日々接する枢要な部署だが、河野孝史課長補佐は午後5時に退庁し、保育園へと向かう。以前の霞が関では困難だった光景だ。

国会会期中は答弁作成に追われ、経済政策の「骨太の方針」も6月上旬までに仕上げる必要がある。夏の大規模な人事異動に向け、秘書課も多忙だ。「誰もが子育てと政策立案を両立できるよう、組織体制の見直しに取り掛かっている」(河野さん)。例えば、河野さんは早朝から働く代わりに、夜の対応が必要な場合は若手に任せている。

同省の「チームアップ・チャレンジ」という取り組みでは、例えば急を要しないメールは何時までなどと、各課長が省内のイントラネットで全職員に宣言。さらに各職員の予定はオンラインで共有することで、育児・介護などの時間調整に無駄に気を使わずに済む。

民間企業でもそうだが、従来の霞が関でも省庁によっては「うちは働き続けやすい」とアピールしながら、子育てや家族を介護中の人材を中核の部署から外してきた実態がある。「家庭か組織か」の選択を強いていては、優秀な人材は働けなくなる。もし共働きに共感できない人ばかり登用すれば、世間とのズレが増大。少子化対策など喫緊の課題について、実感を持てずに効果的な対策を打ちづらくなるだろう。この連鎖を断ち切り、民間人材を引き寄せることが重要だ。

今後は、外部人材を重要ポストに充てられるかどうかが試金石となる。霞が関では各政党や有力議員を説得しながら、政策や法案を実行可能な線に収めていくことが役割の一つ。そのための人間関係を築き、仕事をこなしていけるかが人材の評価軸となってきた。企業とは大きく異なるだけに、「民間人材を主要ポストに登用するうえでの壁になるのでは」(財務省の50代)との声もある。

霞が関の制度や風土の見直しにとどまらず、政治を巻き込んだ改革も欠かせない。

(日経ビジネス 小太刀久雄)

[日経ビジネス電子版 2022年6月1日の記事を再構成]

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