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モスの600円食パンは、なぜ金曜日限定販売なのか

販売好調なモスフードサービスの「バターなんていらないかも、と思わず声に出したくなるほど濃厚な食パン」600円(税込み)
日経ビジネス電子版

高級食パンに代表される食パン専門店は新型コロナウイルス禍でも販売を伸ばし続けている。調査会社の富士経済(東京・中央)によると、2018年に約141億円だった食パン専門店の市場は20年に1.8倍の255億円と見込んでいる。

その勢いは続いているとみられる。「むしろ、一時のブームから脱して、1つのジャンルとして定着しつつある。今後も新規参入は増える」と調査会社のTPCマーケティングリサーチ(大阪市)の佐藤照穂氏は指摘する。

例えば、高級食パンブームの火付け役となった専門店「乃が美」の店舗数がコロナ禍でも増えている。佐藤氏によると、乃が美の店舗数は19年初頭に100店舗前後だったが、21年4月1日時点では216店舗となった。都市部を中心に出店していたのが、住宅街などに拡大し、「身近な嗜好品として、外出自粛の情勢下でも全国的にニーズが増えているようだ」と佐藤氏は言う。

名前が顧客の印象に残るように

そんな中、21年2月に高級食パンへの新規参入を表明したのがモスバーガーを展開するモスフードサービスだった。商品名は「バターなんていらないかも、と思わず声に出したくなるほど濃厚な食パン」。東海地方(愛知、岐阜、三重)と北海道、沖縄、離島を除くエリア、約1000店舗で販売している。

毎月第2、第4金曜の月2回販売で、顧客からの予約分だけが納品される

「インパクトを与え、名前が顧客の印象に残るように」(営業本部付の吉野広昭グループリーダー)とあえて長くしている商品名も独特だが、販売方法にも特徴がある。毎月第2、第4金曜の月2回販売で、顧客からの予約分だけが納品される受注生産になっている。価格は1斤600円(税込み)で、乃が美の「高級『生』食パン」(同432円)に比べても4割ほど高い。

コロナ下で、客数減に苦しむ外食企業が中食やテークアウト用のメニューや新業態を開発することは珍しいことではなくなった。唐揚げや冷凍食品には大手外食チェーンが続々と新規参入している。

だが、モスのように外食チェーンが高級食パンに参入するのは異例だ。しかも、モスの店舗運営の状況は決して悪いわけではない。19年8月以降、既存店売上高は21年2月まで19カ月連続、前年同月比で増加している。

コロナ後、持ち帰り客の比率が7割程度に上がったモスやマクドナルドなどの洋風ファストフードは、店内飲食の客数減の影響を受けにくい。コロナ禍による売り上げ急減を受けて唐揚げに本格参入したワタミやガスト、冷凍食品に参入したロイヤルホストなどとは状況が異なる。

客層が重ならないから意味がある

ではなぜモスは高級食パン市場へ参入したのか。

モスは2020年度、新規事業の創出のため物販事業を強化している。例えば、アメ・グミ大手のUHA味覚糖(大阪市)とのコラボ商品「つむモスグミ」をセブンイレブンとモスの店舗で発売したほか、野菜宅配のオイシックス・ラ・大地と提携して宅配用のミールキット「時を忘れる魅惑のボロネーゼ」を開発した。

高級食パンもこうした取り組みの一環として生まれたものだ。ハンバーガーのバンズを製造している山崎製パンに発注したものをモスの店舗で販売する形態をとっている。

モスの思惑は、既存の顧客以外へのアプローチを強める点にある。モスバーガーの顧客は中高年層がコアとなっており、若年層への訴求が課題だった。高級食パンは流行に敏感な若年層に人気があり、SNS(交流サイト)での発信も多い。顧客層を拡大できるメリットがあると考えた。

また、受注生産のため、廃棄ロスの心配もない。販売を金曜日にしたのも明確な戦略がある。「金曜日の退勤時に店頭で受け取ってもらい、週末に家族で食べてもらう流れを想定している」と吉野氏はその狙いを語る。

モスフードサービス営業本部付の吉野広昭グループリーダー

予約をモバイルオーダーやネット予約でなく、実店舗に限定したのも明確な理由がある。食パンの予約で訪れた顧客にバーガー類を買ってもらおうと狙っている。

食パン1斤の価格は600円で初回は9万5000食が売れた。これで売り上げは合計5700万円である。2度目の販売となった3月26日は4万7000食だったので2820万円だ。2回分を合わせて、3月の売り上げは約8520万円。仮に12カ月このペースで売れ続けたとすると年間売り上げは10億円あまりになる。

モスの年間の連結売上高が689億円(20年3月期)なので、高級食パンが売り上げを大幅に底上げするわけではない。吉野氏は「(高級食パンは)話題作り、PR的な商材だと割り切っている」と説明する。

テレワーク時代の商材として有望

TPCマーケティングリサーチの佐藤氏も「ファストフードでアプローチしていた顧客層と異なる層に訴求する意図を感じた。実際、それが成功しているのだろう。しかも食パンは自宅で消費する食材なので、テレワーク時代の商材として有望だ」と語る。

モスは根強いファンが多いことで知られる。半面、「ハンバーガーチェーンがなぜ高級食パンなのか」と既存客から反発を受ける恐れもあったが、結果的には好意的に受け止められた。「在宅ニーズと食パンの相性は良いと思っていた。予想以上のヒットとなった」と吉野氏は話す。

(日経ビジネス 神田啓晴)

[日経ビジネス電子版 2021年4月1日の記事を再構成]

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