外食がハンバーガー業態に期待 ロイヤルHDや鳥貴族

新型コロナウイルス禍で打撃を受け続けている外食産業で、ハンバーガー業態への新規参入が目立っている。ロイヤルホールディングス(HD)が5月末にチキンバーガーが主力の業態を開き、鳥貴族ホールディングス(HD)も8月にハンバーガー店を出店する。唐揚げに続き、苦境にある外食が一斉に寄せるハンバーガーへの期待。隣の芝生は本当に青いのか。
ロイヤルHDは5月29日、東京・品川にフライドチキン専門店「ラッキーロッキーチキン(Lucky Rocky Chicken、LRC)」を開業した。看板商品は国産鶏むね肉をバターミルクに一晩漬け込んで作る「バターミルクフライドチキンバーガー」(単品税込み500円)。客単価675円で持ち帰り客75%、デリバリー15%、店内飲食10%を想定している。年内に首都圏を中心に5~10店舗を出店する。
「世の中の変化に対応する戦略的な業態の一つとして育てていきたい」。ロイヤルHDの黒須康宏社長が語るように、苦境が続く外食業界がハンバーガー業態にかける期待は大きい。
日本フードサービス協会によると、2021年4月の洋風ファストフード業態の売上高は前年同月比10%増、19年4月と比べても14%増だった。19年4月との比較でプラスなのは全業態中、洋風ファストフードだけだ。
ハンバーガーはコロナへの耐性が強かったと外食業界では受け止められている。そもそも持ち帰り需要が大きい。モスバーガーはコロナ以前に6割だった持ち帰り客の比率が、コロナ以降は7割に上昇した。家族客を中心にまとめ買いニーズも高まり、日本マクドナルドでは20年12月期の客単価が19年12月期に比べ16.7%伸びた。
持ち帰りという特徴を生かせば、コロナに応じた安心安全の対策を次々に追加しやすい強みもある。マクドナルドはスマホで注文・決済した商品を従業員が駐車場に運んでくれる「パーク&ゴー」を21年3月末までに860店で導入。モバイルオーダーシステムはコロナ禍を受けて設備投資を加速し、大半の店舗に導入済みだ。
KFCでさえ苦戦している
マクドナルドの動向を外食大手はこぞって分析し、新規参入の表明や商品強化の動きが増える。居酒屋大手の鳥貴族HDは21年8月に東京23区でハンバーガー業態の1号店をオープンする計画を明らかにしている。大倉忠司社長は「コロナ禍が無ければ開業は3~4年先を想像していたが、ファストフードはコロナ禍でも好調に推移しているのですぐにやろうと決めた」と語る。
1人焼き肉チェーンのダイニングイノベーション(東京・渋谷)は完全キャッシュレス・持ち帰り専門の「ブルースターバーガー」を20年11月に都内に出店。鳥貴族、ダイニングイノベーションともに将来的に1000店以上を目標に掲げる。国内モスバーガーの店舗数は20年度末時点で1260店舗だから、業界2位に匹敵する水準を目指しているほどの熱の入れようということになる。

ハンバーガー業態は唐揚げと同様に、店内飲食メインの店舗と比べて出店コストやオペレーションにかかる人員が少ないというメリットもある。ロイヤルHDのLRCは店舗あたりの出店コストが1500万円で、従業員はピーク時でも3人程度という。開業にかかる設備投資が少ないとされる唐揚げ店も「出店コストは都心駅前が2000万円、郊外ロードサイドなら1000万円」(大手唐揚げチェーン)とされている。ハンバーガーのコスト面での参入障壁は低い。
ただ、本格参入を狙うと大手の壁は厚い。富士経済(東京・中央)によると、ハンバーガーの市場規模は20年時点で7302億円が見込まれている。マクドナルドの全店売上高は5892億円(20年12月期)、2番手のモスバーガーが1061億円(21年3月期)だ。
米国発のグルメバーガーブランド「シェイクシャック」が15年に日本へ上陸し注目を集めたが、現時点で国内店舗は十数店舗にとどまっている。「基本的にマックとモスの独占市場」(いちよし経済研究所の鮫島誠一郎氏)というのが実態。ケンタッキーフライドチキン(KFC)でさえも「サンド(ハンバーガー)は過去何年も挑戦しているが苦労している」(日本KFCホールディングスの判治孝之取締役常務執行役員)という。
「都市部を中心に数十店舗の出店は難しくないがシンプルに『ハンバーガーを始めた』というだけでは生き残ることは難しい」と鮫島氏は警鐘を鳴らす。圧倒的に強い先駆者は次々に新企画を打ち出すマーケティング力にもたけている。新規参入組ならではの違いを出す知恵が欠かせない。
(日経ビジネス 神田啓晴)
[日経ビジネス電子版 2021年6月1日の記事を再構成]
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