フェイスブック社名変更、新たなITトレンドの前触れか
奔流eビジネス(アジャイルメディア・ネットワークアンバサダー 徳力基彦氏)
フェイスブックが10月28日、社名を「Meta(メタ)」に変更すると発表した。メタとは、「超越した」という意味のあるギリシャ語だそうだが、「メタバース」と呼ばれる仮想空間サービスを意識した社名変更なのは明らかだろう。

米国では、フェイスブックの元社員が退職時に持ち出した大量の社内文書をもとに批判が激しくなっているタイミングでもあるため、批判をかわすための社名変更という見方もあるようだ。ただ、歴史を振り返ると、IT業界でリーダーシップを取っている企業が、時代の変化に合わせて会社全体のシフトを宣言するという出来事は、その後のトレンドを象徴していたことがわかる。
象徴的なのは、1995年に「ウィンドウズ95」を発売し、パソコン業界を席巻したマイクロソフトのビル・ゲイツ氏が、同年12月のカンファレンスで「マイクロソフトはインターネットにシフトする」と宣言したことだろう。社名こそ変更しなかったが、当時人気のあったインターネットブラウザーの「ネットスケープ」に対抗して、「インターネット・エクスプローラ」の開発を強化。「ウィンドウズ98」からはブラウザーを標準で搭載して一気に市場シェアを奪うことになる。
検索エンジンとしてインターネットの中心に君臨していたグーグルが、フェイスブックやツイッターの躍進に追いつこうと、2011年に「グーグル+(プラス)」をリリースしたのも象徴的な出来事と言える。結果的にグーグルプラスは成功せず、サービス終了に追い込まれたが、SNS時代の到来を予測していたグーグルの問題意識が明らかに出ていたサービスリリースだった。
日本においても、PCインターネットにおいて圧倒的な地位を築いていたヤフーが、12年に宮坂学氏に社長が交代し「スマホファースト」を掲げて、会社全体のスマホシフトに成功したのが記憶に新しい。
業界で圧倒的な地位を築いている企業が、時代の変化の兆しに気づいて、会社全体の方向性を転換する宣言をするというのは、大抵の場合、その後に到来する時代の方向性を示しているものなのだ。そういう意味で、マーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が社名をメタに変更してまでメタバースの企業へ変わることを宣言したことは、単なる批判回避の社名変更と片付けるべきではない出来事と考えるべきだろう。

もちろん、マイクロソフトがインターネットのリーダー的企業にはなれず、グーグルがSNSのリーダー的企業にはなれなかったように、フェイスブックがメタバースのリーダー的企業になれるかどうかはわからない。ただ、メタバース的なものが、1つのトレンドとして注目される流れにある可能性は高い。
ネットの普及、SNSの普及、スマホの普及、それぞれのトレンドの波が訪れる度に、業界が大きく変化したことを振り返ってみれば、こうした変化が自らの事業に与える大きさは想像できるはずだ。皆さんの会社の提供している商品やサービスは、これからメタバースの波にどう対応していくべきか、今から考え始めても早すぎることはないはずだ。
[日経MJ2021年11月5日付]