事件・事故情報シェアアプリ、近所の異変知って防犯
先読みウェブワールド(瀧口範子氏)
防犯アプリの「Citizen(シチズン)」が、高齢の中国系アメリカ人たちの間で利用を広めているという。特に中国系住民が多いサンフランシスコ地域で集中的なマーケティングを行い、プレミアムサービスを1年間無料で提供したことも、ユーザーを増やしている要因のようだ。

中国系住民は今、全米でヘイト行為の対象になりやすいとされ、理由もなく路上で殴られたり倒されたりするという事件が頻発している。信じられないことだが、日本人も決して無関係ではない。攻撃の的になる当事者としては、防衛の手段を持たなくてはならないと考えるのが当然だろう。
防犯アプリは他にもあるが、シチズンは最も知られたものだ。火事、交通事故、争い、盗み、車を傷つけているといった状況に直面した、あるいは目撃したユーザーが、メッセージやビデオで投稿。位置情報ベースでシェアされる。火事などあたり一帯に危険が及ぶ場合は付近にいるユーザーにもアラートが届く。
こうしたサービスは、「警察に届けるほどのことでもない」ものの、怖い出来事をシェアするのに向いているとされる。自分の家のドアにゴミが投げつけられているとか、車が傷つけられているといったようなことだろう。イタズラかもしれないが、アプリを通して近所で同じようなことが起こっているということがわかれば、警戒心を高めておいた方がいいとわかる。
事件を報告するという点では、ツイッターなどのSNS(交流サイト)に投稿するのと似ているのだが、シチズンの場合はそうした事件が集約されている。また、有料のプレミアムサービスに加入すると、見守りのような機能も使える。これは、オンデマンドでアプリ側のエージェントとつながり、例えば夜道を歩くような場合にはずっとオンラインビデオで接続しながら安心して帰宅できる。
日本でも高齢者が詐欺や強盗の被害に会う事件が発生しているので、何か対処できるアプリがあり得るのではないかと考えてしまうのだが、どうだろうか。

米国の場合は、ハイパーローカル(狭い地元地域)に集中した犯罪パターンが見られることがよくあり、こうしたアプリの効果が期待できるが、高齢者が狙われる最近の日本の事件は別のパターンをあぶり出す必要があるかもしれない。スマホ利用にたけた高齢者は多くないので他人が目撃した情報を防犯に生かせるような工夫が必要だろう。
とは言うものの、防犯アプリには批判もある。シチズンでもかつて問題になったのは、他人への警戒心をむやみに高めてしまい、ちょっとした振る舞いや人種など外見だけで怪しい人物だと決めつけ、その情報をユーザーやコミュニティーが共有してしまったことがある。そもそも、ある程度のレベルになると警察に報告すべきで、実際に米国の緊急番号である「911」につながるボタンを設けているアプリも多い。
折しも、ニューヨーク市警察が独自の犯罪報告アプリを近く始めるという。ビジネスから生まれたアプリは公共の役割を先取りすることもよくあるが、本当は公共機関が先に優れて使いやすいアプリを案出して欲しかった、という例だ。
[日経MJ2023年3月6日付]