ホンダ「シビックタイプR」刷新、走りも快適さも追求 - 日本経済新聞
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ホンダ「シビックタイプR」刷新、走りも快適さも追求

ホンダが2022年9月、5年ぶりに刷新した主力車「シビック」のスポーツモデル「シビックタイプR」。先代のモデルではスポーツ車としての走行性能を高めるだけでなく、街乗りの快適さも追求した。新型車はその二軸をさらに磨き上げた。開発チームの合言葉は「敵は己」。新型コロナウイルス感染拡大で海外のテストコースに行くのが難しい中、1回限りの渡航で最終調整するなど強い緊張感と一体感で乗り切った。

シビックタイプRは1997年発売のホンダを代表するスポーツカーだ。当初は部品を最小限にして軽量化し「本当の車好き向け」(先代のタイプRから開発責任者を務める柿沼秀樹さん)だった。

2000年ごろから安全や環境に関する法規制が整備されていくのに対応すると、車両重量が増加していった。「タイプRはガラパゴス化してやがて消えてなくなってしまうのではないか」との危機感が開発チームに強まった。

そこで、コンセプトを一新する決断を下す。17年発売の先代モデルでは、技術を駆使することで「スポーツカーとしての速さ楽しさはもちろん、だれもが安心して快適に走り続けられるという二軸を実現」(柿沼さん)させ、顧客の間口を広げた。

柿沼さんは新型車でも「タイプRとしての本質と、スポーツカーとして一番大事な官能性を究極にバランスして磨き上げようと思った」と話す。実現には「敵は己」とメンバーに発破を掛けた。

ドイツで「味付け」

柿沼さんの下で車の走り心地の開発を担ったのが、車両運動性能開発課の後藤有也さんだ。12年の入社以来、タイプRの開発に携わってきた。

理想の走行性能を出すために前提条件を細かく区切って、その都度、最適なエンジンの性能を見つけていった。エンジンの回転数やアクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)などの条件を変え、通常ではやらないレベルで合わせ込んだ。「乗るとすっと走り出すのは細かなセットアップをしているから」と後藤さんは解説する。

基本的なシミュレーションや計測は日本でできるが「タイプRとしての最後の『味』の部分は数字ではなかなか語れない」(後藤さん)。最後の磨き上げをするため、21年秋に激しい高低差などの過酷な条件からスポーツカーのテストコースとして知られる独ニュルブルクリンクのコースを訪れた。

新型コロナウイルスの感染拡大で渡航できる人数が通常の半分以下の中、限られた人数で3週間テスト車2台を朝から晩まで乗り回した。「滞在期間の最後にやっと、我々のつくりたい進化したタイプRの次元にたどり着いた」(柿沼さん)

模型製作し説得

走行性能を高めつつ、デザインの開発も進めた。担当したのが、本田技術研究所デザインセンターの原大さんだ。原さんは07年の入社以来、NSXなどスポーツカーの外観デザインを担当してきた。

新型タイプRをデザインするにあたって意識したのが、「街でも乗りたくなるような美しさやカッコよさ」の表現だと原さんは言う。従来は「シビック」というベース車に追加するようにデザインしていったため、ごつごつしたデザインや要素が多くなっていた。

それを乗り越えるため、タイヤが飛ばす泥や小石などから車体を守るフェンダーをタイプR専用にすることを思いついた。以前はシビックのフェンダーを加工してタイプRに使用していたが、最初からタイプR専用のフェンダーをつくることで、デザインの一体感を高め「流れるような美しさを表現できる」(原さん)と考えた。

ただ、専用品をつくればコストがかさむため、反対にあう可能性が高い。そこで、通常は絵でデザインを描く開発初期から、クレイモデル(粘土で作った模型)を製作。従来の手法でつくったタイプRと、フェンダーを専用にしたタイプRを上層部の出席する会議で提案した。絵よりも想像しやすくして、同意を取り付けた。

新型タイプRではソフト面にも工夫した。エンジンの水温や油温、ハンドルを回した角度やアクセルの開度などの情報をナビに表示する「LogR(ログアール)」だ。

自身の運転状況を数値で測ることができ、運転能力の向上に役立てられる。ただ、こうした情報は顧客が不安を抱く可能性があるため通常は開示しない。社内で承認を得るために「なぜ必要なのか説明してとにかく説得に回った」(ログアールの開発を担当した小山拓也さん)。

ホンダは40年までにガソリン車を廃止する方針を示している。タイプRの開発方針も変わる可能性がある。ただ、「タイプRは開発者もユーザーも熱い車」(柿沼さん)。24年からは国内レース「スーパーGT GT500」の参戦用としてタイプRベースの車両を投入する予定で、挑戦は続く。

(白井咲貴)

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