/

遺伝子解析ビジネス活況 米最大手に新興ライバル続々

CBINSIGHTS
遺伝子情報の読み取りコストが下がり、そうしたデータを解析して農業や病気の早期発見などへ応用する動きが活発になっている。関連スタートアップも相次ぎ誕生し、投資マネーをひきつけている。この分野の米最大手イルミナも影響を受けており、ビジネスの軸足を遺伝子情報の「読み取り」から「解析・応用」へ移しつつある。イルミナの各事業に絡める形で、競合スタートアップの動きをまとめた。

米遺伝子解析最大手のイルミナの遺伝子情報読み取り(シーケンシング)事業がリスクにさらされている。

同事業の製品は生体サンプルの抽出、前処理、塩基配列の読み取りによって遺伝子情報データを生成する。遺伝子情報読み取りコストが下がり続けているなか、イルミナはこうしたデータを生成する製品の販売にますます依存するようになっていた。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

ところが、ゲノム(全遺伝情報)と遺伝子について研究する「ゲノミクス(遺伝子科学)」の分野は変化しつつあり、データを「生成」する製品よりもデータを「解析」する製品の方が重視されるようになっている。ゲノム解析ソフトやツールを手掛けるスタートアップの勢いは急拡大しており、2021年のこの部門への投資額は過去最高の86億ドルに達した。

イルミナもこの動きについていくために戦略を転換しつつある。例えば、20年には血液や尿などを分析する「リキッドバイオプシー」を使ってがんを診断する米グレイル(GRAIL)と、ゲノム解析ソフトプラットフォームを運営するオランダのブルービー(BlueBee)を買収した。

今回の記事では、血液を分子レベルで分析してがんや病気を発見する「分子診断」から、農作物を対象にした遺伝子科学の「アグリゲノミクス」、性と生殖に関する健康「リプロダクティブヘルス」まで、スタートアップ各社がイルミナの事業をどのように切り崩しているかについて注目する。

カテゴリーの内訳

アグリゲノミクス

アグリゲノミクスは遺伝子情報読み取り技術を活用し、より健康で生産性の高い作物や家畜をつくり出すのが狙いだ。農家や畜産家、研究者は「DNAマーカー(目印)」を使って望ましい性質を強化したり、栽培情報を提供したり、よりスマートな交配の判断を下したりできる。

・米トレース・ジェノミクス(Trace Genomics)と米バイオーム・メーカーズ(Biome Makers)は遺伝子情報読み取り技術と人工知能(AI)を使って土壌の状態について洞察し、作物の質や収穫量、日持ちを改良する方法を編み出している。

・米アグバイオーム(AgBiome)は土壌の微生物を解析し、作物の健康や生産性を高める製品を開発している。微生物を環境サンプルから分離して全ゲノムを解読することで、食料生産に有用な性質を見つけることができる。

・米プラストミクス(Plastomics)は最近、シリーズAの資金調達ラウンドで710万ドルを調達した。調達資金を使って葉緑体の遺伝子を操作し、作物をさらに丈夫にする研究を進める。このアプローチにより、害虫に強く除草剤に耐性がある雑草などに悩まされている農家を支援できる。

分子診断

この分野のスタートアップは病気を早期発見するために新しいバイオ技術を活用している。例えば、破壊されたり死滅したりした細胞に由来する血中のDNA「セルフリーDNA(cfDNA)」を解析する。こうした技術は微生物感染症、新型コロナウイルスのスクリーニング検査、がんスクリーニング検査などに使われる。

・韓国のIMB Dxはがんを早期発見する血液のリキッドバイオプシー検査で2500万ドル以上を調達している。この検査では既存の治療法が使えない場合に、治療法や臨床試験(治験)の選択肢について臨床的アドバイスを提供する。

・微生物感染症とその最適な治療法の特定には何日もかかり、どちらも患者の命に関わる。米デイゼロ・ダイアグノスティクス(Day Zero Diagnostics)はゲノムの遺伝子情報読み取り技術と機械学習を組み合わせることで2日以内に病原菌を特定し、最適な治療法を見つけ出す。

・新型コロナのパンデミック(世界的大流行)により、ポイント・オブ・ケア(POC)診断(診療現場での即時診断)の導入が加速している。米マンモス・バイオサイエンシズ(Mammoth Biosciences)や米シャーロック・バイオサイエンシズ(Sherlock Biosciences)、中国の傑毅生物(MATRIDX)などの企業は狙った場所でDNAを切断する「クリスパー」技術を使い、新型コロナの感染の有無を数分以内に明らかにする。

遺伝子診断&検査

この分野のスタートアップは遺伝子診断サービスを使い、がんや心臓病など個人の病気の遺伝リスクを突き止める。米食品医薬品局(FDA)の規制強化の影響もあってダイレクト・ツー・コンシューマー(D2C)のゲノミクス市場は衰退しているため、この分野の企業は医療提供者との提携や、遺伝子データを臨床ケアに組み入れることに軸足を移している。

・米ピアリアンDX(PierianDX)と英コンジェニカ(Congenica)は、医療システムや医療センター、研究所が遺伝子データを解析し、解釈し、正確に報告できるツールを手掛ける。

・米カラー(Color)と米ジェノム・メディカル(Genome Medical)は医療提供者の依頼に応じたピンポイントの遺伝子検査を提供する。カラーは遺伝子診断をベースにした公衆衛生プラットフォームを運営している。ジェノム・メディカルでは遺伝子診断の結果に基づき、専門家からオンラインでアドバイスを受けられる。

・ナイジェリアの54ジーン(54gene)はアフリカ系の人を対象にした遺伝子情報プラットフォームとして事業を開始した。だが、最近のシリーズBラウンド(調達額2500万ドル)を機に、精密医療(遺伝子情報をもとにその患者に最適な治療を施す医療)の臨床的アドバイスを提供するバイオバンクに移行しつつある。

精密医療

この分野の企業は病気を治療するためにゲノミクスと分子生物学を活用している。処方薬の有効性や治療効果のモニタリングを改善するため、新しいバイオ技術や機械学習のアルゴリズム(計算手法)も利用している。

・米グリンプスバイオ(Glympse Bio)は患者の身体への負担が少ない病気モニタリング技術で9500万ドル以上を調達している。同社が開発した診断化合物は患者の体内で特定の病気の分子と結合し、尿を通じて体外に排出される。これを解析することにより、病気の進行や治療効果を判断する。

・カナダのRNAダイアグノスティクス(Rna Diagnostics)はがん専門医が化学療法の効果を測定し、次の段階の治療を判断するのを支援するRNA(リボ核酸)検査を手掛ける。

・米コーファクター・ジェノミクス(Cofactor Genomics)は人間の免疫システムをモデルにし、一人ひとりの患者に最適な治療を予測するRNAデータと機械学習を活用したプラットフォームで2650万ドルを調達している。

リプロダクティブヘルス

この分野のスタートアップは遺伝子情報読み取り技術を使い、リプロダクティブヘルスのあらゆる段階で医師や親の判断を導く情報を提供する。体外受精や、妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる新型出生前診断(NIPT)など様々な検査を手掛けている。

・米ビリオンツーワン(BillionToOne)は21年6月、シリーズBの資金調達ラウンドで5500万ドルを調達した。同社のNIPT技術を機械学習と高速大量に処理できる遺伝子情報読み取り技術と組み合わせ、血液検査から重い病気を発見する。

・米ジェノミック・プレディクション(Genomic Prediction)は分子のジェノタイピング(遺伝子型判定)により、着床前に体外受精の胚を検査する。正常な遺伝子の胚を特定することで、新生児の病気のリスクを減らし、健康状態を改善する。

・米ベビーズ(Baebies)は遺伝子情報を読み取らずに先天性の病気を見つける「新生児スクリーニング」をする検査法「バイオアッセイ」で9000万ドル以上を調達している。同社のプラットフォームでは血液中のマーカー(目印となる物質)に着目し、新生児の血液1滴から複数の病気を検査する。

シーケンシング&細胞解析

この分野の企業は次世代の遺伝子情報読み取り(シーケンシング)技術の開発に取り組んでいる。こうした手法はゲノミクスにとどまらずマルチオミクス(ゲノムやたんぱく質、RNAなど生体にある様々な物質を一括して解析する手法)に及んでおり、単一細胞(シングルセル)解析、全転写産物(トランスクリプトーム)解析、たんぱく質の構造解析などがある。

・中国の新格元生物科技(Singleron)はシングルセル・マルチオミクス解析プラットフォームで1億7500万ドルを調達している。同社は医薬品開発や研究、ゲノミクスの分野の顧客向けに分子診断製品や自動化機器を開発している。

・カナダのノミックバイオ(Nomic Bio)は高速かつ大量に処理できるプロテオミクス(たんぱく質の構造や機能について研究する分野)プラットフォームを開発している。同社はカナダのマギル大学から分離独立したスタートアップで、製薬会社や研究機関向けに高速で柔軟性の高いたんぱく質プロファイリングサービスを提供している。21年12月にはシリーズAのラウンドで米キャスディンキャピタル、米ラックスキャピタルなどから1700万ドルを調達した。

・中国の真邁生物(GeneMind)はPOC細胞解析装置「GenoCare」で1億5800万ドルを調達している。この技術は患者の血液と細胞組織のサンプルからDNAとRNAの分子情報を直接読み取り、精製プロセスを完全に排除する。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン