/

三菱電機の品質不正問題、調査報告書要旨

第1 調査委員会を設置した経緯

1、可児工場案件の発生

2021年4月26日、社内調査の過程で可児工場で製造する電磁開閉器の一部機種の部品について、米国の第三者認証機関に認証登録したものとは異なる樹脂材料が使用されている事実が発見された。三菱電機では16年、17年、18年と3度にわたり、グループ全体を対象に品質不正炙(あぶ)り出しのための点検を実施したが、可児工場案件の発覚を受け、(杉山武史)社長から「この機会を最後に徹底的に膿(うみ)を出さなければならない」との強い指示が出され、グループ全体の品質不正を徹底的に炙り出すための取り組みを開始することになった。

2、可児工場案件発生を受けた調査体制・調査手法

三菱電機と木目田裕弁護士らが協力して調査を行う体制をとることとなった。21年5月中旬には事実上活動を開始し、5月28日に正式なキックオフの会議を行っている。

3、長崎製作所案件の発生

21年6月14日、長崎製作所が製造する鉄道車両用空気調和装置について、顧客と合意した品質試験の一部を実施していない疑いのあることが発覚した。同製作所の従業員が、検査工程自動化の検討を行う過程で気付き、同製作所長に報告されるとともに、当日中に直ちに長崎製作所を所管する社会システム事業本部長に報告された。また、翌15日には社会システム事業本部長から(杉山)社長らにも報告された。三菱電機は6月23日に検査不正を認定した。

4、当委員会の設置 (略)

第2 具体的な調査内容

可児工場所属の全従業員232名に対するアンケート調査を実施した上、三菱電機の全従業員5万5302名に対するアンケート調査を実施した。品質に関わる問題の申告数は、延べ2305件に上る。

第3 調査の結果判明した事実の概要及び今後の調査方針等

1、可児工場で発見された品質不正

調査の結果、可児工場では合計6件の品質不正が発見されている。

(1)~(4)(略)

(5)役員等の認識・関与等

開発当時の工場長はこれらの製品における不整合を部下からの報告・相談を通じて認識していた。技術課、工作課及び品質保証課の歴代の各管理職も、認識の程度に差はあるものの、自ら関与、あるいは部下からの報告・相談を通じて、おおむねこれらの品質不正について認識していた。

2、長崎製作所で発見された品質不正

調査の結果、長崎製作所では合計12件の品質不正が発見されている。

(1) 車両用空調装置における顧客と合意した試験の未実施等

ア、商用試験について

①冷房能力試験及び冷房消費電力試験

品質管理課が開発性能試験のデータを用いて、冷房標準条件で試験を実施したかのように装った検査成績書を捏造(ねつぞう)し、顧客に提出していた。遅くとも1985 年には行われていた。90年ごろには作業負荷の軽減を目的に、品質管理課が乱数を用いて商用試験の検査成績書を自動生成するプログラムを作成し、以後、品質不正が発覚するまでプログラムの使用を続けていた。この不正が行われた期間中に製造された車両用空調装置は85年から2021年6月まで、記録で確認できる限り計93社の顧客に対し、計7万3986 台が出荷された。

②~⑤(略)

イ、開発性能試験について

①冷房能力試験

92年から21年6月までに、合計52社の顧客に対し、合計1万7121台が納入されているが、そのうちどの製品の定格冷房能力が100%未満であったかは特定できていない。

②~③

ウ、品質不正の公表等(略)

(2) 鉄道車両用空気圧縮機における試験結果の流用

06年から21年6月まで、計18社の顧客に対し計1002台が出荷されている。

(3) 品質不正が行われた主な原因・背景

長崎製作所と国内顧客の関係は歴史も長く、国内顧客は長年三菱電機の品質を信頼し、仕様で特定の性能を求めることはあっても、具体的な試験方法は三菱電機に任せることが多かった。従業員は、実質的に品質さえ良ければ問題ないとして、顧客の要求仕様との整合性にはあまり注意を向けなかった。

長崎製作所では日本産業規格(JIS)や顧客仕様に適合しない試験等が長年続いてきた。顧客の要求仕様への関心の薄さもあって、従業員の少なからぬ者が、顧客の要求仕様を正確に把握していなかった。従業員の間では、商用試験に時間を要すると生産出荷が遅延するという商用試験軽視の発想がまん延していた。

(4) 16年度から18年度に実施された点検時の対応

16、17年度点検の際、当時の設計課及び品質管理課の課長らは不正のうち、車両用空調装置及び車両用空気圧縮機の開発性能試験においてJIS規格及びJRIS規格と不整合があることを認識していたが、問題として取り上げなかった。長崎製作所から上記の報告を受けた社会システム事業本部の担当者らは、車両用空気圧縮機の試験データ流用については問題視する必要はないと考えた。

18年度点検の際、車両用空調装置の冷房能力試験の問題については、検査成績書の冷房能力等の記載が実測値でないことから改ざんではないかとの観点から、社会システム事業本部の担当者らと長崎製作所との間でヒアリングや追加質問等のやり取りが繰り返された。しかし、最終的に社会システム事業本部の担当者らは、同製作所の説明を受け入れ、不正ではないと結論づけた。同担当者から社会システム事業本部長(漆間啓現社長)に報告された。(漆間氏らは)不正とは認識していなかった。

長崎製作所で品質不正が内部通報されなかったが、同製作所の従業員はヒアリングに対し、「長く続く不正で、発覚すると大変な問題になるため、怖くて言えなかった」「下手につっこむと生産が成り立たないかもしれないため、具体的な内容は確認しなかった」と述べた。内部通報をすれば、会社が助けてくれるという感覚が乏しく、信頼感が醸成されていなかったことがうかがわれる。

(5) 役員等の認識・関与等

長崎製作所における品質不正の全てに関与していたのは、品質管理課で、開発性能試験の不正は、開発を担当する設計課も認識していた。他方、同製作所長並びに三菱電機の取締役及び執行役については、在任時期を問わず同製作所における品質不正に関与したり、その存在を認識していたとは認められない。

3、その他の製作所で発見された品質不正(略)

4、今後の調査方針等(略)

第4 長崎事案の公表経緯についての検討

1、問題の捉え方(略)

2、公表時期の検討

三菱電機が検査不正の端緒を得たのは6月14日で、不正の内容、顧客との合意に違反するかの確認や製品の特定に調査が必要だった。検査不正を認定したのは6月23 日で、特に遅かったとは認められない。23日に直ちに本件検査不正を公表しなかった理由は、顧客である鉄道車両メーカー等延べ106社への説明を優先したため。説明期間を想定して7月2日を公表予定日としたことは不合理ではない。公表時期が遅かったとは考えられない。

第5 原因背景等

1、直接的な原因

(1) 規定手続きで品質を証明する姿勢の欠如と「実質的に問題がなければよい」という正当化

従業員は口をそろえて、「品質に問題はなかった」と述べている。品質不正の直接の原因は、従業員の間に規定された手続きにより品質を証明するという姿勢が欠如し、「品質に実質的に問題がなければよい」という安易かつ誤った正当化が行われていた点にある。長崎製作所における「国内顧客は細かいことを言わないで任せてくれる。試験方法まで顧客と詰めなくてもよい」等という問題の直接の原因である。三菱電機において、「手続き」に着目した品質保証を強調するようになったのは、16~18年度の自主点検以降という比較的最近のことであり、いまだ現場の隅々に正しい考え方が浸透するには至っていなかった。

(2) 品質部門の脆弱性

品質部門は牽制(けんせい)機能を十分に果たすことができていなかった。品質部門が、製造部門と一体となって品質不正に関与・黙認している例もあった。品質部門は製造部門の傘下にあり、製造部門からの組織的な独立性が確保されておらず、ブレーキをかけることは決して容易でない。多くの従業員は同じ製作所、同じ工場で長年働いており、人間関係も限定的かつ濃密になりがちだ。全製作所に製造部と同格の組織として品質保証部が設置されたのは20年10月。長年品質保証体制の構築を各拠点に委ねていたことが、品質部門弱体化の背景の要因の一つであると思われる。

また品質部門の人材は、質も量も十分ではなく、製造部門に対する牽制を働かせるだけの力を持てていなかった。設計部門や製造部門の戦力を高めるための人材配置は積極的に行う一方で、品質部門を強化するための人材配置は後回しになる場合が多いという点である。

(3) ミドル・マネジメント(主に課長クラスなど)の脆弱性

本件品質不正では、製作所の課長クラスなどミドル・マネジメント層がその役割を果たしておらず、それが品質不正を発生させた。今般の調査で明らかとなったのは、三菱電機のミドル・マネジメント、特に現場に近い位置にある課長級の管理職が日々多忙を極めているという事実である。課長級管理職の多くはデスクワークに忙殺され、現場に足を運んでその実情を吸い上げ、現場と一緒に悩み、議論をし、問題を上長にエスカレーションするだけの強い意思や時間的余裕を持つことができていなかった。

(4) 本部・コーポレートと現場との距離・断絶

本部・コーポレートと現場との距離・断絶が、品質不正が発生し長期間温存された原因の1つとなった。16~18年度に実施された点検で品質不正のほとんどが発覚しなかった理由は、課長級をはじめ管理職が問題を報告しないとの決定をしたためだ。理由として、ヒアリングに対し「(本部・コーポレートに)報告したところで、『報告ありがとう。それではあなたたちで改善してね』と言われるだけなので、報告する意義がないと考えていた」などと述べている。是正が困難な問題であればあるほど、問題を本部・コーポレートから隠蔽するというインセンティブが生じることとなる。是正が現場に丸投げされる一方で、肝心の現場では問題を是正できないのであり、製造の再開は遠のくこととなる。

2、真因分析:組織論、風土論

(1) 拠点単位の組織構造―製作所・工場あって、会社なし

三菱電機においては、現場の多くの従業員が強く意識し、帰属意識を持っているのは、製作所や工場であり、三菱電機という会社そのものに対する帰属意識は希薄であった。小さな単位で閉鎖的な組織が形成されていることが、本部・コーポレートと現場の距離・断絶を生み、過去の点検活動で品質不正が炙り出されなかった原因ともなっている。事業本部をまたぐ人事異動は、まれにしか行われていない。多くの従業員は、最初に所属した製作所内、工場内で人事異動が行われる。従業員にとって、東京に本社を置く三菱電機という会社や事業本部は、抽象的な帰属対象にすぎない。

(2) 事業本部制について

各事業本部は、それぞれが独立した損益管理ユニットを構成するため、各事業本部の独立性は強い傾向にあり、「事業本部が異なると別の会社のようである」と述べる経営陣は少なくない。事業本部の独立性が、他で発生した問題を自らの問題として切迫感を持って受け止めることを難しくしている。従業員にとって、自分が担当する事業(製品)の損益が悪化することは、将来的に三菱電機が当該事業から撤退するおそれがあることを意味しており、個々の従業員の生活にも大きな影響を与える。そのため、事業(製品)の損益悪化を回避することは個々の従業員にとっても重要な意味を持つ。

(3)経営陣の本気度

(杉山)前社長をはじめとする三菱電機の経営陣は品質コンプライアンスを声高に叫ぶ一方、現場がその声に呼応するための環境を整えていたといえるのか、また経営陣の「本気度」は現場にどの程度伝わっていたのか、検討が必要だ。品質部門に対する質・量共に十分なリソースの投入という点で三菱電機の経営陣が本気で品質部門の強化を図っていたといえるのか、疑問が残る。他方、今般の調査がこれまでの調査と異なり、多数の品質不正を炙り出す結果となったのは、経営陣が本気で品質不正を根絶させようとしていること、会社が是正のための取り組みを全面的にバックアップすることが現場の従業員一人一人に伝わったからではないかと思われる。

第6 提言(略)

第7 三菱電機のガバナンスについて

品質不正事案や再発防止策の内容等は、取締役会に報告され、取締役会は執行役に対して意見や指示等を述べ、執行役は意見や指示等を踏まえて再発防止策を講じてきた。三菱電機のガバナンスはそれなりに機能していたと考えられ、取締役や執行役に内部統制システム構築義務違反等の善管注意義務違反があったともいえない。しかし、ガバナンスの観点から振り返ると、以下の重大な検討課題があると思われる。

1、取締役会における監督

取締役会として品質不正に共通する原因や、品質不正が炙り出されなかった原因について、更に深掘りをした議論を行うことが望ましかった。情報開示について、取締役会において審議・決定等していなかったこと自体に法令違反等の問題はないが、当該品質不正事案が決して軽微なものではなかったこと、株主総会が迫っていたこと等を踏まえると、より高度なガバナンスを発揮すべく、取締役会を臨時で開催する等し、執行役により詳細な事実関係や対応状況を報告させ、公表時期の適否等について議論しておく方がより適切だった。

2、執行役による業務執行

執行役会議での議論等は、事案の内容や原因等の事実関係の確認などが主であり、全社的な観点からの改善策等についての議論をするには至っていなかった。全社的な観点から、「三菱電機」の経営者として議論をし、その議論を踏まえて自らが所管する事業本部の運営を更に高度化させてしかるべきであった。

3、品質コンプライアンスの徹底(略)

第8 結語

多数の役職員が当委員会に対して、問題点の指摘、ガバナンス・企業風土・組織環境に対する意見を述べた。三菱電機のことを真摯に考え、声を上げる役職員が多数いることは最大の財産である。同時に、過去の点検活動や内部通報制度等で声を上げる従業員は限られていた。経営陣はこのことを重く受け止めて真摯に反省し、今度こそ、従業員が安心して声を上げることができる企業風土を構築するよう全力を尽くすべきである。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連企業・業界

企業:

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン