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人的資本開示で経営刷新

SmartTimes iU情報経営イノベーション専門職大学教授 久米信行氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Smart Times

私が現役経営者だったら身震いする構造変化が迫っている。それは人的資本開示の国際的な要求である。

先日の社会人基礎力協議会で、HRテクノロジーコンソーシアムの香川憲昭代表理事は「2022年は人への投資の開示元年」であり黒船到来の如きインパクトがあると強調した。

20年8月米国証券取引委員会は30年ぶりに人的資本の開示ルールを変更し、米国上場企業に詳細な人的資本情報の開示を強く求めた。ESG投資の重要性に気づいた機関投資家は、人への重点投資に注目する。

新しい資本主義を標榜する岸田首相も施政方針演説で「人への投資の抜本強化」を打ち出した。人的投資が企業の持続的な価値創造の基盤であり、株主と共通の理解を作っていくため今年中に非財務情報の開示ルールを策定すると明言した。

これから日本でも上場企業は人的資本の開示が必要とされ、投資家に吟味されるようになる。人への投資の企業間比較が容易になり、投資基準の一つとして株価を左右するのだ。

香川氏は、日本企業が国際的な人的資本投資の平均値に到達するためには、今の3倍もの「人への投資」が必要だと警鐘を鳴らす。

長引くデフレで人への投資を怠る企業も多い。かつては終身雇用と年功序列を基本に、入社から幹部研修まで長期視点で人を育てる企業も多かった。だが雇用の流動化を逆手に取り、他社が育てた有能人材の中途採用、派遣社員やパートの活用、海外へのアウトソーシング、短期収益指向の人事戦略がはびこっている。

しかし人的資本の開示が義務となる新時代には、人件費削減のみの帳尻合わせ経営は許されなくなろう。

人への投資に熱心な企業に注目するのは投資家だけではない。働き方改革にテレワークや働き手のプロ化が重なり、有能な人財ほど企業を選ぶ時代になる。

私は3つの大学で教えているが企業選びの助言を求められたら、目先の人気や給与・処遇に目移りせずに、人への投資に熱心な企業を選べと勧めるだろう。

eラーニングと現場の職場内訓練(OJT)を有機的に組み合わせ、AIも活用し、オーダーメードで生涯のキャリアアップを支援してくれる。そんな人事研修体系が望ましい。生涯の学びとスキル習得を可視化するオープンバッジのような世界共通の基準で評価される時代になろう。

学びと成果に応じて、社外の労働市場で提供されるよりも魅力的な社内の仕事に挑戦させてもらいたい。実績を上げたら納得できる処遇をしてほしい。

これからは、有能な人財ほど、お金や地位以外の報酬を求めよう。SDGsも踏まえて社会的に意義ある仕事を、望むやり方で創造的にできる。しかも八方良しで感謝される現場と学びの好機を提供してくれる。そんな企業があれば、私自身も再就職してみたい。

[日経産業新聞2022年6月9日付]

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