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ポルシェ開発トップ「エンジンも水素ガソリンで脱炭素」

日経ビジネス電子版

世界の自動車業界を揺さぶる米テスラが意識しているのが、独高級車メーカーのポルシェだ。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、6月に電気自動車(EV)「モデルS」の上位機種を発表した際に、「どんなポルシェよりも速い」とツイッターに投稿した。ポルシェは販売台数は少ないものの、フォルクスワーゲン(VW)グループのブランド別の稼ぎ頭であり、テスラはその優良顧客の切り崩しを図っている側面がある。

対するポルシェも手をこまぬいてはいない。2020年に初のEV「タイカン」を発売し、EVシフトを加速している。21年1~6月期のタイカンの世界販売台数は、前年同期比4.4倍となる1万9822台だった。これは独アウディのEV「eトロン」に迫る台数だ。

ただし、ポルシェには「911」などガソリン車に対するファンが多い。ポルシェは既存のファンを守りつつ、どのように新ジャンルのEVを開発し、新たな顧客を獲得していくのか。同社の隠し玉ともいえる水素を利用した合成燃料の開発の狙いは何か。同社のミヒャエル・シュタイナー研究開発担当取締役に話を聞いた。

――EV「タイカン」の販売が伸びています。EVを開発した狙いは何でしょうか。

「タイカンの主な目標は、ポルシェでもEVが作れることを証明し、真にサラブレッドなEVを生み出すことでした。市場と顧客が支持し受け入れてくれたモデルだと感じています。当初は顧客も警戒していたかもしれませんが、もうそうではなくなりました」

――ポルシェを代表するスポーツカー「911」とタイカンは、いずれも1000万円を超える高級車で、モデルごとの価格帯は近くなっています。EVは電池コストが高いので、ガソリン車のように利益を出すのは難しそうです。EVが従来の車と同じ程度の利益を得るには、どのくらいの時間がかかりますか。

「どの製品も利益を得られるものでなければなりません。それは必須です。正確な数字は申し上げられませんが、タイカンではすでに利益を出しています。一方で、大まかに言えば、現時点ではほとんどのエンジン車の利幅は、まだEVより大きい状況です。ただ、この10年でその状況は変わります」

「10年以内に電池単体であるセルのコストが下がり、利益率には変化が出てくると確信しています。欧州連合(EU)の新しい燃費規制とユーロ7(排ガス規制)の導入を待ち遠しく感じています。この規制により、燃焼エンジンは(規制対応が必要になり)さらに高価になりますから」

「プラグインハイブリッド車(PHV)は、燃焼エンジンに加えて電池が必要ですが、EV用の電池より小さくて済みます。ただ、そうした車でもエンジンから様々な種類のガスを排出します。EVの利益率がPHVと同じぐらいになるかは、排ガス規制に左右されるでしょう。将来的にPHVの利益率がエンジン車と五分五分になることも、少なくとも私たちが考える限りでは、10年以内に起きると思います」

――EVのコストが下がるまで、EVの販売が伸びるほど利益率が低くなる可能性があります。ポルシェを含むVWグループは、こうしたジレンマを抱えていると思います。

「移行期間では利益率はまだエンジン車の方が勝っています。EVの生産量が上がり、エンジン車の生産量が減れば、それは変わるでしょう」

「誰も確かなことは分かりません。ただ、これが我々の理解であり、ここから目標を導きだしています。さらに、これは利益だけでなく、サステナビリティーの問題でもあります。ポルシェは(地球温暖化対策の国際枠組みの)パリ協定に大変真剣に取り組んでいます。私たちの目標は、さらにそれを超え、2020年代の終わりまでにカーボンニュートラルを達成することです」

「2030年には、ポルシェのすべての製品はカーボンニュートラルになっているでしょう。また、生産工程やバリューチェーンにおいてもカーボンニュートラルとなるように働きかけています」

全固体電池より次世代のリチウムイオン電池

――多目的スポーツ車(SUV)「マカン」のEVモデルを発表しました。マカンは、タイカンと比べて電池パフォーマンスの面でどのような進化を遂げていますか。

「主に注力しているのは、効率の向上です。電池パックはサイズを大きくしすぎると重量も増えるため、大きくしすぎないようにします。重さのあるスポーツカーなど、求められていませんからね」

「目標は、効率性を高め、より短い充電時間でより速く走れるようにすることです。そしてもし可能なら、電池の重さも減らします。タイカンのように、EVのマカンもポルシェの通常の電動パフォーマンスを備えます。マカンはコンパクトSUVとしては最高クラスの運転パフォーマンスを発揮します。超高速充電のほか、さらにカスタマーフレンドリーな充電機能とサービスを加えていきます」

――どのように電池を軽くするのですか。

「電池の重量に関する問題は、常にセルから始まります。体積エネルギー密度だけでなく、質量エネルギー密度にも注目する必要があります。セルとモジュールを電池パック全体、そして車にどのように入れ込むか。そうした搭載方法において、さらに効率よく、軽量構造にできる余地はまだ多くあります。そして、より統合された液体冷却システムを作ることでも、重さをいくらか減らすことができるでしょう。これらが、重量を減らすための主な方法となります」

――数千万ユーロ(数十億円)を投資し、独自の電池セル工場を建設すると発表しました。どのような狙いがあるのでしょうか。

「最初は開発に資金のほとんどを費やしており、小規模な生産のみが計画されていました。主に注力していたのはレース用の高いパフォーマンス性で、それらはEV関連製品に利用しうるものでもありました。それが小さな出発点でした」

「これが成功すれば生産規模を増やす可能性はあるでしょう。ただ初めは、他社と比べると小規模な工場となります。生産規模は年100メガワット時で、20~40ギガワット時の工場のような大規模なものではありません。ただ、重要なのは、私たちはシステムや超高速充電、エネルギー密度、容積、セル能力においてアドバンテージのあるセル技術を求めているということです」

「高温ではリチウムイオン電池が稼働しにくいのですが、高い温度でも速い運転や高速充電を実現する技術を追求しています。70度よりもずっと高い温度でも働くようなセルを開発しています」

「こうしたことが主な動機です。現時点ではそうしたセルを大企業から買うことはできません。大企業が力を入れているのは、大量生産のためのセル技術向上ですから。ポルシェは、パフォーマンス向上に役立つ特殊な電池技術に力を入れています」

――次世代電池として期待の高まる全固体電池にも関心はありますか。

「全固体電池も大変興味深い分野ではありますね。VWグループは米クアンタムスケープとの研究開発に多大な投資を行っており、ポルシェはそれをよく把握しています。生産が可能になれば、スーパースポーツカーにとって大変役立つものとなるでしょう。ただ、私たちは新世代のリチウムイオン電池に着目しています」

スポーツカーには特殊な電池が必要

――一方で、電池のコストが気になります。内訳を教えてもらえますか。どのようにコストを低減していきますか。

「セル生産のコストに関しては、私はお答えできる立場ではありません。コストに関してはVWが注力していることですから、そちらに聞くのが適切でしょう」

「ポルシェの目標は、電池セルの1キロワット時当たりの最低コストを目指すことではなく、既存のセル技術に勝るパフォーマンスを開発することです。これは小規模であり、また費用対効果が最も高いセルの設計法ではありません」

「ポルシェのスポーツカーには特別な電池を必要とします。ただ、これは主流なものではありません。主流の技術はVWが扱います。ポルシェはハイエンドパフォーマンスを追求します。コストの点ではベストとは言い難いかもしれませんが、パフォーマンスの点では一流です」

――EV開発において、ポルシェはVWグループとどのように連携していますか。EVを開発するにあたりVWやアウディと以前より近い関係を築いているのでしょうか。

「もともと姉妹ブランドとは、とても良い関係を築いていました。VWとアウディとは、特にSUV分野に関して10年以上大変良い提携ができています」

「そして現在、EV開発においては、プラットホームを共同開発するアウディと特に親密な関係を築いています。アウディの研究開発部と協力しており、次世代(のプラットホーム)はこの提携による成果物となります。私たちはこの共同開発によって多くの相乗効果を得ており、良い成果を生んでいます。また、ノウハウや人的リソースも共有しており、これも開発の助けとなっています」

「一方で、ブランドコンセプトによってそれぞれの違いを保つのも、以前と変わらず重要なことです。当然のことですが、ポルシェの車はその外観から常にポルシェだと分かるものでなければなりません。それでいて、さらに現代的で優れた運転の性能や感触、反応も備えていることが必要です」

「EVの分野では、シャシー性能だけでなく、運転のパフォーマンス、電気モーター、超高速充電が重要になります。充電においてでさえも新たな分野があるのです。ただ、運転の面で重要なのは重心や重量、ターゲットパワーなどです。つまり、新しい要素はありませんが、新しい技術を用いて差をつけなければなりません」

――ポルシェはエンジン開発に対し、どのようなスタンスですか。

「私たちは、現在のものよりもずっと良いエンジンを開発しようとしています。ただし、開発で主に力を入れているのは、電動車です。開発センターでは、主力となる上級職たちは電動車事業を手掛けています。とはいえ、ハイブリッドモデルやエンジン車をさらに向上させるための経験豊富なエンジニアも在籍しています」

開発中の再生燃料は1リットル当たり2ドルを目指す

――ポルシェは水素と二酸化炭素(CO2)を化学的に合成した燃料(eフューエル)を開発しています。これは水素ガソリンとも呼ばれています。どのように実用化し、活用していくのでしょうか。

「eフューエルの先駆け的な燃料を、自動車レースですでに活用しています。提携先の米エクソンモービルによる再利用可能なレース用燃料を使い始めました。バイオ廃棄物を原材料とした再生燃料です」

「eフューエルは水素から合成します。南米のパタゴニアで再生可能エネルギーを用いて水素を生産し、21年中には革新的な燃料を生み出せるはずです。パイロットプラントで製造する最初の燃料は、22年の自動車レースで使用される予定です」

「生産規模も拡大する計画を立てています。エンジン車でも大幅にCO2排出量を減らす方法があることを示すのが、主な理由です。適切な燃料を使えば、CO2排出をゼロに近づけられます。つまり、CO2排出の問題の本質は、エンジンそのものではなく、エンジンに使う燃料なのです。eフューエルによって、エンジン車も環境に優しい製品になりうるのだということを示したいのです」

――eフューエルのコストはどのように削減していきますか。

「長期的な目標は生産規模を拡大し、1リットル当たり2ドル程度までにコストを削減することです。これが目標です。初めは、コストはかなり高くなりますが、生産規模を増やせば1リットル当たり2ドル前後になるでしょう」

――eフューエルは、排ガスにどのような影響を与えますか。

「現在の化石燃料と比べ、排出ガスの量において大きな違いはありません。主な違いは、CO2の排出量にあります。粒子やその他の排出物においてはeフューエルに何らかの利点があるかもしれませんが、大幅な違いはないのです。燃焼室で燃やされますからね。eフューエルも化石燃料と同程度の排ガス処理が必要になると考えています」

――エンジンの愛好者が多いポルシェにとって、eフューエルは重要なものになりそうですね。

「ええ、私たちにとっても、ポルシェ製品のオーナーにとっても重要です。ポルシェを代表する911シリーズでは、現役で使われている車がたくさんあります。911シリーズのオーナーが、今の車を使い続けながらカーボンニュートラルに近づけるようにするのも計画の一つです。新しい燃焼エンジンを搭載する車、既存の車、どちらであってもポルシェファンには重要な燃料です」

――テスラがEV「モデルS」の性能を高め、マスクCEOはツイッターで「ポルシェより速い」と発言しています。ポルシェにとってテスラはどのような存在ですか。

「競合がいるのはよいことです。テスラのことは好きですし、その技術向上を推し進める方法からは、インスピレーションをもらえます。どうなるかは分かりませんが、私たちは自分たちができることに集中していきます。ただ、電動化に向かって、パフォーマンス向上を目指す競合は、すべて歓迎します」

――テスラはEVのみに集中しています。ボルボやその他のメーカーなども、開発リソースをEVに集中しつつあります。エンジン開発を維持するのは開発リソースが分散し、弱みになりかねません。それについてはどう思いますか。

「まず、経験豊かなエンジニアを多く抱える開発センターを率いる立場として、そこに弱みがあるとは考えていません。私たちは約10年前に、電動車にシフトするための能力やキャパシティーを開発し始めました」

「一例として、完全電動のフロントアクスルやハイブリッドスーパースポーツカーの918があります。その時点で、ポルシェには高電圧を活用する技術がありました。そしてEVのプロトタイプを作りました」

「過去10年で、ポルシェは自社のリソースを一歩ずつ電動車の方向に変えてきたのです。また、従業員の技術向上計画も大規模に実施しました。自社従業員を活用するための大規模プロジェクトで、多くのエンジニアを大学のオリジナルプログラムに参加させました。また、インターン開発プログラムや現場研修を実施したほか、外部からも専門家を雇用しました」

「電動車の主な開発者は、従来のエンジン車の開発部門出身の優秀なエンジニアたちです。時間はかかりますが、これは大変うまくいっています。最低でも10年前に始めなければなりませんでしたが、ポルシェの従業員と共にこの変化を先取りしてきたことを誇りに思っています」

(日経BPロンドン支局長 大西孝弘)

[日経ビジネス電子版 2021年9月1日の記事を再構成]

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