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「植物肉」がぐっと身近に 日本発スタートアップ躍動

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ネクストミーツ(東京・新宿)は焼き肉用の植物肉を外食チェーン「焼肉ライク」などに提供。食品スーパーにも並び始めた
日経ビジネス電子版

食品スーパー、飲食店、冷凍食品……。大豆などを活用した「植物肉」の流通が急速に広がっている。背後にいるのは、急成長中の植物肉スタートアップ。資金調達が進み、世界を目指す有望株が現れた。米国のビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズなど、先行する海外勢との差を埋められるか。

精肉コーナーにずらりと並んだ「ミンチ肉」。よく見ると、肉のようで、肉ではない。商品名は「大豆からつくったミンチ」。正体は、大豆由来の植物肉だ。

2021年3月、イオンが1都3県の一部店舗で販売を開始。4月にはライフコーポレーションも「発芽豆からつくったおにく」シリーズと銘打ち、首都圏のライフ全店舗で、春巻き、ギョーザ、メンチカツなどを発売した。焼くだけ、揚げるだけでおかずになる。

両社には共通点がある。DAIZ(ダイズ、熊本市)という植物肉スタートアップが開発した「ミラクルミート」を使っているのだ。ミラクルというだけあって、さまざまな「肉」に化ける魔法の食材。フレッシュネスバーガーは、ミラクルミートで大豆パテを作り、低糖質バンズで挟んだ「THE GOOD BURGER(ザ・グッドバーガー)」を20年9月に発売。ニチレイフーズは21年3月、冷凍食品「大豆ミートのハンバーグ」を商品化した。

ダイズは、ニチレイフーズや味の素丸紅ENEOSホールディングスなどから総額30億円を超える資金調達に成功している。なぜか。技術力と将来性が買われているからだ。

DAIZ(ダイズ、熊本市)は、30億円超の資金調達に成功した

国連の推計によると、世界の人口は50年にも100億人近くに達する見通し。人口拡大に伴って食糧危機は深刻になる。牛肉や豚肉、鶏肉に代わる第4のたんぱく源として期待されているのが、大豆などから作った植物肉だ。しかし、普及に向けては課題も多かった。

従来の植物肉は脱脂大豆、つまり油を搾った後の残りかすを原料にしてきた。そのため大豆特有の青臭さや油臭さが消えず、味や食感も肉そのものとは言い難かった。栄養価も肉と比べて見劣りしていた。ダイズは、独自の製法で、これらの問題点を解消した。

画期的なのは、搾りかすではなく、大豆を丸ごと使うというアプローチにある。しかもただの大豆ではない。佐賀大学との共同研究で生まれた「高オレイン酸大豆」だ。大豆特有の臭みをなくしたこの大豆をタンクに入れて発芽させ、さらに発芽した大豆を「エクストルーダー」という押し出し成型機にかけて練り込む。こうすることで、肉の筋繊維を忠実に再現するのだ。

ダイズ「ミラクルミート」の製造工程

ポイントは、大豆を発芽させるという工程にある。タンク内で酸素、二酸化炭素、温度、水分という4つのパラメーター(変数)を調整することで大豆にストレスをかけるのだ。

例えば、酸素濃度を大気中の21%から4%まで下げ、二酸化炭素濃度は0.03%から12%まで上げることで大豆の代謝を促進させ、うまみのもとであるグルタミン酸を引き出す。ダイズ最高技術責任者(CTO)・研究開発部長の落合孝次氏が見いだしたこの栽培法は「落合式ハイプレッシャー法」として特許技術になっている。

落合氏によると、4つのパラメーターの組み合わせは計5000通り。そのすべてをデータベース化し、発芽条件を微妙に変えることで味が変わることを突き止めた。「タンク内の温度を28度ぐらいに設定すると鶏肉の味に、34度ぐらいだと牛肉の味になる」(落合氏)という。芽を出すことで大豆は穀物から植物になり、アミノ酸やビタミン、ミネラルが急激に増加する。栄養価も高まるというわけだ。

食感を肉に近づけるために通過させるのがエクストルーダーだ。発芽した大豆を投入し、2本のスクリューを使って高温高圧でぎゅっと押していく。「温度や圧力を変えることで、スルメ並みの堅い食感から、ポップコーンぐらい柔らかい食感まで再現できる」(落合氏)という。こうしてできた「ミラクルミート」は水で戻せば大きく膨らみ、ハンバーグやギョーザ、メンチカツなど、さまざまな肉料理の材料になる。

ミラクルミートはさまざまな肉料理の材料として使われる

ダイズがミラクルミート事業を本格的に始めたのは19年12月。1年半ほど前にすぎないが、落合氏はミラクルミートのベースとなる大豆の発芽の研究に30年もの期間を費やした。高オレイン酸大豆の品種登録にも8年をかけ、発芽した大豆の味や香り、においなど、700成分ものビッグデータを集めて分析してきた。

「うまみを調整できるようになったのはつい最近。なかなかうまくいかず、発芽条件をコントロールするなんてとんでもなかった」(落合氏)。地道な研究がようやく花開いたのだ。

「植物ツナ」の開発にも成功

試行錯誤の末、植物肉ならぬ「植物ツナ」まで生み出した。発芽大豆に、エンドウ豆を混ぜてエクストルーダーにかけると、チキンのように縦に繊維ができ、細かくほぐすと、ツナフレークさながらの見た目、食感になった。

21年6月に、熊本県益城町の工場が増床し稼働する。エクストルーダーは4台に増え、ミラクルミートの生産能力は年間4000トンと現在の4倍に高まる見通しだ。工場は開発センターとしても運用し、植物性の卵や乳製品、魚のえさなどの研究も同時に進める。

「世界に通用する商品を生み出すため資金調達をさらに進め、油脂会社や穀物会社、香料会社とも組み、オールジャパンで取り組みたい」。こう語る落合氏は北米や東南アジア、中国での事業展開も視野に入れる。

米国ではビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズなど有力スタートアップが覇を競うが、「植物肉は肉市場全体の3%にすぎない。(発芽大豆を丸ごと使う)ホールフーズという考え方でおいしい植物肉を流通に乗せられればチャンスはある」(落合氏)とみる。

カルビやハラミも植物肉に

米国で21年1月に上場を果たしたのは、ネクストミーツ(東京・新宿)だ。特別買収目的会社(SPAC)を利用し、新興市場「OTCブリティンボード」に株式を公開した。

20年6月の法人化からまだ1年。100回以上の試作を経て誕生したという焼き肉用の植物肉「NEXTカルビ」「NEXTハラミ」は、一般的な焼き肉と比べて脂質が半分以下、タンパク質は約2倍。外食チェーン「焼肉ライク」を皮切りに、21年4月にはイトーヨーカドー約100店舗に取り扱いが広がった。

この他、牛丼やハンバーガー、フライドチキンなど、素材ではなくメニューの形に落とし込むことを心掛けている。

ネクストミーツの主な商品

何よりも重視しているのはスピード感だ。「(新商品は)60%ぐらいの完成度で出し、あとは市場を使いながらPDCAを回してアップデートしていく」と、代表取締役の佐々木英之氏は語る。ブランド化を意識して商品名は「NEXT〇〇」で統一。原料はメニューによって異なり、NEXTカルビやNEXTハラミは大豆だが、NEXTバーガーはエンドウ豆と大豆のタンパク質を組み合わせた。

発売後も味や食感を改善し、進化した商品は「NEXTカルビ1.1」「NEXT牛丼1.2」といった具合に、末尾の数字を大きくしていく。ソフトウエアを更新するような感覚で開発を進めている。

狙うは世界同時展開だ。そのために米国での上場を急いだ。「サステナビリティーファーストを掲げる以上、日本の環境だけが良くなればいいという問題ではない。世界で事業を展開するには、米国の資本主義をフル活用したほうがいい。資金調達額も日本とは1桁、2桁違う」(佐々木氏)

国内外での流通を見据え、豊田通商と戦略的パートナーシップを結び、20年末にはベトナムで生産ラインを稼働させた。米国や中国でも工場開設を計画している。

商品開発の黒子として存在感を発揮するダイズと、自社でブランド化を進めるネクストミーツ。方向性は違うが、タンパク質危機を食い止めたいという思いは同じだ。

外勢が先行する中、日本から植物肉ユニコーン企業は巣立ち、羽ばたくか。

(日経ビジネス 酒井大輔)

[日経ビジネス 2021年5月31日号の記事を再構成]

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