増える生体認証 「リスク理解していない」は半数に
大河原克行のデータで見るファクト

デジタル機器の普及に合わせて、本人認証は当たり前のことになった。そうした中、パスワードによる認証に替わって、顔や指紋などによる生体認証を利用するシーンが増えている。
顔認証や指紋認証でスマートフォンのロックを解除するのは日常の行為。Windowsパソコンでも起動時に「Windows Hello」による顔認証や指紋認証を採用する機種が増えている。
金融機関のATMでも手指や手のひらの静脈認証はかなり普及した。新型コロナウイルス禍で使用機会は減っているが、空港における出入国時の手続きでは顔認証ゲートが一般的に使われている。
コロナ禍で非接触で本人認証を行いたいといったニーズが増えていることも生体認証が注目を集める要因の一つになっている。東京ドームでは2022年3月からパナソニックの顔認証技術を採用。事前に登録した顔画像で入場や決済ができるサービスを順次始めるという。

では、どれぐらいの人が生体認証を利用しているのだろうか。
日立製作所が21年12月、全国の10~70代の男女1500人を対象に実施した意識調査によると、25.5%の人が生体認証を利用していることがわかった。年代別に見ると若年層の利用が多い。10代は48.8%と半数近くに達し、20代でも34.9%と3分の1強が生体認証を利用していた。
スマホが生体認証利用の入り口となっていることも浮き彫りになった。生体認証を利用している人のうち73.0%がスマホのロック解除の操作をきっかけに生体認証を利用し始めた。現在、生体認証を利用していない人の35.4%もスマホのロック解除に生体認証を利用したいと回答している。
今後、生体認証を利用したいシーンとしては、金融機関の本人確認や銀行窓口、ネット上でのカード利用やその他の決済時、パソコン端末などへのログインが上位に挙がった。
生体認証は、本人確認を手軽に行え、しかも高い精度での認証を実現できる。数秒でチェックできるので利便性も高められる。
顔認証技術に強みを持つNECは21年の東京五輪・パラリンピックや19年のラグビー・ワールドカップ日本大会で、選手・大会関係者やメディア関係者が通過する入場ゲートにセキュリティーチェックのための顔認証システムを導入した。従来大会のバーコードなどによる管理に比べると2.5倍の速さで認証しゲートの混雑を低減した上に、IDカードの貸し借り・盗難による「なりすまし入場」や、IDカード偽装による「不正入場」を防止できたという。

パスワードが覚えられない
日立の前出の調査では、ウェブサイトや実店舗で本人確認を求められた際に57.3%の人が困った経験があるという。困りごとの1位はパスワードなどの「ログイン情報を忘れる」という回答が36.2%、「ログイン情報を何度も誤り、ロックがかかる」が20.1%。「本人情報を入力するのに時間がかかる」が15.5%でこれに続く。

パスワード使い回しの危険性を考えて複数ログイン情報の使い分けが一般的になっているが、ログイン情報を正しく覚えられない人も増えている。日立によると、ログイン情報で困った経験がある人の65.3%は、この課題が解消するのなら生体認証を利用したいと回答している。
一方、生体認証に関しては、嫌悪感を示す層が一定数いる。「生体情報を悪用される不安」「プライバシー問題に発展する不安」「生体情報の誤認証により本人が認証されない不安」などを問題視する意見もある。だが、今回の調査では、「生体認証の利用に不安を感じたことがない」という人の割合が実に73.3%に達した。
ところが、そのうち2人に1人が「生体認証のリスクについて理解をしていない」と回答している。日立は「生体情報は取り換えられない個人情報であるため、万が一データが漏えいした場合、重大なリスクに発展する恐れがある。生体認証の利用に不安を感じていない人の半数はそうしたリスクを正しく理解していないことが明らかとなった」と分析。「生体情報を安全に管理するという課題を解消する手段を持つことが、生体認証のさらなる利用、普及において重要であることを認識した」としている。
日立は生体情報を復元困難な形に暗号化してクラウド上で一元管理し、認証などができる独自技術の「公開型生体認証基盤(PBI)」により、生体情報の悪用を不可能とする仕組みを開発している。NECの顔認証システムも、ゲートに設置した顔認証装置には画像が蓄積されないという仕組みになっている。
だが、生体認証が増加すれば様々な企業から様々な機器が登場するだろう。本格普及を前に生体認証のリスクを改めて考える必要がある。日立の調査でも「生体認証を利用する上で求めること」として、82.7%が「安全性」と回答した。

ジャーナリスト。30年以上にわたって、IT・家電、エレクトロニクス業界を取材。ウェブ媒体やビジネス誌などで数多くの連載を持つほか、電機業界に関する著書も多数ある。
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