/

JALはシアトル経由パリ便も 脱ロシアで揺らぐ供給網

日経ビジネス電子版
ウクライナ情勢が混迷を深める中、国際物流網が大きく乱れている。アジアと欧州を結ぶ航空の運航便数が大きく減り、需給が逼迫。新型コロナウイルス禍を発端とした物流網の混乱に拍車がかかっている。アジアを中心に世界に供給網を広げる製造業やそれを支える物流事業者は苦悩が絶えない。製造業による生産体制の見直しにつながる可能性もある。

日本を含む東アジアは国際物流の要所だ。国際貨物取扱量の上位には東アジアの空港が並ぶ。ルート別の輸送規模を見ると、極東地域と欧米の間を行き交う貨物が圧倒的に多い。「世界の工場」アジアと欧米の市場を結ぶハブとして、東アジアの空港は機能している。

物流網はこの2年、コロナ禍を発端に混乱を続けた。主要な輸送手段である海運は欧米での巣ごもり需要の高まりや港湾などでの人手不足、それに伴う船舶の滞留やコンテナ不足などによって需給がタイトになっている。

サプライチェーン維持のため、コスト増を覚悟の上で高速輸送を実現する航空に貨物が流れ、やはり需給がひっ迫。こうした一連の混乱にウクライナ危機が追い打ちをかける。「運賃の高騰もそうだが、何よりスペースの確保が難題だ」。日欧間の航空貨物輸送に携わる関係者は頭を抱える。

日欧間の航空貨物、迂回で到着遅く

東アジアと欧米を最短距離で結ぶならロシア領空を避けては通れない。だがウクライナ危機を受けて、欧州各国とロシアは互いに領空飛行を禁止。日韓の航空会社もロシア領空を避けて運航している。

航空会社によって、ロシアの南に迂回するルート(南回り)とアラスカなどを通過するルート(北回り)のどちらを選択するか、その判断は分かれている。いずれにせよ、飛行距離や所要時間は延びる。

北回りを選ぶ日本航空(JAL)は現在、成田―パリ線の貨物便を米シアトル経由で運航している。途中で給油して燃料の搭載量を抑え、少しでも多くの貨物容量を確保するためだ。その分、所要時間は片道8~11時間ほど増えている。

南回りを選ぶ全日本空輸(ANA)もJALと同様の理由で羽田―フランクフルト線の一部便がウィーンを経由する。運航距離が延びれば燃油コストは膨らみ、所要時間が増えると人繰りや航空機稼働の効率が下がる。結果、日欧間の便数は侵攻後3週間で半減。需給の逼迫によって貨物運賃は高騰している。

「(ウクライナ危機の影響を受けにくい)香港や中東ドバイを経由して貨物を運ぶ動きが出てくる」と見るのは日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の池上寛氏だ。貨物スペースの奪い合いは広範囲に波及する可能性がある。

今後の利用促進が期待されていた輸送ルートにも影を落とす。

「荷主は利用を避けるだろう」。京都大学経営管理大学院の宮島正悟特定教授が指摘するのはシベリア鉄道を使った国際貨物輸送ルートだ。

第2次安倍晋三政権以降、ロシアとの経済協力の一環で検討が進んだのがシベリア鉄道の活用だった。国土交通省は2018年から本格的に利用促進に取り組んできた。ただロシアが日本を「非友好国」と指定した今、「日本の貨物がどう扱われるのか、という不安は拭えない」(宮島氏)。

海運業界ではロシア北岸を通る北極海航路の利用拡大への期待も高まっていた。ただ、北極海を通るには砕氷船による航路確保などでロシアの協力が欠かせない。ウクライナ侵攻はこうした可能性を吹き飛ばした。

生産拠点の国内回帰進むか

結果として、航空や鉄道、海運の大動脈であるスエズ運河経由の南回り航路の代替といえる北極海航路、その全てが使いにくくなった。かねて需給が逼迫し、運賃も高騰している既存ルートの海運以外の選択肢が見当たらない。

コロナ禍から続く一連の物流網の混乱を収束させるには、やはり最大の輸送手段である海運を正常化させるしかない。ただ混乱の根本原因にはアジアと欧米の間にある貿易不均衡、すなわちアジアから欧米に向かう貨物量がその逆に比べ圧倒的に多い状況がある。この課題の解消は一筋縄ではいかない。

アジアが世界の工場となったゆえんは、安価な労働力が存在したこととともに、サプライチェーンの広域化を実現する海上輸送コストの低減があった。その前提が崩れ、急速な円安も進行する今、「生産拠点の国内回帰が一定程度進むのではないか」と宮島氏はみる。製造業のグローバル化は大きな曲がり角に差し掛かっている。

(日経ビジネス 高尾泰朗)

[日経ビジネス電子版 2022年3月31日の記事を再構成]

日経ビジネス電子版セット

週刊経済誌「日経ビジネス」の記事がスマートフォン、タブレット、パソコンで利用できます。「日経ビジネス電子版」のオリジナルコンテンツもお読みいただけます。日経電子版とセットで月額650円OFFです。

お申し込みはこちらhttps://www.nikkei.com/promotion/collaboration/nbd1405/

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経ビジネス

企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

企業:
業界:

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン