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日産など3社連合もEVシフト加速 原料高の克服課題

日経ビジネス電子版

日産自動車三菱自動車・仏ルノーの3社連合は、2030年までに新型電気自動車(EV)を35車種投入することを柱とする長期プランを発表した。だが、足元では電池に使うリチウムが史上最高値を更新するなど原材料の高騰が3社連合の新たな門出に水を差す。自動車各社がEVシフトを進める上で、電池の量の確保に加えて安定的な価格で調達することも課題として浮上している。

3社連合は1月27日の会見で、30年までのロードマップ「アライアンス2030」を示した。ルノーのジャンドミニク・スナール会長は「3年前、3社連合は史上最悪の危機にあり信頼が欠如していた。それは過去のもので、今は(関係は)より深く、(意思疎通は)より速くなってカムバックした」と語った。

ロードマップで鮮明に示されたのがEVシフトだ。3社連合全体で30年までに5つの共通EV専用プラットホーム(車台)を活用して新車開発コストを抑えながら、新型EVを35車種投入する。電動化に向けて今後5年間で約230億ユーロ(約3兆円)を投資する。

35車種の1つとして日産が投入を予告したのが、小型車「マイクラ」(日本名マーチ)の後継車となる小型EVだ。5つのプラットホームのうちコンパクト車用の「CMF-BEV」を採用する。このプラットホームはルノーの小型EV「R5」などと共用され、24年から量産される。

こうしたEVシフトを進める上で欠かせないのが電池だ。

リーフ350万台分以上の電池を確保

3社連合は30年までにアライアンス全体でEV用電池の生産能力を年220ギガワット時(2億2000万キロワット時)に引き上げる。日産が現在販売しているEV「リーフ」(電池容量40キロワット時)換算で550万台分、大容量版の「リーフe+(イープラス)」(62キロワット時)にして約355万台分に相当する。

トヨタ自動車は21年12月、30年までに世界で年280ギガワット時の電池を確保すると表明している。日産などの3社連合もこれに迫る規模の電池の調達にめどを付け、世界的な電動化競争に加わる確固たる意志を示したといえる。

220ギガワット時の細かな内訳は公表していないが、「ルノーと日産のコアマーケットでは共通のバッテリーサプライヤーを選択する」としており、今後、電池メーカーとの関係強化に動く公算が大きい。日産の現在の生産能力は7.5ギガワット時で、30年にその17倍に当たる130ギガワット時まで増やす。

さらに、ロードマップ2030では電池のコスト削減目標にも言及。「共通のパートナー企業と協業してスケールメリットによるコスト低減を実現」する方針を示した上で、26年に現在比で50%、28年には65%削減するとした。EVの原価の3割を占めるとされる電池のコストを下げ、消費者が従来のエンジン車から買い替えやすくする狙いだ。

だが、どうやら安く大量に電池を調達するのは簡単ではなさそうだ。欧州などでのEVシフトを背景に、電池の原材料の値上がりが止まらない。

リチウムは史上最高値更新

正極材に使われる炭酸リチウムの1トン当たりの価格は、1月26日時点で1年前の6倍の5万ドル(約573万円)を記録し、最高値を更新した。米エネルギー関連調査会社のS&Pグローバル・プラッツによると「EV販売の伸びと炭酸リチウムの不足が影響している」という。

中国や欧州を中心にEVの販売が伸びており、同社は22年のEVの世界販売が21年比4割以上増の900万台を突破すると予測する。これに原材料の供給が追いついていない。

中国リチウム大手の江西ガン鋒リチウム業(ガンフォンリチウム)をはじめメーカー各社は、精製量を急ピッチで拡大しているが、中国国内での電力の供給制限の影響があるほか、旧正月(春節)を前にした保守・点検で工場を一時停止する事例も多いようだ。

足元の急騰には短期要因も絡んでいるため、今後の価格の動きを予測するのは容易ではないが、世界の有力自動車メーカーがこぞってEVシフトを打ち出す中、ここ半年弱の値上がりがごく短期で収束するとは考えにくい。自動車メーカーは原材料価格を企業努力で吸収するか、価格に転嫁するかといった判断を迫られる。

みずほ銀行法人推進部の湯進主任研究員は「今後も材料の値段が下がる要素はない。高値は続くのではないか」との見方を示す。その上で「一部の自動車メーカーは航続距離の長さで競うことを避けるだろう」と話し、EVに搭載する電池をあえて少なくとどめて車両価格の上昇を抑えることを選ぶメーカーが現れるとみる。

トヨタはリチウム権益を取得

日産などの3社連合も原材料価格について楽観視していない。ルノーのルカ・デメオCEO(最高経営責任者)は27日の会見で、「原材料価格の高騰は大きな問題の一つで、新たなリスクになっている。今後、正極材や負極材の使用量を削減し、こうした部材を使わない電池を設計できるかどうかも考えている」と話し、全固体電池など新しい電池の開発を強化する姿勢を見せた。

その上で「鉱山サプライヤーと直接交渉し、3社連合で供給契約することも考えている。こうして我々が(原材料を)プールし、日産がそこから調達するといった仕組みを考えている」と述べた。

自動車業界を見渡すと、すでに資源争奪戦の火ぶたは切られている。

EV最大手の米テスラは21年、オーストラリアの資源大手BHPやニューカレドニアからニッケルを調達する契約を結んだ。さらに22年1月には、米ミネソタ州の鉱山からニッケルを確保することで、鉱物資源開発会社のタロン・メタルズと契約した。中国の電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)は鉱山に出資するなど、材料調達の川上の領域で手を打っている。

もっとも、動きが速いのはトヨタグループも同様だ。トヨタが2割強を出資する豊田通商が10年ほど前にアルゼンチンでリチウムの権益を取得、20年時点で炭酸リチウム1万3000トンを生産した。現在、増産に向けてプラントの増強工事を進めており、23年には生産量を2.5倍の3万3000トンに引き上げる計画だ。

炭酸リチウムを鉱石から精製するプロセスでは、中国が世界シェアの5~6割を占める。大量の廃棄物が出るなど環境破壊への懸念があり、中国以外の国が積極的にやりたがらないという事情もある。原材料価格の安定のためには、リチウムイオン電池に代わる新電池の開発も待たれる。

走行中に温暖化ガスを排出しないクリーンな自動車として注目を集めるEVだが、真に環境に優しい自動車になるためには、電池材料の採掘や精製後にでる残さ物の処理、電池の製造過程における温暖化ガスの排出抑制、使用後の電池の再資源化・再利用など課題は多く残る。

さらに同クラスのガソリン車に比べて高い車両価格、充電1回当たりの航続距離、充電インフラの整備などのハードルも乗り越えていく必要がある。EVシフトの陰で自動車メーカーが向き合うべき課題は少なくない。

(日経ビジネス 大西綾)

[日経ビジネス電子版 2022年2月1日の記事を再構成]

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